青と夏

真朱マロ

第1話 そのいち 早朝ランニング

 七月の朝は太陽に力があって、まだ六時なのに眩しかった。

 空気に夏の気配が満ちて、家を出て二〇分も走れば汗がしたたり落ちてくる。


 定番のランニングのコースは、ダラダラとした上り坂が山肌をうねるように続き、緩やかに山頂付近を回ってから、曲がりくねった下り坂で市街地に戻ってくる。

 安定したペースで俺は走り続け、上り坂も中盤を過ぎたころ、見慣れた背中を発見してホッとする。


 今日も沢口は走っていた。

 ポニーテールが勢いよく跳ねまわり、快活な彼女の性格そのものだ。

 俺と沢口は同じクラスだが、接点はこの早朝ランニングしかない。

 それでも、戦友みたいに思っていたから、見つけると嬉しくなる。


「オハヨ」と追い抜きざまに小さく挨拶する。

 返事は期待してないが、毎度「オハヨ!」とやけくそみたいな大きな声が背を叩く。


 俺は立ち止まらない。

 そして、歩幅を広げてグンと速度を上げる。

 沢口もきっと、悔しがりながら速度を上げているだろう。


 彼女が追ってくる。俺は彼女が追い付けない速度で逃げ切る。

 そして学校で会っても、早朝ランニングについてはお互いに知らんぷりだ。


 それが毎朝のルーティンで、恒例行事。

 だけど特別な日だけ、俺は自動販売機の前で待っている。


 今日は冷えたスポーツドリンクを二つ買って、沢口を待つ。

 奇妙な懐かしさに、空を見上げた。


 初めて彼女と話した日も、こんな風に底抜けに晴れた朝だった。

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