第8話 実際にやってみてね!
「わたしが何を思い浮かべているのか、様々な質問をして推理していってほしいっす」
「これのどこが交渉訓練なんだ?」
「交渉の極意とは! いかに自分に有利な情報を聞き出して、それを武器にするかっすよ!」
もっともらしいことを言っているが待ってほしい。
パートは今、ターバンを巻いて得意げな顔をしている。
青い上下の服ダボダボすぎるだろ。
こんな風に思考があっちいったりこっちいったりする状況で、そんなことできるか!
いや、逆にそんな状況でもできるようにしてくれているってことか!
なるほど……適当なようで、深いな。
「パート。君の言うとおりだ。
やろう。いや、やらせていただきます、先輩!」
「先輩! 先輩っていい響きっすね!
丁寧な口調はきらいっすけど、先輩ってこれからも呼んでほしいっす!」
前にも言ったがここでも言わせてもらおう。
口調は後輩系なのに実際は先輩……アリだ。
「初回っすからヒントあげるっすね。
わたしは動物を思い浮かべているっす」
「動物か……なら、まずはペットかどうか教えてほしい」
「うーん……たぶんそうっす」
なるほど、一般的なペットではないが、それでもペットとして飼われているってくらいか?
「じゃあ、4足歩行か?」
「たぶん、はいっす」
サルとかじゃなさそうだな。
「ネコ科か?」
「違うっす。この段階でネコを聞いてくるってことは、お兄さんはネコ好きっすか?」
「あ、ああ。そうだ」
逆に俺が暴かれてどうする。
「毛があるか? フサフサ的な」
「あるっすよ。なんすか、その質問」
確認しておきたかったんだ。
毛があるってことは
「ワンワンって鳴くか?」
「犬かってことっすかね? 違うっす。なんか聞き方回りくどくないっすか?」
犬でもネコでもないか。
そりゃそうだよな。一般的なペットじゃなさそうだったし。
「じゃ、じゃあ。ネコより大きいか?」
「ネコ基準なんすね。いいえっす」
「じゃあ長い耳があったり?」
「ないっすね」
うーん……? 小動物っぽいけど、ウサギじゃないんだな。
「それは古代カンブリア紀にいた生物ですか」
「お兄さん!? いいえっす! 急にどうしたんっすか!?」
俺だってなあ……こんなこと聞きたくないんだ……。
のっぴきならない事情があるんだよ……。
だが、今の質問でパズルのピースがはまったぜ。
核心に迫る一撃をくらえ!
「リスとかネズミみたいなげっ歯類か?」
「!? は、はいっす!! え、えぇ……」
「そしてしっぽが長いだろ?」
「はい、そうっす……」
「飛ぶよな?」
「っす」
決まりだな。
「気が強いか?」
「???」
「時速100km以上で走れるか?」
「どっちもいいえっす。あの、何の可能性をつぶしているんっすか……?」
悪いな。俺にもわからん。
「念押しするが、空を飛べるんだよな?」
「そうっすよ」
よし、これで本当に答えは出た。
「モモンガじゃないか?」
「正解っす! 途中わけわからなかったっすけど、わりとすぐにできたっすね!」
ああ、脳内ア〇ネイターをフル稼働させたからな。
「最初にしてはかなりすごいっす! 訓練を重ねていけば一瞬で求める情報を引き出せそうっすね!」
ほめられて心地いい……。
こんな訓練だったら何回でもやってしまうな。
いつの間にか元のコンビニの制服に着替えた先輩と一緒に、次の訓練会場に移動した。
そこは、学校にある体育館をもう少し広くしたような場所だった。
でもバスケットゴールとかはなかった。
「ここでは、運搬人にとって一番重要といっても過言じゃない、逃走訓練を行うっす」
ついにきたか。
正直、運動神経と体力には自信ないが、そこを鍛えるための訓練だからな。
気合を入れていこう。
「いい顔っすね。じゃあまた準備してくるっすから、ストレッチしててくださいっす」
ストレッチすごく大事。
準備体操もなしにいきなり動くと、あっさりケガとかをしかねない。
油断ならない肉体なのだ。
しかしまあ、こんなに広い施設があるのに、どこにも人を見ないな。
ほとんど現場にいるんだろうか。
あと、試験を突破したとはいえ、トップの人間にあいさつもなしでいいのか……?
あれか。こういう秘密組織はトップの顔が割れちゃうとまずいのか。
相変わらずしっかりしている組織だ。
フリータだけは例外だが。
「お兄さんお待たせしたっす。中央に移動してほしいっす」
やる気が出る声だ。
「ルールは簡単っす! その空間の中で制限時間いっぱいまで鬼に捕まらないように逃げるだけっす!」
おー、単純な体力勝負っぽいな。
「一定時間経過するごとに、鬼は増えていくっすからね。周囲を見る力も重要っすよ!」
さっきよりよっぽど訓練らしい訓練だな!
まるでテーマパークに来たみたいだぜ。
テンション上がるなぁ~。
俺がウキウキしていると、壁の一部がウイーンと上がった。
そういえば鬼って誰なんだ? 他の人がやってくれるのか?
「先輩! 鬼って誰だー?」
「そこから登場するっすから、刮目してほしいっす!」
心なしか先輩も声が弾んできたな。
ちゃんと目を見開いて、登場予定場所を
ウサ〇ン・ボ〇トとか出てきたらどうしよう。
まずはサインもらうか。
お、姿が見えてきたな。
身長は俺と一緒くらいだ。
なんだ……なんかヒラヒラした服着てるな。ワンピース?
しかもなんか平行移動してるな……。
足……ないな……。
そう。と言われてもわからないと思う。
端的に言い表すならば、
空中をふよーっと浮きながら。
しかも何だあのファンシーな顔。
やけに上手なのが妙に腹立たしいな。
「さあ! お兄さんは私のてるてるちゃんズから逃げ切れるっすかね!!」
「先輩のなんかい!」
わけがわからないよ。
俺今から謎の力で浮いている人間大のてるてる坊主と鬼ごっこするのか!?
「訓練開始っす!」
「心の整理をさせてくれえええええ!」
私を密輸しなさいよっ! なで鯨 @Whale_nade
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