ラジオ・ジャック・オーケストラ①



(ああ、憂鬱ゆううつですわ……)


昼下がり、教室の一角で。


わたくしは執事の羊が用意した昼食に手もつけず、ものゆうげな顔をして、ため息を零しておりました。


淑女たるもの、人様の前でそのような態度を見せるべきでは無いとわかっていても、この悩み事が解決しなければ止まないのだと、またため息。



「ああ、天神音あまがみね様がため息を零しておられますわ……そのお姿も尊い、尊いですわ」


「まるで天女もかくやというそのお姿、網膜に焼きつけておきませんと……」


「何にお悩みになっていらっしゃるのかしら……?もしもストーカーに悩まされているのなら、一声ご相談頂ければ、私達天神音親衛隊がそのストーカーをグチャグチャにいたしますのに……」



私の在籍する特進クラスは女子生徒のみで構成されていて、遠巻きにコチラを眺める彼女達は皆、私に憧れを抱く淑女クラスメイト達ですわ。


私に一歩でも近づこうと、私の口調や仕草を真似るお可愛い淑女クラスメイト達に、私の悩みを打ち明けたらきっと力になってくれる事でしょう。


ですが、私は天神音未来。

天神音財閥の令嬢であるこの私が、おいそれと弱味を吐露とろする事など、決して許され無い。


これは、私の矜恃きょうじの問題なのですから。


とはいえ、もしも……そう、もしも私が殿で悩んでいると知ったら……淑女クラスメイト達はどのような反応を示すのかしら?







思い出すのは、3日前のお昼の出来事。


あの日、私の敬愛するアニソンを貶した古倉匠人に、洗脳……もとい、アニソンの素晴らしさを布教しようと、教室に乗り込んだまでは良かったものの、クラシック音楽なんかを嬉々として語る古倉匠人の表情を見ていたら、いつの間にやら私はクラシック音楽を貶しておりました。


だって、小さいころにお父様パパに何度も連れて行かれたクラシックコンサートを思い出して、嫌気が差したのですもの。


やれ、じっとしていなさい。

やれ、喋ってはいけない。

やれ、やれ、やれ、やれ。


今思い出しても、イライラしますわ。

お父様パパったら、寝ていて聴いてもいなかった癖に。


……ただ、だからと言って古倉匠人に八つ当たりのような態度を取ってしまった事は、とても反省しておりますの。


この3日間、私らしくも無く、ウジウジ悩んでいるのがその証拠ですわ。


(この前は、ごめんあそばせ。少々言い過ぎてしまいましたわ。どうか、お許しになって)


そう素直に言えたら、どれだけ良かったか。

ですが、私とてアニソンが貶された事を未だ根に持っているため、謝るなら古倉匠人が先ですわ!……なんて堂々巡り。



「はあ……ですわ」



そんな、何度目かわからないため息をついたときでした。



『──プツ……あーあー、マイクテス、マイクテス。ハロー、全校生徒諸君!お昼の放送のお時間ですっ!本日校内放送ラジオをジャックしたのはみんなの友達、トノ君こと乙野夏と!』


『こ、古倉匠人、です』



その声が、教室に備えつけてあるスピーカーから流れて来たのは。


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STAX少女は何を聴いてらして? めんへらうさぎ @menherausagi

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