第28話 誘い込み2

 バスと中型車両は上下左右を揺らしながら、4台がギリギリ並べるかどうかの幅の砂利道を並走し、その2台の車に追いつかんと沢山のモンスターが迫っている。

 砂利道は緩やかにうねっていて、左右の3階建ての建物ほどの高さのある岩壁が遠くの先を隠している。左右の岩壁と先が見えないせいで、空気に押さえつけられているような窮屈さの幻覚を持たせ、後ろに密度高く迫る沢山のモンスターは、見るものに純粋な恐怖をもたせる。

 そんな中で、2台の車は時速50キロほどのスピードで走っていた。


 バスはアイナと風香に補助されてバスに乗り移ったタクミが、中型車両はバスから戻ってタクミと交代したレンヤが運転をしている。

 そして、神里たち生徒と引率役の高木がバスの後部や側面の窓からアサルトライフルなどで、アイナがバスのルーフ上からオリジナルの対物ライフルで、風香が中型車両のルーフ上に設置された重機関銃で、ヒナコが中型車両のルーフ上の左右側面付近の軽機関銃2丁で、それぞれの銃火器で迫りくるモンスターを攻撃していた。


 レンヤとタクミが中型車両の運転を変わり、タクミと高木がバスの運転を変わったのには理由わけがある。


 バスと中型車両は、幅に余裕が少なく不安定な道を、モンスターに追いつかれないように走行と攻撃をしながら移動するために並走しなくてはならない。バスで不安定な道を速度を維持しながら走行させるためには技術がなくてはならず、狭い道を並走するために息を合わせる必要があるのだ。さらには少しでも攻撃を増やすために引率役である髙木にも攻撃に参加してもらうためでもあった。

 また、髙木はもともとランク49のハンターだ。

 まだハンターという職がマイナーで今ほどきっちりと基板が整っていなく、手探りでやっていた時代からハンターをしていた世代だけあって、経験は豊富だ。今は引退して教える側に回っていたが、ランク49までいった十分に実力のあるハンターであったことは変わらない。くわえて、生徒たちの面倒も見れるとあって、運転をさせているのはもったいないと判断された。

 逆にレンヤが中型車両の運転にいったのはフルオート系の銃が苦手で近接戦闘向けのレンヤでは、壁で範囲を狭まれたモンスター相手にはあまり役に立たないためである。

 範囲が狭まったことでアイナの狙撃は1人で十分だし、ヒナコの機関銃も加わるため、レンヤが狙撃を続けるよりも、生徒を補助する事もできる高木が攻撃を行えるようにするほうがメリットが大きいということである。


「兄さん、タクミさん。あと4,5分で見えます!」


「了解!」


「ん!」


 集中しながらも若干の余裕を見せるタクミと、集中していることが見て取れるほど集中しているレンヤが答える。

 まだ、運転のために前方へと向けている2人の視線の先は、緩やかにうねる砂利道に沿った左右の岩壁が隔てて見えない。

 サユリはその先が見えない状況から、あと4,5分で開けた先が現れると伝えた。


「……半分以下になった、かな」


「はい。順調です」


 サユリのそれを通信機器で一緒につながっているアイナと風香もみみにし、冷静に状況を確認する。車の振動をものともせずに銃撃していたアイナと風香の言う通り、モンスターの数はここまでの道のりで半分以下にまで減っていた。



 だが、3人が、特にレンヤが感知した異様な気配を持つモンスターは姿すら見せていない。

 それはハンター組のレンヤたち3人はもちろん、サポーター組のサユリら3人もわかっている。


「アイナ、風香さん。何か動きはありますか?」


「んや。……変化なし」


「はい。まだ遠くに感じます」


「……ありがとうございます」


 サユリは少し考えるように返事する。


 サユリの一番の懸念点は情報端末の探知機器では捉えられていない、レンヤがはじめに気がついたモンスターである。

 レンヤがはじめに感知したとき、気配は薄くぼやけるようで分かりづらかったのに、畏怖を抱かせるような強い力を感じさせた。今はハンター組3人は気配を捉えているが、霧がかかったようにぼやけていて、それがさらに異質さをもたせている。

 そんな矛盾したような異質の気配を持つモンスターが、ハンター組の3人が強く警戒したほどである明らかな上位モンスターが、まだ姿を見せていない。


 サユリはレンヤ達を信頼していため、そのモンスターの存在を確信いている。

 モンスターの気配が感じにくいとき、3つのパターンがある。モンスターが弱すぎてわからない場合、意図的に隠している場合、外的要因などが気配に干渉している場合、である。

 サユリは十中八九で3つ目に当てはまると思っている。ハンター組が警戒するほどで、大量にモンスターがいるのにわざわざわざ気配を隠す必要がないと考えたからだ。


 だからサユリにとって問題は、そのモンスターの知性の高さがわからないところであった。


 モンスターは基本的に人を襲うという本能に従い、人が目に付けばお構いなしに攻撃してくる。まるで深い怨みで壊れてしまった獣のようで、だからこそハンターは誘導などがしやすくてハンター側が有利に戦いやすくなっている。

 だが、強力なモンスターは別である。理性の片鱗を伺わせ、思考を元にした攻撃をしてくる。そのくせ人を襲わないという選択しはなく、理性的になって戦わないという手段が取れないから、余計にたちが悪い。


 これを確かめるためにサユリは、今通っている砂利道までに移動する際に、蛇行したり、あからさまな誘導する行動を取っていた。

 砂利道に入る判断も、そのモンスターが急襲することを恐れてのためでもある。左右の高い岩壁を越えるのは容易ではなく、加えてハンター組が感知している。無理に岩壁を乗り越えようとすれば当然に気が付くわけで、そうすれば付知能の高さがわかってくるというわけである。


 つまり、今までモンスターの群れ後部で大人しくしているそのモンスターは知能が高いという結論になる。誘いには乗らず、前方のモンスターを捨て駒にしてハンター達が消耗するのを待っているわけである。

 学生組はもちろん、レンヤたちも主な武器は銃火器である。攻撃するために必要な銃弾は有限で、なくなれば当然に攻撃ができなくなる。そうでなくても銃を撃つという行為は銃の反動を受けることで筋力を使い、命中させるために集中力も必要で、それだけ消耗してしまうのだ。


 自分たちが多いからと油断せずに、確実に追い詰めようとするほどの理性を持ち、人とは違って倫理観がないから生け贄にすることにためらいがない。


 それだけ知性を持つモンスターにであると結論づけ、サユリは顔を強張らせたわけである。


 だから冷静に考える。

 自分の武器を理解しているサユリは、レンヤたち家族6人の能力を信用し、信頼し、生徒組に指示を出しながら、モンスターを討伐するために道筋を組み立て続けていた。狩る側だと思っているモンスターに、お前たちがかられる側だったのだと思い知らせるために。

 1度、運転することに集中しているレンヤを見たサユリは、情報端末の操作を再開した。

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