第40話 愛情? 友情? 義理? そんな面倒くさいもの全て捨ててしまえ。スバルオーバーフロー(スバルサイド)(加筆あり)



 数日後 夜十時 児童公園


 日も暮れて住宅街周辺は静かになっていた。流石にもう夜遅い。いつもなら布団に入っている時間帯。

 それなのに私はスマホで大和を呼び出した。

 どうしても伝えなきゃいけない事があったから。

 なんだかんだ言っても交際相手を大切にしてくれた。だから大和には悪いと思っているしとても心苦しい。でも今伝えなきゃいけない。これは次へ一歩踏み出す為のケジメだから。


「こんな時間にどうしたんだ統星?」

「ごめんね、夜遅く呼び出しちゃって」

「別に構わないけど。何か用事かな。もしかして俺に会いたくなったとか?」

「ごめん。結構真面目な話」

「そっか。じゃ、何だろうか、とても気になる。とりあえずどこかに座ろうか?」


 だけど私はそれを拒絶するかのように、


「ダイワ、私たち別れましょう」

「え?…………どうして? 俺なにか落ち度があったか?」

「ないよ。とても良くしてくれた。今まで楽しかったよ」

「だったら何で? 俺は別れる気はさらさらないんだけど」


 先ほどの笑顔が嘘のように真剣な面持ちでダイワは私を見た。


「私さ、好きな人ができたんだ」

「そっか。そういうことか……」


 私は最低なことを口にしている。ドラマでみた別れ話を参考にしているとはいえ、他に好きな人出来たから別れようなんて初めての交際の結末にしてはお粗末だ。


「大和話してくれたよね。私達の関係はお試し交際だって。いつでも別れても大丈夫だよって」

「そうだな。でももうだいぶ経つからそのまま正式な交際になったと認識していたよ」

「ごめんね大和。でも綺麗にさよならしたいんだ」


 自分勝手だと重々承知しながらも私は誠意をもって頭をさげる。これしか術を持ってないから。


「でもなんで俺じゃダメなんだ。凄く頑張ったと思うんだけど」

「うん。それは分かっている。デートとかは行けなかったけど、色々企画してくれて嬉しかった。でもね、大和は私は見てなかった。私を通して他の誰か持ってきたような気がする。例えば北斗とか」

「待ってくれ。俺はほっちゃんにそんな感情を抱いてない」


 意外な名前が出てきなのか相当慌てている。でも、私は確信があった。話題によくあがっているのが北斗。行動も全て北斗優先。どっちが恋人か分からない扱い。それが段々不満として蓄積していった。


「言い訳しても遅いよ。大和の服装の好みはそのまま北斗なんだよ。私より大和は北斗が好き。それもガチ勢」

「やめてくれ。とにかく俺は統星と別れるつもりはない。絶対にない」

「でももう、いや最初から大和のこと好きじゃないよ。好きな人ができたし。とても大好き」

「もしかして勘九郎じゃないだろうな?」

「そう、くろーだよ」


 嫌な予感が当たったのか、大和はしゃがみ込み俯く。頭を掻きむしった。


「そうか……本来だったらあいつの幸せを第一に考えるんだけど、恋愛に関してはダメだ。なおさら別れるわけにいかないな。勘九郎は北斗じゃないとダメなんだ。それ以外は許されないし俺が許さない。絶対だ」

「なんで。何故そんなこと言うの?」


 親友の恋愛に口を挟むなんておかしい。


「北斗は自らの身を削って行動している。今までもこれからも。全ては勘九郎の為にだ」

「どういうこと?」

「それは教えられない。だから悪いが統星は勘九郎のこと諦めてくれ。勘九郎の劣化版の俺で悪いけど、それで許してくれないか。いい彼氏はこれまで通り演じるつもりだ」


 それじゃ恋人ごっこをこのまま継続しろってことなの?

 大和が今までみたことない無表情で私に命令する。怖かった。


「無理。女心はそんな単純じゃないんだよ。私はくろーが好きになった。ガチのやつ。その気持ちを押し殺して生きるなんて私には出来ない」

「頼む! この通りだ。勘九郎じゃなくて俺にしてくれ」


 大和は地面に頭を擦り付けて土下座した。そこには恥も外聞もない。ただ私に懇願するのみ。


 想像してなかった予想外の行動に私は戸惑う。


「どうしてそこまでするの?」

「男なら一生に一度全てをかなぐり捨ててまでなり通さなければならないことがあるんだ」


 結局私は、大和と別れることができなかった。あんなに必死にお願いされたら何も言い返す言葉が出てこない。



 同日 深夜二時 加藤家 統星の部屋


「くろーに会いたいよーぐす……」


 でも、逆に私のくろーへの思いが強くなるのは自明の理であった。


 どうしよう。どうしよう。

 くろーくろーくろーくろーくろーくろーくろーくろーくろーくろーくろーくろーくろーくろーくろーくろーくろーくろーくろーくろーくろーくろーくろーくろー。

 会いたい。くろーに会いたい。

 くろーの声が聞きたいよ。


 私は我慢できず王子様へ電話する。本当はタブーだ。モーニングコールだけの関係。でも私は躊躇しなかった。そんな心の余裕があったら王子様へ電話なんてしない。

 勿論王子様、ようはくろーに嫌われたくないよ。でもね、そんなもんくろーへ会いたい気持ちの方が遥かに凌駕していた。


「やあ、こんばんは、加藤さん」

「こんばんは王子様、夜分遅くすいません」


 お互い姿は見てないのにお辞儀している。


「一体どうしたの?」

「王子様の声が聞きたくて。ダメですかね」 

「部活動的にはアウトだけど、君とは友達だから大丈夫だよ」

「ありがとうございます」


 一瞬、王子様に友達宣言されてチクっとくる。

 それでも、王子様、くろーの声を聞くと安心する。涙が出てきた。王子様いや本当に私はくろーを好きになってしまったんだ。数日前会ったばかりなのに感涙するほど嬉しい。

 ずっと話していたいよ。くろーの声を耳にするとと凄く安心する。


「もうすぐまた学校だね」

「はい、文化祭等あるから楽しみです」

「はははっ、またみんなで馬鹿騒ぎしそうだね」

「去年の後夜祭はキャンプファイヤーとかマイムマイムとか結構盛り上がりましたからね」

「僕も踊ったなぁ。会長と銀河先生と」

「いいな。少しヤケてしまいます」


 羨ましい。もっと早く、くろーと出会いたかった。そうしたら一杯一杯楽しい思い出できのに。辛いよ。


 結局私は大和と別れることができなかった。即ちくろーに告白する権利がないということだ。好きなのに。大好きなのに。側にいる事さえできない。辛いよ。とても辛い。

 くろーに会いたいよー。強く抱きしめられたいよ。

 想いがどんどんどんどん積もってく。もう本人にも止められない。どうしたらいいの? どうしたらいいのさ?



 そんなくだらないもの、全て捨ててしまえ。



 と、想いの限界を超えた時、糸がキレたように私を縛ってきた友情とか愛情とか義理とかの感情が綺麗にデリートした。もう付き合っているとか、相手の気持ちとかそんなことはどうでもいい。

 すべてクソ食らえ。


 ただただ、くろーと燃えるようなキスをしたい。後はどうでもいい。どうにでもなれ。

 くろーとキスがしたい。

 私の中で何かが弾け飛んだ。


 私はくろーと絶対離れないくらい深いキスをするんだ。それだけでいい。


 くろー好き好き好き好き好き! 大好きだよ♡


 こうして私は制御不能のバーサーカーモードに陥る。気づいたときにはもう色々と手遅れだった。

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