第20話 神様が降りてきた日、夢の億万長者に――――
2日前―――。
私はドタバタと結婚準備に朝から忙しくしていた。
父の容体がかなり悪化していることも私には告げられていなかった。
『余計な心配をかけるさせるな。志穂は忙しいだろ』
それが父の口癖だったという。
由貴ねぇの話だとその日は朝から父の様子がおかしかったという……。
夢か現実かはっきりしない境目に父はいたという。
でも、意識はしっかりしていたらしい。
父の枕元には白い着物を着た女が座っていて、こう呟いたという…。
『明日の最終レース、2-15-7 3連単 1本買いに3万円奉納しなさい。
そうすれば貴方は億万長者になるでしょう』
嘘のような話を誰が真に受ける。
だけど、病で先が短い父は最後に夢を買った。家族の皆も父が言った言葉に
誰一人として反対する者はいなかった
『うおっ』
お昼前、随分と長い間、眠っていた総一郎が勢いよく目を開けた。
総一郎はひどく発汗し、身体中、べっとりするくらい汗が衣類にまで
染みついていた。
しかも、かなり興奮している。
『ビックリした、お父さん、具合い大丈夫?』
ちょうど、終わった点滴を外していた由貴枝が総一郎に視線を向ける。
『ああ、大丈夫だ。ゴホッ』
『お父さん…?』
由貴枝は心配そうに父の青ざめた顔色を伺い、父の背中をさする。
『今は何時だ?』
『え…ああ。もう11時過ぎだよ。もうすぐ、お昼の時間ね』
『母さんは?』
『ああ、仕事。急に仕事代わって欲しいって頼まれてたみたい。
それで、さっき出て行ったけど。夜には帰るとか言ってたわ』
『そうか…。志穂は? 』
『結婚準備で忙しいのよ。今日はまだ来ていないみたい』
『そうか…』
『どうしたの? やっぱ、どっか具合い悪い?』
『俺はもうすぐ死ぬかもしれない…死が近づいてきている』
『え?』
『神が降りてきたーーー。今すぐ、買ってきてくれ』
『何を…?』
死を察知するかのように夢に出てきた白い着物を着た女性を父は
神様と思ったらしい。
『最終レース 2-15-7で3連単、一発勝負だ!! ―—3万円』
『3万円って…』
由貴枝はすぐに八重と連絡を取り相談した。
『ごめんね、由貴枝。帰ったら払うから、買ってきてあげて。
お父さんの楽しみ、それしかないから…』
『うん、そうだね。わかった。ちょうど近くに馬券売り場あるから』
『ごめんね、由貴枝。ありがとう』
実は由貴枝もたまに馬券を買っていたことがあった。
特に出費が多い月は仕事が早く終わった日に『馬券でも買って一発スカッと
当ったらな、気持ちいいだろうな』と、馬券を買ってみるが、そんな日に限って
全然、当たったためしがなかったのだ。
由貴枝が財布を開けると、ピッタシ3万円が入っていた。
『え? マジか……』
昼休み。由貴枝は馬券売り場に足を運び馬券を購入する。
『2-15-7。なんてくるわけないでしょ。15なんて無名の馬だし、初って…
これはないわ』
―――と、由貴ねぇは思ったらしい。
その夜、仕事から帰ってきた八重が病室に入ってきた。
ちょうど、総一郎が夕食を食べていた頃だった。
『ごめんね、由貴枝。これ、3万円。ありがとうね』
八重は由貴枝にお金を渡す。
『お母さんも大変ね。志穂の結婚式もあるし…いる用がいっぱいあること
お父さん、わかってるのかしら』
『さあね。お父さん、お金の事はノータッチだから』
『そういえば、うちの旦那もそうだ。お金の事は一切、私に任せっきり』
『あら、由貴枝のとこは共働きで、旦那さん高給取りだからいいじゃない』
『そうでもないよ。お金があると使うのもドーンと懐大きく使うのも早いし』
『まあ…ね。あ、そういえば、レース結果は? 見た?」
『うん…まだ。あれから、お父さん何も言ってこないし…忘れているみたい』
『え? でも、せっかくだから結果、見て見たら?』
『うん、そうだね… 』
テレビの前には由貴枝が置いた馬券がそのままになっている。
『ねぇ、お父さん…馬券って当たってると配当、どれくらいつくのかしら?』
八重は軽い口調で総一郎に聞いてみた。
『馬券!?』
その時、総一郎は思い出したのか。お箸をお膳に置いて、『馬券は?』と手で
合図する。
『ああ、これですか』
八重はテレビの前にある馬券を手に取り、総一郎に渡す。
『おお、これだ、これ…。絶対、当たってんだよ、これは…。
これが入れば1600万円だ』
『へ!? いっせん…はっ…』
由貴枝はポケットからスマホを取り出し、レース結果を検索していた。
その後、そのレース結果に驚き、思わずその手からスマホが床に落ちる。
『由貴枝?』
八重がスマホを拾い、目にした数字は――2-15-7
総一郎が買った馬券と同じだった。
『……うそでしょ』
計算すると、配当金は1658万7800円―――ーーー。
億万長者までとはいかないが父は夢の万馬券を当てた―――ーーー。
『これで結婚資金と入院費は大丈夫だろう。俺がいなくなった後の生活も
お前は苦労した分、楽ができるな(笑)』
そう言って、総一郎は笑っていた。
『お父さん…ありがとうございます』
『志穂には500万円振り込んどけよ』
『はい、わかりました……』
友引に現れる死神に報復を―――愛する者を守る為に私は勇者となる!! 神宮寺琥珀 @pink-5865
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