第29話 レンヤが動く

「アイナ! 一旦、戻ってください!」


 バスと中型車両が並走し、左右を岩壁で遮られた砂利道を走ることは20分と少し。

 もうすぐ拓けた広場に出るため、サユリはヒナコを呼んだ。


「ん。……すぐ行く」


 バスのルーフでオリジナルの対物ライフルを伏せ撃ちしていたアイナは、すぐに体を起こしてバイポットをしまい、テキパキとライフルを背負ってレンヤが運転し、緩やかにカーブしながら揺れる中型車両にパパっと乗り移る。

 アイナが乗り移ってすぐに、左右の岩壁の終わりが見え拓けた先が見えた。


「タクミさん、奥に先に行ってバスの右側をモンスター側に向けてに横付けしてください」


「了解」


「兄さんが、横付けし終わったらタクミさんを回収しますので」


「まかせろー」


「回収って、あんたねぇ……」


「風香さんは機関銃を撃ち切ったら、銃座ごと片付けていただいて、中に戻って援護をお願いします」


「はい。任せてください」


 などと、サユリは矢継ぎ早に指示を出す。

 他にもサユリは生徒たちや引率役のである髙木に指示を出す。生徒たちは神里を中心にした攻撃体制をとるように、高木には運転席に戻ってそこから援護するように、などだ。


「では、みなさん。集中を切らさずに、後半もお願いします」


 そうこうしていると、続いていた左右の岩壁が途切れる出口が見え、サユリが主に生徒たちへと檄を飛ばす。

 バスと中型車両を運転するタクミとレンヤの二人はアクセルをさらに踏み込んで若干加速させ、狭く不安定だった砂利道をぬけだす。


「行きます!」


「ドーン」


 するといつの間にかロケットランチャーを握っていた風香とアイナが同時に打ち込んだ。

 風香の合図とアイナの間の抜けた声を打ち消すように着弾音を響かせ、ワンテンポ遅れるように左右の岩壁が崩れる音が鳴る。混ざり合った灰色の煙と砂煙がすぐに晴れると、岩壁は砂利道に1メートルほど積み上がっていて、先頭にいたモンスターの散らばった死体と混ざっている。左右の岩壁もあって、先頭にいたモンスターの多くを倒し、時間稼ぎに十分な攻撃へとなった。



 出口から300メートほど距離を取ったところで、横付けにされたバスから、中型車両を運転するレンヤがタクミを回収する。タクミが無事に乗り移りルーフハッチから車内に降りてきたのを確認したレンヤは、即座に座席を倒して後転して運転席を空け、と同時にタクミが空いた運転席にスルッと滑り込んだ。


 ゴゴン!!


 その時に大きな音がなり、砂利道からの出口を塞いでいた岩の瓦礫が崩され、モンスターが流れ出す。

 すでに、銃口を出さないようにバスの右側の隙間からアサルトライフルを中心とする各々の銃を構えていた生徒たちと髙木と、中型車両で車内がいそいそとしている間に新アサルトライフルを持つ構えていた風香が銃撃を始める。

 しかし、その迫りくるモンスターの流れのほうが速い。徐々に徐々にと、モンスターとの距離が縮まっていく。


(……抑えきれない。……何より、生徒に焦りが出てる)


 高木がチラッと横の生徒の方を見ながら思う。モンスターに距離を徐々に詰められている現状に、今まで大人しくサユリの指示に従っていた高木にすらも不安が出ていた。


(まずいっ)


 ただ、それは仕方がなかった。

 高木の経験と知恵では、装備に心もとないこの状況で打開する方法はないのだ。

 昔と今。ハンターの質がどれだけ上がっているのか。上級ハンターがどういった存在なのか。

 本当の意味で、現役を退いている高木にはしるはずもなかった。


(なっ!)


 だから驚く。

 アサルトライフルを撃つことに集中していた高木の目に、向かって左側からモンスターに50メートルほどまで接近した中型車両からいきなりレンヤが飛び出してモンスターに突撃したのだ。

 レンヤの装備は、左腰に3つの替刃も入っている大きな鞘に収められたブレードと大型ナイフと投げナイフが3つ、右腰にアイナが設計した大型ハンドガンとそのマガジンが4つのみ。端から見ても軽装に加え、メインウエポンが銃ではなく刃物。その刃物も量産品で特別なものではないことは丸わかりだ。

 ここが昔の戦場なら、敵から頭のネジが外れた馬鹿な男と思われてから、ミンチにされておわりだろう。

 だが、異界で戦ってきたレンヤは人間とは思えない身体能力を有している。眼の前のモンスターを一太刀で次々となぎ倒していった。

 アサルトライフルからの銃弾を4,5発喰らわせてようやく倒せるようなモンスターを、たった一太刀で倒せるのだから討伐スピードは圧倒的だ。

 さらに、囮としての役割も担っている。

 先程まで、バスに一直線だったモンスターがバラけ始め、生徒たちと高木に精神的な面も含めて余裕が出てくる。


「彼は何者なんだ?」


 高木が思わず口に出す。横では生徒たちの顔にも驚きが現れている。

 特に生徒たちで一番能力が高い少女の神里の目には驚きと羨望の色が映し出されていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る