Day.3 会敵! スマートオブザーバー!!
「はぁ、酷い目にあった……」
電車の窓を永遠と流れるエターナルライスフィールドを眺め深いため息を付く。
「まさか領収書を手に入れるのがこんなに大変だなんて……」
今回は上手く乗り切った? が、次はどうなるか分からない。
結構『アテナ』とは何だったんだろうか?
『アテナ』というくらいなのだからさぞ高貴なものに違いない。
……もしや、先ほど緑の窓口で発見した、泊まり込みで業務をした後のようなガンギマリの目をしながら営業スマイルでこちらに何かを訴えかけていた鳥類のことだったりするのだろうか?
言われてみれば、RPG作品に中盤のボスキャラとして登場しそうな見た目をしていた気がする。
『アテナはどうされますか?』というのは『奴と戦いますか? ストーリーの進行に特段影響はありませんが、倒すと今後の進行が楽になりますよ』という暗示だったのかもしれない。
「うーん、だとすれば戦うべきだったかもなぁ」
そんなことを考えながら、友人からの
『駅に着く時間教えてー』
というラインに、
『ロサンゼルスの時間で17時くらいかな』
と返す。
よし、これで彼女は私のことを『常にアメリカ時間で生活している意識高い系』と認識するハズ……。
こんなこともあろうかと、腕時計の設定時刻をロサンゼルスの時間に合わせておいて良かった。
「ふふふん」
どや顔をしながら、コメリで購入したばかりのピカピカの腕時計をのぞき込む。
すると……、
「ん?」
腕時計のガラスに、隣に座っている女性の顔が映り込んだ。
その視線は明らかに私の方を向いている。
……知り合いだろうか?
コンビニより老人ホームの数が多いほど過疎化が進行している私の地元では、行く先々で友人、知人とエンカウントするのは日常茶飯事だが……、
「……誰だろ?」
隣の女性の顔に全く心辺りがなかった。
こういう時は、『何か用ですか?』と話しかけるのが鉄則なんだろうか……。
「これで顔見知りだったら気まずいしなぁ……」
昔アルバイトをしていた際に、たまたま巡回に来ていた社長に『新しく入ってきた人ですか? よろしくお願いします』と休憩室で話しかけ、店長が発狂してしまった記憶が蘇る。
「……」
腕時計越しに見つめ合う二人。
き、気まずい。
知り合いなら話しかけてくれればいいのに……。
もしかして、向こうもそう思って躊躇しているんだろうか?
そんなことを考えていると、私のiPhoneに一件通知が入った。
すぐさま画面を確認すると、先ほどメッセージを送った友人の名前が表示されていた。
「た、助かった……」
いつも夜中の二時くらいに返信を送ってくるからブロックしようか迷ってたけど、名前で遊ぶくらいで止めておいて良かった。
過去の私を称えながらメッセージを確認すると、
『Okay, I get it. It's midnight Greenwich Mean Time. My boyfriend's going to drive me to work and drop me off, so I'll wait for him first.』
と謎の文字列がlineのビミョーな幅のメッセージ欄に所狭しと並んでいた。
「えぇ……」
暗号のような文章に困惑する。
かろうじて英語で書いてあることは読み取れたが、内容はさっぱりだった。
そこで、
『=͟͟͞͞ =͟͟͞͞ ( 卍՞ਊ ՞)卍三ドゥルルルル」
と適当な顔文字を返し、その場を誤魔化す。
これで時間が稼げるな。
そう思い安堵した次の瞬間、
「ブフッ」
「!」
隣から小さな笑い声が聞こえた。
さり気なく横を見ると、こちらを見ながら口を押えている。
ま、まさかこの人……、
「スマートオブザーバー?!」
少し前に友人から聞いたことがある。
電車には隣の人のスマホをのぞき込むオブザーバーが存在していると。
都会では既に繁殖してしまっているとは聞いていたがまさか私の地元にまで勢力圏を広げていたとは……。
油断した、このままではこの人に、英語が出来ないのにロサンゼルスの時間に時計を合わせているヤバいやつだと認識されてしまう。
それだけは避けなくては……。
そう考え、グーグルの検索窓にディープと打ち込んだ手を止める。
すると、再び友人から通知が入った。
お願いだ……、空気を読んでくれ。
そう思いながら、メッセージを確認すると、
『What is that emoticon? That's funny.』
また訳の分からない文章が送られて来ていた。
前言撤回、やっぱりブロックしておくべきだった。
頭の中でねじ切れそうなほど手のひらを返しながら、どうすべきかを考える。
未読スルーでも良かったが、このままではオブザーバーに『あ、こいつバカだな』と謝った認識を持たれかねない。
そのためにも、ちゃんとした返信文を送らなければ。
だが、大学の一般科目の講義で『My name is-』と自己紹介をした際に、『Mayonnaise? What are you talking about?』と言われた後、何故かマヨネーズの話を聞かされたレベルの英語力しかない私には英文作成など出来るはずもなかった。
かたや、今lineをしている友人はTOEICで高得点を取って単位を免除された逸材。
TOEICが何かは分からないが、単位を免除されるくらいなのだから、さぞ凄いアイテムに違いない。
流石に分が悪いか。
そう思い、
『ロサンゼルスの話をしてくれたから、アメリカ語で返してくれたんだね。ありがとう。でも、大変だと思うからアメリカ語じゃなくても大丈夫だよー』
とまるで分かっているかのような感じを出しながら、話を進めることにした。
完璧だ。
さり気なく相手に気遣いを見せているところも点数が高い。
きっとオブザーバーもこの返しに驚愕するハズ。
勝利を確信し、どや顔をする。
しかし、
「グフッ……、待って、無理……」
「??????」
オブザーバーの反応は私の想像とは全く別のものだった。
一体何が起きたんだ……。
まさか、誤字脱字があったのか?
そう思いながら、慌てて文章を確認していると、
「あ、危な。ここだ」
そんな声を出し、オブザーバーは去っていった。
「……え?」
待って、せめてなんで笑ってたか教えてー。
熱い視線を送りながら、そう訴えたが、オブザーバーはこちらに振り向くこともなく、ホームの中へと消えていった。
「何だったの……」
スカスカになった席を見ながら呟く。
モヤモヤを抱えながら電車に揺られていた私だったが、その後友人から送られてきた、
『アメリカ語ってなにー笑? アメリカでも英語は英語だよー笑笑 英語って言うのはイギリス人が喋る英語だけだと思ってた笑?』
というlineを見て、全てを察し目的地まで顔を真っ赤にするのだった。
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