第27話 誘い込み
オフロード走行ように作られた異界専用のバスと中型車両が並行し、連続する銃の射撃音を響かせながら、枯れた薄黄土色の地面を走行する。
バスでは後部の窓や左右の窓から17個の銃口をのぞかせ、ルーフ上に大口径の対物ライフル2丁、中型車両ではルーフ上に重機関銃1丁がある。その全てから撃ち出される銃弾は、車の後方から車に追いつかんとするモンスターに向いている。
大部分のモンスターは落ち武者のような、くたびれた鎧兜を身にまとい、刀や薙刀、火縄銃のような武器を持ち、兜には鬼のような一本角が突き出ている。多くはびこる雑兵ですら馬鹿にはできないような雰囲気を醸し出していた。
そんなモンスターが動きにくそうな装備にも関わらず、時速4,50キロで走る車に追いついてきている。鎧兜で刀や薙刀、火縄銃と長い物を手にしているにも関わらず、腰をひねり、大きく早く足を動かしていた。
そもそも鎧兜を纏いながら腰を思いっきり捻り、足を大きく動かすのは人ではできない。それは鎧により動きが制限され、無理に動かせば身体に負荷がかかたり、鎧の締付けがほどけてしまうためだ。
だから普通であれば、肩を安定させて腰を捻らず、腕は振らずに手のひらで
つまり、鎧兜を身に着けてのモンスターのように走ることは人にはできず、だからこそ異様に見えてより恐怖を押し付けられるのだ。これは鎧も本体の一部であるモンスターだからこそだろう。
高速で迫ってくる沢山のモンスターを開けた場所で銃撃するのは的が広くなり、回り込まれてしまう可能性もある。
だから有利になり得る場所にサヨリの指示のもとに向かっているのだが、追いつかれるわけにはいかず、かと言って速く車を走らせてしまうと全体モンスターが誘導できずに下手に近道をされてしまう。そのため、群れの先頭に銃撃することで迫りくる勢いを弱めせながらモンスターを誘導し、さらに少しでも数を減らさせる。
そのことは生徒たちもわかっている。わかっているが、冷静ではいられない。
時速4,50キロの車に追いつかんとする数え切れないほど多くのモンスターの群れ。さらに群れの雑兵と呼べるようなモンスターでさえ、生徒たちが今まで相手してきたモンスターよりも防御力も強さもあのだ。
武器の能力は少し心もとなく、走る車の中であること、なにより緊張と焦りのせいで、弾道がバラけてしまい当てることができない。
だから生徒達は、余計に実感してしまう。自分たちと、アイナ、レンヤ、風香との実力差を。特に、生徒たちの中では抜き出た実力を持つ神里はより深く実感していた。
(たった3人なのに!)
レンヤは遠距離攻撃持ちや防御が硬いなどの脅威度が高いモンスターを索敵し、スポッターのようにアイナに伝え、合間に狙えるモンスターを対物ライフルによる狙撃も行っている。レンヤの感知能力も使って的確に索敵し、感知で認識しているアイナの銃口の向きを元に動かす方向を必要最小限の言葉で伝えていく。
アイナはレンヤが指摘したモンスターを優先しながら目に付くモンスターを、アサルトライフルを撃っているかのように一瞬の間隔で対物ライフルを撃ち続け、次々と倒している。銃を向けながら探知で補足すると同時に急所も見極めながら、100から600メートルと幅広い距離にいるモンスターを狙うことによるスコープのレティクルと弾道のズレを感覚で瞬時に判断し、さらに車の振動をものともせずに、スコープに映すと同時に引き金を引いて精確に急所を撃ち抜いていく。
風香は中型車両に固定された重機関銃でモンスターを撃ちながら、生徒たちの援護までこなしている。車の振動と、反動で暴れる銃口を体全体で制御し、機関銃のバレルが熱を持ちすぎないように自分のアサルトライフルに持ち替えたりしながら、モンスターの群れが広がりすぎないように、迫りすぎないように、生徒たちも気に掛け、車に迫り過ぎないようにモンスターの牽制を行っていく。
たった3人なのに、18人いる生徒よりも圧倒的な働きを見せている。
そこには学生と上級ハンターとの大きな格の差があった。
「兄さん、もうすぐ入ります」
「おけ。すぐ戻る!」
サユリの連絡を耳の無線機にもなるイヤープラグから聞いたレンヤは、対物ライフルを伏せ撃ちしていた姿勢をすぐに解き、膝立ちに起き上がって対物ライフルを背負う。
「んじゃ、行くわ」
「ん。……また後で」
「おう」
いつの間にかバスに近づいていた中型車両にレンヤは飛び移る。中型車両に移ったレンヤが前に目を向けると、3階建ての建物ぐらいの岩壁2つが並行して続いているのが映った。
サユリが誘導していたバスと中型車両が向かうすぐ先は、2つの岩壁が左右を隔てるように連なる、枯れ果ててしまった川の跡地のような砂利道であった。
左右が隔たれた砂利道は700メートル程続き、その奥は池の跡地のように大きく開けたところへと出る。
自分たちよりも圧倒的に多いモンスター相手に、回り込まれるず、的を絞るためにサユリが見つけ出した場所であった。サユリがレンヤにもうすぐ入ると行ったのこの砂利道に入るという意味だ。
「ただま」
「おかえり。通れますか?」
「大丈夫で」
中型車両に乗り移ったレンヤはルーフ上でトップハッチから半身を出して機関銃を握っていた風香と声を交わす。
「」
風香がハッチ前方によって、後ろに空いた隙間から車内にレンヤは、手を出しているサユリに対物ライフルを先に受け取ってもらってから車内に入る。
「お願いします、兄さん」
「まかされよ」
対物ライフルを受け取ったサユリはそれを車内の隅に置いて、レンヤは運転席に移動した。
「「お疲れ様」」
「おう。そこそこ命中させたで」
「それは良かったわ」
「うん。じゃあ、その調子でこっちの運転もお願いね」
タクミが運転席のシートを後ろに下げて立ち上がり、空いた席にレンヤが座ってタクミと入れ替わる。
「中型車両は久々だからちょい不安だ」
「ちょっと。転倒させないでよ」
「冗談だ。ちゃんと覚えてるって」
「まぁ、レンヤは運転上手いから大丈夫だよ」
「まぁ、タクに教わったもんね」
「おっと。いちゃつこうとするんじゃない」
「はいはい。じゃあ行ってくるね」
「おう」
「気をつけてね」
後ろに下がったタクミはレンヤが戻ってきたのとは反対に、ルーフのハッチから外に出て、バスに乗り移った。
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