第31話 僕はいつでも蚊帳の外
◆
砂浜 午後十四時
僕は浜辺で座っていた。よせては返す波の音に暫し耳を傾ける。暖かな浜風とセッションすると心地よいサウンド。普段は雑音である人の声もいい具合にマッチングしていた。
砂の上は慣れると案外気持ちいい。天然の砂風呂。眠たくなってくる。
今メガネを外しているから視界が悪かった。なので音だけが頭の中へ入ってくる。何も見えないわけじゃないがピントが合わずぼやけているだけ。
僕は疲れたから留守番していた……とこれは建前で、正確にはコンタクトを落としてしまって危険だからまだ泳ぎ足りないけど僕だけ戦線離脱。
他のメンバーは再び海で泳いでいた。
アクアは人魚姫と言われているだけあって水の中では縦横無尽。いつものゆるキャラが嘘のようである。ダイワと女神姉ちゃんが何度も競争して勝てないのだから、水中戦に特化しているのは間違いないだろう。丘に上がったら血抜きをしたマグロみたく大人しくなるのにね……。
何も変わらない静かな午後…………のはずだったんだが、「大分楽になりました」実は今パラソルの下に人が寝ている。面識はまったくない。さっき女性が倒れていたんだ。暑い中長時間歩いていたから立ちくらみしたそうだ。
「大丈夫ですか? 酷いようならライフセイバーの方に救援を呼びますが……」
「ありがとうございます。でも大丈夫ですよ。ここで暫く休息させてもらったので大分回復しました」
冷たい水のペットボトルを渡すと、女の人は飲んでくれた。
紫のビキニ。ブラとお腹辺りに生地がクロスしていて何もないよりエロかった。
「お姉さんまだ日差しが強いですから、ここで一旦休んでから行動した方がいいですよ?」
「ありがとうございます。でも、そろそろいかないと……。実は私、妹を探しにここまで来たんです」
「妹さんですか……連絡手段はないんですか?」
「いや、そういうわけではなくて、相手に見つかったらかえってまずいと言いますか……。妹が海へ遊びに行こうとしたのですけど、参加するメンバーを問い詰めるとはぐらかされたので気になって尾行してます。男の匂いがしたんで」
うちもそうだが最近の姉は行動力が半端ない。ちょっとしたことで感が働き探偵並のストーキングをする。お姉ちゃんセンサーでもついているのではなかろうか?
「それは穏やかじゃないですね」
「あの子に男はまだ早すぎます。世間知らず過ぎますから。もし悪い男に捕まったらあの子の一生は台無しになってしまうので。姉として守ってあげないと………!?」
突然、用事を思い出しましたと慌てて出て行った。
「勘九郎、今、誰かいなかったか?」
「ダイワか? 女の人が倒れていたから介抱していたんだよ」
ダイワの顔を見るなり逃げていった。余程悪いナンパ野郎と勘違いしてしまったに違いない。
「そうかー、どこかで見たような……まさかな。ないない。そんなことより全然見えないのによくいられるな」
「何も認識できないことはないんだよ。ただのド近眼だから。離れているものが視界悪くぼやけているだけ。メガネかけてると泳げないからね」
最初泳ぐの想定してコンタクトだったんだけど、両方とも泳いでいるうちに落としてしまって見えない有様。情けないったらありゃしない。
「ダイワ、僕はここで留守番をしているから気にしないで泳ぎに行った方がいいよ。時間がもったいないからね」
「悪いな勘九郎。いつもお前にばっかり気を使わせている」
「そんなことはないよ。好きでやっているんだ。それに僕も十分にハメを外させてもらっている」
「それだったらいいが……」
嘘はついていない。元々人混みは苦手だからこうやってぼっちの方が何かと気が楽なんだ。
「ホクトとか他のメンバーは? まだ泳いでいるのかい」
「いや、北斗達は浜辺を歩っているよ。流石にアクアとのガチ勝負は堪えたわ。あいつゆるキャラのくせして水に入るとまじ魚雷だわな」
ダイワ達十分速いんだけどね。相手が悪い。
「でも、散歩ってみんな美少女だからナンパされるんじゃないの。ダイワが一緒にいなくて平気?」
「よく言う。女神さんが一緒にいるから大丈夫だって。あの人、ナンパ野郎に容赦しないから。セールスやキャッチも力でねじ伏せるし」
「なるほどね。確かに」
その様子が容易に想像できた。頭で理解できないものは全て悪。さすが脳筋女子。
「あーそうだ。俺ここにいるから何か食べ物買ってきてくれないか。腹が減ってしまってさ。チョイスは任せる」
「了解」
外れ役ばかり引いている僕へのダイワなりの気遣いだろうか。役になりきれないと何もできない、そんな三流の不器用なカタコト大根役者ぶりに苦笑する。そんなに気にしなくていいことなんだが。
海の家へと足を進めていると、「痛い!」 誰かは僕にぶつかってきた。
バランスを崩して倒れる。
メガネを外しているから回避から遅れてしまう。
「大丈夫かい君?」
「ええ、大丈夫です」
「急いでいてさ。ごめんね!」
「いえいえ」
手を差し伸べると掴み立ち上がる。
近眼だからどんな人かわからない。でも、目を細めると男の人だった。それも凄くハンサム。無地のシャツと海パンだけなんだけどかっこいい。
「あ、そうだ、ちょっと人を探していて。こういう人を見かけなかったかい?」
スマホ画面を提示。そこにはよく見知った人の姿があった。
……福島北斗。ホクトだ。なんで?
「よく知っています。僕の幼馴染みなんで」
「え? 幼馴染だって?」
するとイケメンの人は近距離まで近づき、まじまじと観察する。
「ええ、幼馴染み皆で今日一緒に遊びに来てるんですよ」
「…………………! そ、そうなんだ……」
何故か突然様子がおかしくなった。
ホクトにどんな用事か尋ねようとしたら、きゃあー!カリン様だ! と周りから悲鳴が上がる。この人かりんって言うんだ? しかも相当有名人らしい。
「ごめんね。用事を思い出したから俺はもう行くよ」
「はい、ホクトに何か伝えましょうか?」
だがもう遠くにいて返事が返ってくることはなかった。慌ただしい人。一体何だったんだろうな?
買い物済ませるとパラソルの下にはホクトが何もすることなく人形のように座っていた。お地蔵さんかよ。
「疲れたのかいホクト」
「うん……休憩中」
「そういえばホクトのことを探していた人がいるよ」
「探していた人?」
「オールバックの凄いかっこいい男の人だった。知り合い?」
「知らない。誰だろう?」
「すごい有名人みたいだよ。周りからカリン様って騒がれていた。芸能人かな」
私にそんな知り合いはいないはずなんだけど……スマホを確認すると「ごめん、ちょっとお花摘みに行ってくる——痛い」急に立ち上がるから挿してあるパラソルに頭をぶつける。
「分かった。気をつけてね」
無表情だが相当慌てていた。近くにいたダイワもいなくなる。いつか僕もその輪に入る事ができるのかな。また僕は疎外感、赤の他人の気分を味わっていた。
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