第39話 大好きな私の王子様、こんな近くにいたなんて……。(スバルサイド)



 同日 午後四時 市営運動公園 

 

 その後、何のアクシデントもなく予定通り収録が終わる。放送部スタッフがお疲れ様でしたという声と共に私は肩の力が抜けた。

 休憩も兼ねて近くにある大型の運動公園へ移動。

 ここでスタッフが最終チェックを行うので私と王子様は暫しの間休息をとる。

 ベンチに座ると王子様が喫茶店で買ってきたコーヒーを、「はい、どうぞ加藤さん。今日は一日お疲れ様でした」とねぎらいの言葉を添えて手渡してくれる。


「ありがとうございます。王子様も一日お疲れ様でした」

「ありがとう。加藤さんのおかげで今日一日スムーズに予定が終了したよ」

「社交辞令でも嬉しいです。王子様」

「そんなことはないよ。本当に助かった。加藤さんは状況の飲み込みが早いから余計な手間が掛からないからね」

「そう言ってもらって嬉しいです、あ、珈琲いただきますね」


 王子様はどうぞと言うと、一緒に飲んだ。すごく甘い。私好みの激甘珈琲。焼いてきてくれたクッキーとよく合う。

 あれ王子様は何で私が甘党だったことを知っているのかな? それにこの独特の味付けのクッキー食べたことがあるよ。どういうこと? 謎が深まるばかり。


「そういえば加藤さんの少女時代でどんな感じだったの? そこで遊んでいる子供達みたくアスレチックとかで遊んでた? それとも近所の友達とおままごと?」

「私ですか? そうですね。近所の悪ガキどもとつるんで悪い事ばっかりやってましたよ。意外にも私ガキ大将だったんで。腕っぷし強かったんで」


 と力こぶを見せるポーズを取る。あの頃は普通にプラモ屋に入ってモデルガンとか買っていた。懐かしいなー。


「へー全然イメージが重ならないね。 今のお嬢様な加藤さんからじゃあ想像がつかないよ」

「お陰様で幼馴染み達から最初から最後まで男と間違えられたままお別れしましたよ。今でも彼らは私の事を同性だと勘違いしたままなんでしょうね」

「でも、子供の頃なんてそんなものだよ。性別なんてまだ意識しなかったし、遊んで喧嘩して仲直りしてまた遊んでの繰り返し、僕も幼馴染が一杯いるんで加藤さんとあまり変わらないよ」

「そうですか。そういえば夏休みは幼馴染み達と遠くまで冒険しました。遅くまで出歩いて知らない星空の下を散歩したんですよね。楽しかったなぁ」

「僕達も夏休みの夜、田園風景の中をパパに怒られるって泣きじゃくる妹分をあやしながら歌を合唱して闊歩するのが楽しかった」

「子供の頃にしか出来ない大冒険。後で目いっぱい親に怒られて、それでも私は意地っ張りだったから泣きもしなかった」

「僕は泣いたよ。幼馴染み達のブレーキ役だったから、でもあの時はわくわくが勝っちゃって自制心が効かなかった。若気の至りですなー」


 やはり王子様とは話がよく合う。昔何処かで出会った事もあるのかもしれないね。


 この後、暫くこれと言って中身のないたわいのない話して、


「さて、加藤さんあの後どうなったんだい? エー君とビー君と君の恋の話」

「まだ答えが出ないでいます。エー君に迷惑がかかるんじゃないかという恐怖が先行してまして」

「君は彼の事が好きなんでしょ? もう答えが出てるんだったら、やることは一つだと思うのだけど……」

「告白をしようと思ってます。嫌われてるから無駄でしょうけど。それがけじめだと思ってます」

「頑張って。応援してる」

「ありがとうございます」

「僕も好きな女の子を遠ざけて後悔している。本当だったら告白したいんだけど僕に勇気はない。だから君には頑張ってほしい。君の思いが成就することを願っている」

「でも、多分このままだとエー君に会えないと思います。何かと邪魔が入っちゃうんで。 必ず会えるなにか良いアイデアありませんか?」

「最後はなりふり構わないで、相手が予想できないようなことをすればいい」


 それは女神会長と妹も言っていたんだよね。


「それだけでは足りないです。確実に伝えたいんです」

「それだったら始業式だね。仲間ともばらけるだろうし、待ち伏せして一人きりのところを突撃すればいい」

「ありがとうございます。これで光明が見えてきました」

「どういたしまして。君の幸せを心から願っている。どうかお幸せに」


 声は明るかったが目は悲しんでいた。


 この王子様はある大好きな人と一致する。


・幼馴染がいっぱいいる。


・差し入れのクッキーは、前に私を助けてくれた時食べたクッキーの味。


・普段隠しているが何をやるにしてもスペックが高い。


・整髪料の強めの匂い。癖が強い剛毛系。


・それにその心を鷲掴みされるような聞き覚えのある声。 


・そして黒田勘九郎と同じ部活。


 そのことを踏まえ、私の疑問は確信へと変わった。


「王子様はもしかして………いえ、何でもありません」


 確信をもった私は、王子様の正体をここで言及しようと思ったが、今一歩踏み込めなかった。怖かったのかもしれない。もし私のことを拒絶されたら生きていけないから。


 そう王子様の正体は——黒田勘九郎。 やっとわかった。今までの安心感。それはくろーの声だ。王子様とくろーが結びつけるもの。それはボイス。

 私を優しく包み込む優しい海のようなオーシャンボイス。なんで今まで気づかなかったんだろう?

 今はっきり理解した。黒田勘九郎は朗読の王子様だ。


 あの大好きな声を、私はずっと聞いていたんだ。あんな近くでずっと毎日。 毎日好きだって……。

 なのに全然気づかず罵詈雑言吐いて、 挙げ句の果てただのイケメンと付き合うなんてバカの骨頂だよ本当にもう。

 そうか、あのくろーが毎日言っていた好きを私は受け入れていいんだね。


 好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き、心の水門を開けた今、くろーが毎日囁いた好きが私の中へ一斉に流れ込んでくる。

 心の砦は好き攻めで敢えなく陥落。


「加藤さん大丈夫? ぼーとして、どうかしたのかい?」

「なんでもないですよ、くろ……いえ王子様♡」


 くろー。私のくろー。

 でも今王子様へ抱きしめることはできない。こんなにも好きなのにとても切ない。


 大好きな私の王子様、こんな近くにいたなんて……。

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