Day.4 獲得! メンマ!!

「アハハ! 領収書ってそんなんじゃないよー」


「もう、本間ちゃん! 笑いすぎ!! み、皆見てるから……」


それなりに混雑している土日の構内で、猿のように手を叩き馬鹿笑いを披露している友人に小さな声で呟く。

すると、


「あー、ごめんごめん。でも相変わらずだねー。そんなんでこの先大丈夫? なんか心配だなー」


友人はうざったらしい高笑いを止め、目から溢れそうになっている涙を拭った。

彼女の名前は、本間ちゃん。

私にとって数少ない友人の一人であり、私が勝手に親友だと思っている人物だ。


「あはは……、心配してくれてありがと。でも、大丈夫! 私、やる時はやるから! ほら、学生時代もそうだったし!」


「まー、そう言われればそうかもね。それでも気を付けなよ。じゃないと大学の卒業式みたいなことになっちゃうから。ゼミの先生から卒業証書ないって言われた時の顔面白かったなぁ……。ブフッ……ギャハハハ」


「わー、わー! 嫌なこと思い出させないでー!」


「あの時の写真あるけど見るー?」


「見せなくていいからー!!」


携帯のアルバムを開こうとしている本間ちゃんに叫ぶ。

嘘みたいな話だが、彼女の言っていることは実際に行った出来事だったりする。

というのも、私は最後の単位を資格取得による免除という形で取得したのだが、合格発表が卒業式の一週間ほど前だったため、事務処理が間に合わず卒業証書の発行が出来なかったのだ。

そのため、卒業式に撮った写真では皆が卒業証書を持っている中、一人だけ学食の定期券を持って映っている。

このまま本間ちゃんを放置すればこれに勝るとも劣らない黒歴史を大声で不特定多数の人に暴露されかねない。

そう考えた私は、


「あ、そ、そろそろ時間だ! 急がないと!!」


わざとらしく腕をまくり、そう言った。


「もうそんな時間かー。言いたいことは山ほどあるけど、とにかく頑張ってね」


「うん! 本間ちゃんも元気でね」


「はーい。あ、そうだ! 忘れるとこだった」


「……?」


ハッとした表情を浮かべ、全く似合っていない高そうなバックから、大きな袋を取り出す本間ちゃん。


「はいこれ、あげる」


「え……? 何これ……??」


「メンマだよー。もしかして、知らない?」


「いや……、知ってるけど……。え? え??」


某有名ブランドのロゴが描かれたバックから出てくるとは思わなかった渋すぎるアイテムを前にして狼狽する。

しかし、そんな私を差し置いて本間ちゃんは、


「最近ねー。メンマにハマってて。めっちゃ美味しいんだよ。1㎏あるから新幹線で食べてねー」


と真面目な顔で大量のメンマを押し付けてきた。


「あ、ありがと……。大切にするね……」


何とも言えない表情をしながらメンマを受け取る。

嫌がらせとしか思えない本間ちゃんのこの行動だが、私は知っている。

彼女は本気で私が喜ぶと考え、こんなゴミ同然のアイテムを渡してきていることを。

彼女の奇行は今に始まったことじゃない。

少なくとも、私が彼女と知り合った高校時代からずっと続いている。

実際、本間ちゃんは体育の授業をサボりまくり、教師に説教をされた際に、


『誠意って何ですか? 靴でも舐めれば良いんですか? わかりました! 舐めますよ!!』


と逆ギレし、クラスメイト全員が見ている前で自分の靴の裏を舐め始めるという奇行をとり、その場にいた全員をドン引きさせたことがある。

その他にも、修学旅行中に勝手に渋谷に遊びに行き、一人飛行機に乗り遅れ行方不明者扱いをされたりとこれまで様々な伝説を残していた。

本間ちゃん、頭は良い方なんだけどなぁ……。

偶に常識がないというか、倫理が欠如するというか……。

手渡されたメンマを見つめ、何とも言えない表情をする。

しかし、本間ちゃんはそんな私の様子など気にする様子もなく、


「私のおススメの食べ方はねー」


とメンマが大量に乗せられたご飯の写真やサラダの写真をスワイプしていた。

私、練り物はあんまり好きじゃないんだけどな……。

これは東京駅に捨てていこう。

心の中でそう思いながら、


「うん、ありがとう。向こうに着いたら試してみるね!」


そう微笑み、そそくさと改札の方へと向かった。


「なくなったら連絡してね。送るから!」


背後から聞こえてくるカスみたいな提案に冷や汗をダラダラと流しつつ、改札に乗車券を入れた。

しかし次の瞬間、


「ブー」


「うわっ!」


改札は警告音を発し、入り口を塞いだ。


「ちょ、っと、いだっ!!」


私の腰付近に激突した改札に引っ掛かり、ゆっくりとバランスを崩しながら倒れる私。


「ギャハハハ、もー、何やってんのー」


その様子を見て、爆笑する本間ちゃんと、


「お、お客様?! 大丈夫ですか?!」


慌てたふためきながら駆け寄ってくる駅員さん。


「もー、何なのー!!」


心の中で発狂する。

この後、私は駅員さんに擦りむいたところを治療してもらいながら、改札を通れなかったのは「乗車券」と「特急券」を同時に入れていなかったためだという話を聞いた。

この話を本間ちゃんは憎たらしい顔でケラケラ笑いながら聞いており、最後まで本間ちゃんには嫌なところを見られてしまったと苦虫を噛みながら、再び改札を通り、本間ちゃんに別れを告げた。


ちなみに、本間ちゃんから渡されたメンマはこのゴタゴタの中でどこかに消えてしまった。

転んだ時に手放したのは覚えているが、そこから何処に行ってしまったのか不明なのだ。

もしかして、誰かが持って行ったんだろうか。

それとも、清掃員の人が捨ててしまったんだろうか。

はたまた、どこかの下人が追いはぎしたのだろうか。


メンマの行方は誰も知らない。


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私と東京の100日間戦争 柊 蕾 @fuyunisakuhana

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