第16話 青春のひとコマ、一瞬の輝き


 ◆


 午後のプログラムは、高等部のダンスから始まる。

 ダンスは学年別紅組白組で行う。

 三百人超えを二つに分けてやるので見応えはあるだろう。うちの学年は男女混合で行われる。

 グラウンドの中央へ集った僕達が初期配置につくと名前順なので隣は加藤さんだった。


「おー黒田、 髪型似合ってんじゃん」 

「ありがとう加藤さん。君も太陽の妖精みたいだ。とても好きだよ」

「うん……まー、その……ありがとう」


 いつもの挨拶なんだけども恥ずかしそうだった。お互いいつもより開放された気分だからだろう。


「加藤さん自信はどう?  ブルってない?」

「ちょっと緊張、 トイレ行きたくなってきた……」

「ダンス中おしっこ漏らしたら一生の恥だね」

「うう、そういうこと言わないでよ。妹に生暖かい目で見られるのだけは嫌だよ」

「冗談」


 緊張を解きほぐす為のジョークなのだが、逆効果だったみたい。


 曲が流れ初め、躍り出し部分片手を掲げた。


 女神姉ちゃんが調整した今流行りのJ - POPのリミックスと自ら手がけた振り付けで観衆は大いに盛り上がる。

 意外にも音楽関係に精通している女神姉ちゃんはこういったことが得意なんだ。

 お陰様で僕ら生徒は一体感となって大いに弾け飛ぶ。合同練習の時よりキレているかもしれない。

 最後までノリノリハイテンションで踊りきる。

 拍手喝采。


 勿論完璧以上にこなしている加藤さんと、人気者の幼馴染み達が注目の的だった。

 僕はいつも通りモブに徹しているのでドライな感じなんだろうか、撤収時に周囲を眺めると女子達は顔を赤らめ目をそらした。怒っているのかな? いつもより嫌われているな。


「大和カッコよかったよ」

「統星もな」


 二人はハイタッチ。ベストカップルだ、絵になる。


 真実を知っている銀河先生は僕に問いかける、それでいいのかと。みんな幸せだったらそれでいいと答える。

 もっと貪欲になれ、ばかもんがと優しく頭を小突かれた。

 

 続く借り物競争で加藤さんは注目の中、ダイワを誘う。


「大和来てよ」

「俺でいいのか?」

「うん、多分これで正解だよ」

「了解だ」


 座っているダイワを引っ張り上げ加藤さんは走る。

 今度はヒノワが僕の前に来た。


「よう、そのカンタ協力してくれる?」

「勿論喜んで」


 微笑んだ。 

 顔が赤くなってる。


「とにかく行くよ。大和にだけは負けたくないからね」

「了解」


 手を繋がらない代わりに体操着を掴む。初々しいカップルか実際は兄弟みたいな間柄。

 予想通りヒノワとダイワの一騎打ちになった。

 同時にゴール。

 お題を確認。  


 『好きな人』


 お題を公表、好きな人とでると会場にどよめきが走った。付き合ってんのか、憧れなのか、ただ単に友達ライクなのか憶測が広がる。

 全校生とがざわめく中、なぜだか僕の心もざわめく。


 ヒノワのお題

『なくてはならないもの』


「はははっ、お世辞でも嬉しいよヒノワ。僕のことを元気づけようとしてくれたんだろう」

「そうだよ……」


 ちなみにこの後、会長にも拉致られてる。お題は弟萌え。ぶれない……。絶対それ女神姉ちゃん自ら仕込んだよねー。


 プログラム、男女混合クラス対抗リレー。

 100メートル✕六人。


 放送部からアナウンスが入ると僕らは白線を引き直したコースの配置場所へと行く。

 最後のリレーで僕は走ることになる。本来なら運動部で固めるのだが、ダイワとヒノワの強い推薦があって場違いながらここにいる。会場は女子のブーイングの嵐だと思ったが以外にも静かだった。


 第1走者がスタートラインに着く。

 リレーは先鋒が最重要。実力のある者を配置するのはベターだ。

 なので運動部で名の通ったやつが多い。その中でひときわ目立つものが一人。クラウチングスタートで解き放たれるのを待つ猛獣、またの名を糟屋陽輪。 男子で選抜されている中、紅一点唯一の女子。

 ピストルの空砲が鳴ると同時にそれは弾かれた。

 電光石火。調子悪そうだったのが嘘のように群を抜く。他と圧倒的差をつけて次へ、駆け出した第二走者とヒノワがそれぞれ腕をのばしバトンパスをスムーズに行う。

 後方からが距離を縮める中第三走者、第四走者の加藤さんとバトンパスは繋がり僕の番が来る。


「黒田! あとは任した!」

「了解」 


 僕は動き出し加藤さんへ意識を合わせ一瞬落としそうになるもバトンを受け取る。


 運動部ではないけどランニングとかはダイワとヒノワに付き合ってよく走り込んでいたので足の自信は割とある。

 だが不運にもコーナーを曲がる時捻ってしまい転倒してしまう。僕に情熱はないが任された以上やり遂げる義務がある。 抜かされた今、追われるから追う立場。全力で追いすがる。そしてダイワがアンカーで待っていた。


「ダイワごめん!」

「気にすんな勘九郎! こんなのハンディにもならん。俺は常に仕事として身体を鍛えているんだからな。お子様のお遊戯とは覚悟が違うわ」

 

 有言実行、ここから一気に加速。一人また一人と気づいたらゴボウ抜きしていた。このままダイワは見事に一着をもぎ取る。大いに湧く歓声。

 

「だぁぁぁぁ!」


 ダイワの咆哮。蓋を開けばうちのクラスの完全勝利で幕を閉じる。


「お疲れ黒田」 

「加藤さん。ごめん。折角君が繋げた想いを無下にしてしまった」

「きにすんなって。 あんたは頑張った。皆非難しても私だけは褒めてやるよ」


 僕のお腹にポフっと拳を当てると、「ありがとう。好きだよ加藤さん」素直な気持ちでその言葉が出てきた。 


「うん、あんがと。私も好きだよ」


 でも別に僕に向かって言ってるんじゃない。加藤さんの視線の向こうでホクトと抱き合っているダイワへ言っているんだ。  

 まただ、恋人がいるのに衆目の面前で海外のようなハグは控えたほうがいい。幼馴染みでももっと気を使え。焼き餅も度が過ぎると猛毒になる。ホクトはキスどころか僕にはあんなことやらなかったのにな……。まー元々好きでもない相手にできるわけもないか。僕はホクトにとってただの隠れ蓑だったってことだ。


 キラが興味本位なのかカメラ回しているから拡散させないように釘をうっておくか。あと女神姉ちゃんにも生徒達の拡散防止を促しておこう。

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