事件六 その一。ヤクザ映画。その栄光と落魄


 ヤクザ映画。その栄光と落魄らくはく


 告白すると、前回の事件五で、この投稿を打ち切ろうと思っていた。

事件一でお断りしたように、反響がなければ止める。

 

 現今の日本映画の落ちぶれかた(それが落魄です)がひどく、映画製作の根底とされる脚本(土台を支える足、最高の造語です)がつまらないからで、脚本と言うものの本質を高田の長い経験則から解き明かして、映画を職業にする人たちに考え直して貰おうと、高田の脚本による、東映映画「日本の黒幕」でおこった事件をもとに小文を書いた。

もったいない、もっと、多くの人たちのために書いてほしい、と、すすめられた。

で、カクヨム、に投稿した。

なるべく、おもしろく。

可なりの人が読んでくれた。

反響はない、空回り?

だが、少しづつ、あった。


すぐ、機嫌が治るのが、高田の特質。

 

つづけよう。


ノリノリで。



 一九七二年(昭和四十七年)三月、「ゴッドファーザー」がアメリカで公開された。

 正に、ハリウッド製の任侠巨編で、題材、配役、演出、音楽、カメラ、これ以上のものなしと、全世界の映画人、フアンを感嘆、随喜ずいきさせた最上級の娯楽映画である。

 封切られてすぐ、ニューヨークにいた高倉健さんから俊藤浩滋プロデューサー(東映任侠映画の生み親)に電話があって、

「凄い映画を観た、ぜひ、観てほしい」

と。

 寡黙な健さんのこと、それ以上、言葉はなかったらしいが、話は高田にも伝わり、藤(寺島)純子さんの引退前の「緋牡丹博徒」の執筆中であったから、俊藤さんは自分が観に行くと言われて、高田はガマン、七月の日本での一般公開でやっと観賞出来た。

 

圧倒された。


壮大なスケール、深みある人間ドラマ、手に汗にぎるストーリー展開。

 イタリア系移民がアメリカンドリームを求めて渡米し、生きるために麻薬など犯罪に手を出し、自分たちの暮らしを守るため暗黒の暴力組織をつくって、縄張り争いで、同士討ちの死闘になる。

最悪の成り行き。

何が多くの人に衝撃の感動を与えたのか? 

日本製のヤクザ映画とちがうところは?

血のつながり、家族愛の劇、分かりやすい。

 マーロン・ブランドが演ずる、ヴィトー・コルレオーネから、三男のアルパチーノが演ずる、マイケルへ、血族の結束と破綻がストーリーの核になって劇が展開して行く。

故郷シチリアの暗く陰鬱な風土が効いている。

日本のヤクザは、仁義、つまり、血のつながりよりも義理を優先する。

親分は一代かぎり、実子に後を継がせない。

立派に見えるが、血族を大事にすると、義理の盃で親子の縁をかためた子分が身を捨てて働かないから。

 しかし破門、絶縁、法に救いがある。

 マフィアの裏切りに救いはない。全て殺人で処理される。

「ゴッドファーザー」では、その一つ一つが見事な劇になっている。

 中にはハリウッド的な見せ場として仕組まれたものもある。

 マイケルが警官を殺してシチリアに身を隠し、土地の娘に一目惚れして強引に妻にするエピソード。

何かある、と、誰しもが思う、

マイケル君、自分の立場を考えなさい、何の罪もない、相手のことも。

案の定、新妻は爆死、マイケルは命拾いする。

あと、マイケルはケロッとしてアメリカに帰り父親のあとをつぐ。

 

ちよっと、むかついた。

 「予定調和」と、脚本の手法で言う、

そうなるように書いて、そうなる。

下手くそと言うことです。

シナリオ教室で、生徒がそんな劇を書いてきたら、高田はバッテンつけるやろう。

 

 戦慄の場面として記憶にのこるのは、シチリアの風土、音楽、新妻役の娘の美しさのおかげ。

 一緒に観た敏腕プロデューサー日下部吾朗の感想。

「ええムネしとった、ほんまの処女のおっぱいや」

 そんな五朗さんが、高田は好きです。


 同時期、日下部の企画で、「仁義なき戦い」(脚本笠原和夫、監督深作欣二)が撮影の真っ最中であった。

 一九七三年(昭和四十八年)に公開して大ヒットし、映画としての評価も高く、東映は実録の新たな鉱脈を見つけて救われた。

 「ゴッドファーザー」に比べてスケールでは劣るが、実在の人物をモデルにした金子信雄が演ずる親分・山守を狂言回しにして、どつき合うような広島弁のセリフのやり取りが笠原流のブラックユーモアになって面白く、日本らしい泥臭いやくざ像がかえって新鮮に見えた。

 高田は生意気盛りで、ラストシーンで広能(菅原文太)が山守親分(金子信雄)に言う、


「タマは、まだ、のこっとるがよう」


 世に知れた、名セリフを、

「なんで、撃たないの?」

 と、笠原先輩に問うと、

「五朗に聞け」

 と言うから、五朗さんに振ると、


「続きができなくなる」


 あえて、言っておくが、大勢のやくざがいる葬式で、親分に向かって、そんな啖呵を切ったら、間違いなく広能(文太さん)は殺される。

ハリウッド的な魔法に、みんな、乗せられた。それも、映画です。

 商売優先のプロデューサーのおかげで、「仁義なき戦い」は、五部作、高田は完結篇を書かせて貰って笠原びいきの評論家に、「淋しい交代」、とまでけなされた。

 

みなさん、観てください。

おもしろいよ。完結篇は観客も五本の中で一番入った。


話はまだ助走の段階。皆さん、物足りんでしょう?

事件六は、その二につづくのでご安心を。

その二はサービスして原稿足しておくわ。

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