第31話 把握

 レンヤ達が左右を岩壁で遮られた砂利道から抜け出して1時間程たった。

 生徒たちは緊張と集中で体感ではすでに3,4時間たったと感じるほどの疲労を浮かべ、それを表すかのように彼らの弾薬の残りは元の半分を下回っている。


「兄さん」


「んや。まだ、見つからない」


「アイナは?」


「ん。……紛れて、わからない」


「風香さんもですか?」


「はい。曖昧な気配しか感じられません」


 サユリ、レンヤ、アイナ、風香が言葉足らずな会話を交す。

 それが成立するのは彼らに深い付き合いと、ハンターとしての判断力があるから。サユリが何を心配し、ハンターとして何に注意すべきか、そういったことが彼らはわかっている。


「そろそろ出てくると思ったのですが……」


 ずっと隠れている強力なモンスターであろう存在のことだ。

 その未知のモンスターをサユリはより危惧する。誰よりも慎重に思考を巡らせるサユリは、生徒達とレンヤ達の銃弾などの消耗品の残りを考慮し、これからを予想してあらゆる展開を思い浮かべる。


(詳細の把握を優先させたとしても雑兵は余裕を持たせて残すはずで皆さんの戦闘から慎重になった場合は――)


 早送りしているかのようにサユリの頭の中で、映像と言葉が混じり合ったような、曖昧な光景が過ぎていく。未だ姿を見せないモンスターの思考を読み取っていた。


 レンヤ達は好都合の場所に苦労して陣取り、攻められる側の受け手に回っている。それは、少しでも有利に戦えるようになる反面、逆に逃げづらくすることにもなるものだ。つまり、ハンター側に余裕がないということを示していることになる。

 なのに、未だに攻めてこないということは、ハンター側にまだ何か手があるのではと未知のモンスターが想像しているためだとサユリは考える。それは、そのモンスターが、モンスターらしからぬ慎重で十分な知恵と理性を持ち、脅威度が高い存在であることを認めているということになる。

 というのも、そのモンスターは未だ姿を隠していることからからわかる。

 大した知恵がなければレンヤ達が守りに入ったのなら数でゴリ押ししてくるだろうし、レンヤがモンスターの群れに突っ込んで誘っていたがつられていなく、さらに明らかな弱点であるバス組へ罠を警戒してか奇襲を行う気配もない。そして何より、未だにレンヤ達に気配を掴ませていないがもんだいである。


 そんなモンスターらしからぬモンスターが弱いわけがない。

 だから、サユリも慎重になって思考する。


 まず、サユリは今もなおレンヤ達が戦っている雑多なモンスターが全滅するまで待つことはないだろうと前提を立てた。そうなってはハンター側にも逃げるチャンスができ、何より数の有利も無くなる。わざわざ把握できていない装備の消耗に賭ける必要は低い。


 そこからそのモンスター側の状況イメージする。

 今まで控えめだったレンヤをわざわざ前に出したのだ。突然出てきてモンスターを目の前で倒されれば焦るはず。いきなりのイレギュラーがハンター側に場の余裕を持たせているとなれば、そのモンスターの慎重さが仇になる可能性を意識させるのは当然だだからサユリは、待ち伏せで銃撃しても良さそうなこの場面でレンヤを前に出している。


 ならなぜ、その未知なモンスターがいまだに出てこないのか。なぜモンスターは慎重になっているか。

 それは何を待っているのかという疑問につながり、考えるまでもなくハンター側の消耗を狙っていることがわかる。


そして、その中で一番のイレギュラーは誰かといえばレンヤ以外にいないだろう。


 サユリは徐々にとモンスターの思考や状況を読み取っていた。


「…………やはり、兄さんですかね」


 わずかの沈黙の後、未知のモンスターが未だ出てこないのはレンヤがモンスターを狩りまくったせいだとサユリは結論づける。

 実際にレンヤは車から飛び出してからすでに2回のブレードを交換している。このことを見ていればあと1,2回で替刃がなくなることは想像できることだろう。

それを待っているのだとサユリは結論付け、そしてそのモンスターの戦闘スタイルを予想した。


「……え!? おれっ、の! せいなの?」


 サユリの無意識なつぶやきに、戦闘中のレンヤが反応する。

 モンスターの群れの中でブレードを振り続けるレンヤが、斬戸惑いと期待の声を出した。

 期待は、サユリの考えがまとまったことに気がついたためである。


 もちろん、気がついたのはレンヤだけではない。


「ん。……張り切りす、ぎっ」


 アイナもだ。

 中型車両のルーフ上でドンッと低くて重たい銃声を響かせながらでも、アイナはレンヤをからかうチャンスをしっかりと逃さない。

 いつも通り抑揚のない声の中に、面白そうな雰囲気を含ませる。淡々と引き金を引きながら。


「そうね。調子乗りすぎよね!」


 助手席のモニターを見ながらルーフ上左右横2つの軽機関銃、それを遠隔操作しているヒナコも便乗する。

 モンスター相手に乱射して、次々とモンスターを倒していく中で、ヒナコは珍しくテンションが上がっていた。


「…………」


 それは彼氏のタクミが若干引くほどである。

 首から下は車を手足のごとく操り、上の顔は苦笑いを浮かべていた。


「……それで、どうしますか?」


 サユリなら既に作戦を立てているだろうと、風香は詳細をすっと飛ばして内容を聞く。

 風香は走り回る車の中でバランスを崩すことなく、強靭な体幹と優れた技術で新型アサルトライフルを操っている。会話を聞きながらでも、的確にモンスターを間引き続けていた。


 ただ、真面目に集中しているモンスターを撃ち続けているように見えるが、口元に笑みが浮かんでいるのが隠しきれていない。

 よく見れば、わずかに頬がピクついているのがわかる。


「はい。モンスターを誘い出します」


「ん。……そうなる、よね」


 このまま未知のモンスターが出てくるまで待っていては通常よりも警戒することになる疲労してしまう。

 加えて、他所からモンスターがよってくる可能性はゼロではなく、さらに帰還することも考えないといけないため、余裕があるうちに倒しておきたい。

 かと言って、未知のモンスターを逃せば今後の脅威度は増すことになり、何よりそのモンスターの素材報酬が手に入らずに、収入が微妙になる。


 誘い出すことはレンヤ達の共通認識となる。


「何したらいい?」


 そして、レンヤがその役の中心を担うことは、レンヤにも想像がついた。

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セカンドライフ 無銘 @R_ueda

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