第38話 部活動として王子様と商店街巡りをする。でもほぼデート(スバルサイド)



 何処でもそうだけど商店街は寂れている。この街は近場に古くからある大型百貨店とショッピングモールに挟まれて、駅前なのに栄えているのは表道路だけ。一歩路地入るとシャッター街、閑散としていた。唯一賑わってのは酒場通りだけ。一応駅前に銅像建つぐらいに国民的アニメの聖地なのだけど、町おこしには反映されていないような気もする。

 ルートとしては事前に放送部でリサーチした人気店や人気スポットを回る。駅周りだけだけど西口東口と移動するので歩いて行くには結構距離がある。


「——で、初っ端からネコカフェかい」

「うわ、可愛いね。和むよ」

「そ、そうですねー」


 インスタ映えそうなおしゃれでカラフルな店内。メルヘンチックな内装の中、沢山の猫が思いを思いに活動していた。

 猫カフェとは猫とカフェが合併した新手の喫茶店だ。だか今は猫が主流であり飲食はおまけになりつつある。実際このお店も飲み物はセルフで、オフィスにあるような自販とティーパックでご自由にどうぞだそうだ。猫の可愛がらしさでごまかしているような感じ。 まあ実際問題衛生の面もあるし、お客さんの目当てはあくまでも猫なわけだからウィンウィンの関係なのかもしれない。

 でもね、猫好きの私に一言だけ言わせてもらうと、猫達は可愛くない。いや愛くるしいんだけど、もふもふなんだけどね。でもねでもね、人馴れしているもんだから寄ってこない。いや、もう毎回毎回知らない奴らばっかり来るもんだからうんざりしているんだと思う。

 カラフルな猫じゃらしを振って一生懸命遊ぼうアピールしてるんだけど別売りで販売している餌持ってないと大体無視される。二十匹以上いるんだけどねぇ……。

 何故にー!?

 全員なんか不良っていうかやさくれてる感じ……。なめんなよと言ってきそうで怖い。


「可愛いね、でも君の愛くるしさに比べたら見劣りするけど」

「そうかな」

「君は猫っぽいからね。喜んだり拗ねたり怒ったり、表情がコロコロ変わるから見てて飽きないよ」

「ありがとうね」


 いやこれ、ちょっとこじつけというか強引じゃない?

 いやいや嬉しいけど、超嬉しいんですけど。演技だからねー、これ演技だから釈然としないものがある。


 その後もデートは続く。

 次の行き先はファンシーショップ。

 店構えは普通のクリーニング店とか金物屋さんなんだけど、内装が可愛いもので溢れていた。

 文房具とかぬいぐるみなどのグッズ。個人店なんで流行からずれているのはご愛嬌。逆にレア商品とかプレミアついている物が定価で売られているから侮れない。

 誰のチョイスかは分からないけど中々いいところを突いてくる。多分、母里さんというオデコちゃんのセンスだろう。何故なら常連さんらしいのか商品を買ってカードにスタンプ押してもらっていたからだ。


「可愛いものばかりだね。僕は普段こういう女の子が好きそうなお店に入らないから場違い感があるよ」

「ありますよね。私もプラモデルのお店とか入れなかったですもん」

「わかる。あ、これなんか子供の頃の絵本で読んだキャラだ」

「あー私も持ってましたよ。このぞうさんなんてまだぬいぐるみが家にあげますよ」

「ぬいぐるみ好きなんだ?」

「ええ、妹と一緒にいっぱい集めてましたよ」


 やっぱり何処かで見たことある横顔。でもこんな安心感のある人なんてあったら忘れないはずなんだけどね。


「そうだ加藤さん。これよかったらもらってくれないかな?」

「ええ⁉ わ、悪いですよ」

「いいよ。君にもらって欲しいんだ。身につけてくれると嬉しい」


 私の大好きなキャラ、猫のニャン太郎のキーホルダーだった。しかも十年前の超限定モデル。マニアにとってはウルトラ危険なブツだよ。それ?

 こんなもん身に付けた日には速攻でひったくりに会うこと間違えなし。


「ありがとうございます。でもなんで私がニャン太郎が大好きなの知ってるんですか?」

「いつも鞄に……じゃなくて知人から聞いたんだよ」

「そうですか」


 私は釈然としなかった。何故ならニャン太郎が好きな事を知ってるのは妹の織音だけだったから。まー身に付けているからそれで周囲に知られている可能性も有りか。


 本屋、お土産屋さん、図書館、市の歴史資料館、学生らしい場所を次々と巡っていく。一応ストーリー仕立てなので王子様のセリフは深くなってる。

 私はそれに合わせて相槌を打つ。

 やってる本人はただ王子様と一緒で幸せなんだけど、内容としてはいまいちなんだ。これを編集すると完璧になるという。制作側ってこんな感じなんだね。


 次はゲームセンター。最近は活躍の場をデパートとかショッピングモールに奪われて、ゲームだけでやってる場所も少なくなってきてる。

 ここは音がうるさいからセリフは後撮りになる。プレイしたという音だけ取ることになる。

 要は普通に遊んだ。その方が臨場感も出るし、気が楽だし、なりより楽しい。


 カップル定番のガンアクション。

 これ大和ともやったことはあるけど相変わらず難しい。なのに王子様は見た目と違って超絶技巧を披露。やり込んでいるのか次々と敵を先回りして倒す。仕草がいちいちかっこいい。近くにいる母里さんなんて目がハートマークになっているし。

 対して私は未だに弾がなくなる度に行うリロードという、余計なアクションが上手くできないので王子様のサポートどころか足手まといになっていた。

 王子様が相変わらず可愛いポンコツと言った気がしたが、そんなこと言うわけないよね。聞き違い聞き違い。


 次に音ゲー。

 これは私得意よ。大画面に流れてくるアイコンをリズムに合わせて正確に押していく。これは隠れてストレス発散の為にやり込んでいる。

 で、王子様はというと……神業だった……。動画配信してる人達クラスの妙技。まさか生でゴッドモードの超地獄激ムズ曲なんかクリアする人をおめにかかると思わなかった。

 それに比べたら私はノーマルクリア出来て喜んでいた山の大将、久しぶりに劣等感を味わった。おのれ流石は王子様。


 次にクレーンゲーム。

 半端なくやってるけど、これはやりこんでいるというかただお金を無駄につぎ込んでいる。要はど下手くそなんだ。私は物量作戦でしか取ったことはない。だって難しいんだもん。何回ブツを左右へ行ったり来たりさせたかー。

 まあ今日は別に欲しいものがないから無様な姿を見せなくて済むそうだ——ああー今日に限って巨大ニャン太郎人形がいるぅぅ! これは要救助、レスキューの必要性あり。収録中だということを忘れて軍資金をチェックせずコインを連続投下していく。だが結果は散々びくとも動かなかった。動かざること山の如し。   

 くー! なぜだぁぁ!?


「加藤さん、ぬいぐるみ欲しいの?」

「あの子が救いを求めているのですじゃ。出してあげないと」

「はははっ、面白いこというね。僕にもやらせてよ」

「どうぞどうぞ。でも難易度高いですよ」


 だが、王子様は一発でゲットした。鬼すご。これもやり込んでいるだとー⁉

 私の隠れた趣味を全て凌駕するとは……。

 ぬいぐるみを渡されると王子様の手に触れた。その瞬間どこかで嗅いだことのある匂いが記憶とともに鼻腔をくすぐる。強い整髪剤とシャボンの香りか……。

 やっぱり私はこの人と会ったことがある。 しかも嫌な思い出ではない、いい思い出だ。 直感でわかる。誰だ? 誰なんだ?

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