第13話 『回復の華』

 ―――――……





 一夜明け。

 鈴蘭の薬は幸いにも患者全員に効果があり、状態は改善したものばかり。

 ここからは栄養管理をしていくしかない。

 残念ながら今の村には何もなく、また、俺たちが残っても何もできない。

 行商人に声をかけ、何とかこの村に寄ってもらうことが、俺たちにできる最後の手伝い。



「もう行ってしまうのですか?」

「ああ。なるべく早く来てもらうよう言ってくる」

「何から何まで……ありがとうございます」



 村の入り口まで村人ほぼ全員が見送りに来てくれた。

 鈴蘭は俺の後ろで猫を被ったように大人しくしている。

 矢面に立たされている俺は両手を強く、それはもう本当に強く握られている。

 手汗が滲む。



「では」

「ぜひ! ぜひまた寄ってください! その時こそ村全体で感謝をお伝えいたします!」

「ありがとう。また」

「ご健勝をお祈りいたします」



 大きく諸手を振る村人たちに程々振りかえし。

 俺たちは行商人が通る道に向かい……大きく曲がって、数刻歩けば着くという隣の村に向かう。



「約束の行商人が来るまではそこで過ごそう」

「承知いたしました」

「脚の調子は?」

「痛みます」

「……」

「……」

「……乗るか?」

「はい♡」



 言われた通り、俺は鈴蘭のとして動き始めた。

 背に乗せたところでそう重くはないから、筋力賦活と考えれてもいい。

 足をプラプラとさせる彼女は、いたく上機嫌だ。



「そうそう。『回復の華』についてですが」

「なんだ」

「わたくしがいた方角で、「光り輝く華が咲いている」と言う話を小耳にはさみましたよ」

「本当か!?」



 実在していたというのか……!?



「本当にそれなのか、本当に見つかったのかはわかりません」

「あ、まあ……そうだよな。どっちだ?」

「もう十日以上も前のことです。もうほどけている・・・・・・ことでしょう」

「……」



 ほどける。



「知らなかったな」

「何がです?」

「『回復の華』の枯れる表現は『ほどける』というのか」

「……あー」

「勉強になった」



『枯れる』という表現にも色々ある。

 桜は散る。

 菊は舞う。

 椿は落ちる

 梅は零れる。

 牡丹は崩れる。

 朝顔はしぼむ。

 繍球花あじさいは、しがみつく。


 それらを知っているのは、少なくとも華の名を知っていて、調べたことがある者だろう。



「では、行っていない方角に行こう」

「なにか心当たりでも?」

「『回復の華』はどこでも咲く。ただし、一度咲いた場所には咲きにくいんだ。だから戻っても無駄足。意味がない」

「そうなんですね」

「次の村までまだ距離がある。鈴蘭が知っていることも教えてくれ」

「……はーい」



 もしかしなくても。

 鈴蘭が今のタイミングで言ったのは、彼女も華を探していたのかもしれない。

 そう断言しないのは理由があるのか、ただの意地か。

 それも込みで聞くことにしよう。

 しばらくは一緒にいるんだ。

 時間はたくさんある。

 あの病気を治すために、聞き出せるだけ聞き出そう。






 ―――――……






「陛下」

「どうした医官。なにかわかったのか」

「申し訳ございません。なにも」

「だったらなんだというのだ!」

「情報収集に出ている医官が、文をよこしました」

「中身は」

「『有力情報得たり』」

「! ついにか!」

「はい。続報をお待ち下さい」

「ああ。だが急がせろ。余はそう気が長くない」

「御意」

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毒者の血清  ─ 鈴蘭の服毒治療集 ─ 彩白 莱灯 @majyutsushi_4

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