ここで、事件二、に戻る
ここで、事件二、に、戻る。
京撮に来て間なしに現場実習でついた巨匠内田吐夢監督の「大菩薩峠」で、もう一人の山の
みな忙しく大部屋に一人しか残っていなかったらしい。
ロケ地までのトラックの荷台に日雇いのエキストラに混じっているのを見ていて、死骸の役かと思っていたら、運ぶ役で、一応、プロだからエキストラに戸板の持ち方を教えたりしている。
朝飯を食べたら一日何も食わない。
ロケは弁当が出るから朝飯は抜く。
何どか会った時に聞いていた。
今日はロケだから朝飯を抜いてる、弁当はこの場面のあと。
案の定、テストでフラフラしている。
本番になった。
一回でOKになってくれ。
戸板をかつぐ四人の一番前、巡礼の連れの幼い孫娘が泣きながらついて来る。
そいつの手が百円でなく娘の手を握った。 余計なことをするな。
娘が百円に抱きすがった。
ええ芝居や。
「カット、どや?」
巨匠は何時もカメラマンに声をかける。
カメラは三木滋人、その道の重鎮、たいがい、もう、ワンテイク、と、なる。
寿命が縮む瞬間。
「オーケーです」
無事撮影は終了、自分のロケ弁、そいつに渡した。
「しっかり、食べや」
「おおきに」
礼がかえって来た。
なにやら、だまされていた感じ。
それからが、大変。
会うたびに、
「あの場面カツトされないやろね?」
と聞かれ、大事な場面やから大丈夫と言ったものの、初号試写で確認するまで気が気でなかった。
一生に一度で良いからセリフのある役をやりたい、高田に書いて欲しい、と言うので、
幽霊の役があったら振ってやる、
「うらめしや」
「それ、死んでから言う。化けて出て」
結構、言いよる。
やはり、役者や、根性持ってる。
試写のあと、近くの寿司屋で千円の特上をおごって祝杯をあげた。
その後、不意に消えた。
大部屋では良くあるらしい。
一件落着、映画の事件にしては頼りないですか?
幽霊やから、しゃあないやろ。
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