交響曲第5番
「おはよう、お前ら。ほら、さっさと席につけ。
イヤホン越しに聞こえてきた担任の声に顔を上げると、
どうやらだいぶ時間が経っていたらしい。
「よし、じゃあ出欠とるぞ。相沢、相澤、會澤、藍沢──……」
気だるげな声で出欠確認をする担任を尻目に、いそいそとイヤホンを外してMDウォークマンをバッグに仕舞っていると、ふと1枚のMDディスクが目についた。
表題はルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの【交響曲第5番】。
(運命……ねぇ)
──小・中学校と友達はおらず、高校デビューにも失敗した僕には、学校という場所は苦痛でしか無い
それでも、僕はきっと、今もまだ。
僕のようなクラシック音楽を愛して止まない人との【新たな出会い】というものに、心のどこかで期待しているのかも知れない。
「よーし、お前ら全員揃ってるな。今日は連絡事項も無いから、さっさと帰れ。解散!」
時間は飛んで、今は放課後の
『合コン♪合コン♪』と口ずさみながら、
「ねえ、古倉君。ちょっといいかな?」
ビクリッと肩がハネ上がる。
……断じて
ただ、夏君以外のクラスメイトに久々に声を掛けられ、ビックリしてしまっただけである。
「え、と……委員長、どうしたの?」
声のしたほうに顔を向けると、そこに立っていたのはクラス委員長である
腰まで垂れた三つ編みお下げと、大きな丸眼鏡。
化粧っ気の無い色白い顔に、薄く散った
規定のブレザーをピシッと着こなすその姿は、今どき珍しい文学少女のような出で立ちであるものの、入学早々うわついているクラスメイト達をまとめ上げ、それでいて僕のようなボッチにすら配慮を欠かさず、満場一致でクラス委員長に
なお、苗字や名前で呼ばれるのを嫌がるので、みんな委員長または花ちゃんと呼んでいる。
そんな彼女が今、困ったように眉を八の字にして僕と
「あのね、ウチのクラスでまだ入部希望届けを提出していないのは古倉君だけなの。もう提出期限ギリギリだから担任の
「そう、なんだ。うん、わかった。今週中には必ず出すよ」
どうやら、僕のせいで委員長に迷惑を掛けてしまったようである。
要件を伝えて遠ざかる委員長の背中を見つめ、僕は無意識にため息をついていた。
妙音高校は【青春を謳歌せよ】の校訓の
それは、全校生徒部活動
とはいえ、活動報告さえしていれば幽霊部員になっても黙認されているのが実情だと、夏くんは言っていた。
はてさて、今日まで『バイトで忙しい』という言い訳を
入部希望届けに適当な部活名を記載して提出する手もあるが……
「はあ……しゃーない」
チラリと時計を見てみると、
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