第41話 裏切り再び(勘九郎サイド)



 夏休み最終日 深夜ニ時  勘九郎の部屋


 夏休みほぼ毎日通っていたホクトが昨日、僕に復縁を求めた。自分はまだ処女だから、私はかんちゃん以外興味がないからと。

  でも僕は判断できなかった。 今の僕には好きな人がいるから。


 明日からまた学校か……。夏休みもバイトだけで終わるかと思ったら海水浴とかイベントとか結構面白かった。


 ただ問題が一つ、 明日から図書委員の仕事があるからまた加藤さんに会うことになる。どんな顔をして接すればいいのだろうか?

  全部の連絡先をブロックしてるから相当怒ってる。織音ちゃんにも諫言されたし謝んないとね。 

 というか、多分もう絶交されるんじゃないかと思う。僕はそれだけのことをしでかした。

  謝って許されるわけじゃない。

  それに僕は彼女のことが好きになる。だから幸せになってほしいからダイワに任して身を引いた。

  これで良かったんだと思う。 僕の選択は間違ってない。なのに夏休みの間ずっと心が締め付けられるようだった。

 そう、加藤さんがダイワよりも好きになった男のこと。僕は王子として相談受ける度に嫉妬した。何者か分からない存在に。


  この前王子としてデートした時、実はとても嬉しかった。久しぶりに加藤さんと話せたから。何度も自分の正体を打ち明けようとしたが、笑顔を曇らせるのが怖かった。


 そんな時、スマホが鳴る。僕のじゃない。放送部のコール用スマホだ。

  相手は加藤さん。 

  イベントの取り決めでリスナーとの直接のやり取りは禁止されている。だから出るのに躊躇った。 

 でも、僕は彼女の声が聞きたかった。 例え黒田勘九郎じゃなくても構わない。


「やあ、こんばんは、加藤さん」

『こんばんは王子様、夜分遅くすいません』


 お互い姿は見てないのにお辞儀している。


「一体どうしたの?」

『 王子様の声が聞きたくて。 ダメですかね』


 加藤さんの声、心が落ち着く。 たとえ僕に向けて話してなくても会話できるだけで十分幸せだ。

 

「部活動的にはアウトだけど、 君とは友達だから 大丈夫だよ」

『ありがとうございます』


 僕もありがとうと言いたい。活力が湧いてくる。


「もうすぐまた学校だね」

『はい、文化祭等あるから楽しみです』

「はははっ、またみんなで馬鹿騒ぎしそうだね」

『去年の後夜祭はキャンプファイヤーとかマイムマイムとか結構 盛り上がりましたからね』

「僕も踊ったなぁ。会長と銀河先生と」

『いいな。 少しヤケてしまいます』


 とりとめのない会話。 それでも彼女の弾むような声色を聞くと 心が落ち着く。これが恋というものか? 


『今日で王子様と会話できなくなると思うと寂しくて電話しました』

「ありがとう。とても嬉しいよ。でも僕たちの関係は読み手と聞き手だから、この境界線を超えてはいけないような気がする。それでもよかったら また連絡してほしい」

『ありがとうございます。 ではまた、 明日学校で……』


  加藤さんは締めくくった。あわてんぼうだな。王子としては学校で会えないよ。


 もっと話したかったが僕の正体がバレるかもしれないリスクはある限り、必要以上に触れることを避けた方がいい。


 カーテンを開けると気持ちのいい風が入ってきた。明日から九月か。

 

 二階から見下ろすと誰かが歩いていた。こんな 夜更けにと興味本位で目を凝らすとダイワとホクトだった。楽しそうに会話してしている。

 手を振って声をかけようとしたが、何故か躊躇った。 二人だけの世界に僕は立ち入っていいのか? と躊躇する。

 だけど何故か気になって僕は後をつけた。やっちゃいけないことだと分かっているけど好奇心と今までの疑惑が僕に跡をつけろと命令した。


 ー—そして再び目撃する。あの日の悪夢がフッラッシュバックした。

 ダイワとホクトが抱き合ってる姿を……。 


『大好きだよ』

『俺も愛している。残酷なこの世界でお前だけが希望だ』

『嬉しい』


 ホクトは笑顔だった。とても幸せそうにハグしている。

  僕とホクトはもう終わった関係だから昔みたいな嫉妬はしない。でも復縁を懇願したその日にこれはないだろう? もうあいつが何を考えているのか分からない。

  それに仲間ハズレにされてるような寂しさもあった。



 次の日、朝、 登校中  バス停


「おはよう勘九郎。 先に行くなんてひどいな」 

「おはようダイワ。 今日から学校だから早く行きたかったんだよ」


  嘘だ。本当の理由はみんなに会いたくなかったんだ。


「はぁはぁ、勘九郎、待っててくれてもよかったのに」


 息を切らして肩で息をするホクト。どうやら二人とも走ってきたようだ。


 なので、「初めまして福島さん。僕の名前は黒田といいます。これからよろしくお願いしますね」にこやかに初対面の相手に頭をさげる。


「え? なんで? 勘九郎なんの冗談?」

「 ごめんダイワ、僕歩いて行くわ。また学校でね」


 ホクト……友人エーを無視して学校へ向かう。後方で一生懸命を訴えているが僕の耳にはもう通らなかった。別に怒りはない。ただ悲しかった。 復縁を求めてきたのに一方でダイワと秘密裏に密会しているからだ。もう何も信じられなくなり、ちょっと涙目になる。


 こうして、再び僕はホクトの関係をリセットした。

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