第30話 驚き

「彼は何者なんだ」


 自分よりも遥かに年下の青年であるレンヤが、モンスターに突撃して蹂躙する姿に高木は驚愕して思わず口に出した。

 横で聞いていた生徒たちも気持ちは同じである。


「手を止めないでください」


 驚きで無意識に攻撃を緩めていた高木と生徒たちは思い出したように銃を構え直して攻撃を再開する。それでもまだ、レンヤに対する疑問は彼らの頭に残ったままである。


「彼は接近戦を特に得意とする上級ハンターです。近接戦闘能力なら国内でトップクラスなので、気にしなくて大丈夫です。それよりも誤射しないように注意して、目の前のモンスターに集中してください」


 バスに乗る彼らに少しでも集中してもらうために、レンヤの簡単な情報をサユリは教える。

 眼の前の戦闘を見させられれば、自分たちと年齢がさほど変わらないレンヤが上級ハンターということに生徒たちは理解するしかない。

 だから生徒たちは、レンヤを含めた彼らは天才の集まりなんだと嫉妬しながら、上級ハンターだからできることなんだと納得する。


 だが、それでも、まだ理解が足りてない。


(誤射しないように、か。……そもそも誤射されること前提に動いてるだろうに)


 髙木は経験でレンヤの動きから、レンヤが自分たちの射撃に注意してることがわかった。


 その動きは、別に髙木や生徒たちを注視しているわけではない。

 一見するとレンヤは彼らを気にせず、銃口が向く付近であってもお構いなしに突っ込んで、モンスターと大立ち回りしているように見える。

 だが、感知ができる見るものが見れば、近辺に近づいても彼らの射線上に自ら入り込んむことがないことがわかる。見極めてちゃんと避けているのだ。

 それだけではない。さらに、レンヤの方に射線が近づくと移動して避けたり、足の向きやを変え即座に避けられる姿勢を取っている。

 それは、射線のブレが大きく戦闘経験も少ない生徒たちには気が付かない動きだ。実践経験が長い高木だからわかることだ


 だからこそ、元ハンターである高木は疑問が残る。髙木の視線はチラチラとレンヤの装備に向いている。

 通常なら上級ハンターになるまでの間に十分な金銭が手に入るため、見合った武装を身に着ける。

 だが、レンヤのは見て分かる通りの量産品である。刃物の類の武器は銃よりもマイナーだ。レンヤのブレードも一応は高価な部類に入る。だが、それを考慮したとしてもレンヤのブレード上級ハンターが身につけるものには役不足であると高木は感じる。

 それだけではない。

 もともと追われていた生徒たちと髙木自身と、自分たちを救うために助けに来てくれたレンヤ達6人、この2グループが完全に分かれて行動していることにも違和感をもつ。

 生徒たちと彼らでは実力が離れているのだから、彼らがモンスターを引き付けながら遊撃隊としても動き回り、そのために自分たちでまとまっていることは高木も理解できる。理解できるが、どこか違和感のような、不安のようなものも、高木は抱いていた。

 だが、考えるのは今ではないと、目の前のモンスターに集中する。怪しくても自分たちを害する存在ではないこと、助けてもらっていることをわかっているため、髙木は疑いを無理やり頭の隅に追いやってトリガーを引く。


 モンスターが壊れた蛇口から吹き出る水のように、崩れて盛り上がった左右の岩壁の間から溢れ出る。

 そのモンスターをレンヤのブレードが毎秒1体近いペースで次々と斬りつけ、タクミの運転であっちこっちと絶妙な位置取りなところに移動する中型車両がモンスターを惹きつけ、風香の新アサルトライフルとヒナコが操作する車両装備の軽機関銃が物量の弾幕で蹴散らし、アイナの新対物ライフルが正確で早い射撃でレンヤ達のアシストし、サユリが全体を把握し支配する。

 生徒たちと高木が眼の前のモンスターに集中し銃口を向けて撃つなかで、自分たちの無力さを実感させられていた。

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