最終話(仮) ドラゴン、ゲートに立つ‼

 私がこの地に来て、四年目の初夏。


 二歳・新竜戦。純粋なスピード勝負の平地競走、二千メートル。


 私が竜主ドラぬしであることを示す黒地に水色のタスキ模様と袖に黄色の二本輪が入った「勝負服」と呼ばれるユニフォームを着たハルカさんに、騎乗されたジャックポットユズがコースに姿を現す。


 自分の大学受験や入社面接の時よりもドキドキする。柵を握りしめている私を心配したのか、エイジさんは「大丈夫」と、そっと上から手を被せてくれた。



 電光掲示板に、次の第五レースの枠順が表示される。


1枠 ヒコヤモリス

2枠 キャプテンケプリ

3枠 タブリバス

4枠 ジャックポットユズ

5枠 ハニエルキャンサー

6枠 ヌトグーズベリー

7枠 モリンジュリオ

8枠 マミーオブコニカ

9枠 チリカロベリア


 そして、いよいよ勝竜投票券ことドラ券の購入が締め切られた。



◆◆◆



 一騎ずつ、自身のスタートゲートへ入っていく。ジャックポットユズは、少し緊張しているのか、四枠ゲートの手前で止まってしまった。


 ハルカは無理に急かせずに、彼の首を撫でる。キュルっと鳴くと、彼はハルカの方へ不安そうな瞳を見せる。


 これから二人で伝説を作るのだ。ビビってんじゃねぇぞ。


 そうハルカが笑うと、ジャックポットユズは武者震いするように、頭をブルブルと振り気合いを入れ直して、再度ゲートへと歩みを進めた。



「二歳・新竜戦第五レース。一番人気は、ジャックポットユズ。龍堂ヒデオ調教師、八年ぶりの出走竜。しかも、娘である競竜けいドラ界のサラブレッド・龍堂ハルカが騎手を務めるということで、デビュー前から注目が集まっておりましたが、仕上がりも良好。各社、にじゅうまるの本命予想です」

 

 スタートゲートの中で、ハルカは目を閉じると、大きく深呼吸した。そして、目を開ける。


好天こうてん。芝コース、コンディション良。……四番ゲート、ジャックポットユズ。少しゲートに入るのを嫌がっているようでしたが、先ほど龍堂騎手に促されて入りました。待っていた一番ゲート、タブリバスも入って、ゲートイン完了です」


 ガッタン。全騎のスタートゲートが開いた。一斉に競争竜たちが走り始める。


「スタートしました。九騎まずは第1コーナーを目指しますが、モリンジュリオがじわっと先頭に立ちます。二番手からハニエルキャンサー、タブリバス、内はキャプテンケプリ、四騎広がりました。五番手も広がって、ジャックポットユズ」


 前方四騎、後方四騎に分かれつつも、作戦通りジャックポットユズは、他の竜と並走しないように中間を維持する。彼は他の竜に並ばれると、一緒に走ろうとしてしまうからだ。


「ヒコヤモリス。さらに、ヌトグーズベリー。そのうしろ、マミーオブコニカ、最後方からチリカロベリアが追走です。九騎、やや固まりながら、第1コーナーのカーブに入ります」


 勝負はまだまだ先だ。ハルカは、彼に「まだだよ」と落ち着かせる。


「まず、キャプテンケプリが四頭からわずかに出ました。キャプテンケプリ先頭、半竜身ドラしんのリード。続いて、タブリバスが二番手、三番手は一竜身いちドラしん差ハニエルキャンサー、うちにヒコヤモリス。その間にジャックポットユズが五番手につけています」


 全騎、半から一竜身いちドラしん差程度でバラけており、このジャックポットユズにとってかなり有利なレース展開に、ハルカはとんでもない強運を持つ兄嫁の顔を思い出して、唇の端で少しだけ笑う。


「そのあとモリンジュリオと、六番にヌトグーズベリーで、うしろから二頭目マミーオブコニカ、最後方にチリカロベリアが追走。先頭から殿しんがりまでは、七、八竜身ドラしんです」


 コースの半分を過ぎたところで、三位と四位の間から、まずは遅れ始めて四位に落ちたハニエルキャンサーを抜き去る。


「向こう正面1200は、キャプテンケプリが先頭で通過、一竜身いちドラしん半のリードを取りました。タブリバスが二番手。ヒコヤモリス三番手、四番手にジャックポットユズが上がりました」


 四位を維持したまま、最終コーナーまでは、並走せずに前を追いかける形で行けたらベストだ。兄嫁の豪運に賭けよう。


「ハニエルキャンサーが五番手、そのあとヌトグーズベリー、さらにモリンジュリオ。ドラ順変わらずマミーオブコニカ、最後方チリカロベリアと追走です」


 じれったく前方の三騎との差が詰まる。並走は避けたい。追うか、抜くかだ。


「第3コーナーの手前。先頭キャプテンケプリのペース、リード一竜身いちドラしんで間もなく800です。二番手にはタブリバスで、800を切りました。ヒコヤモリス三番手、ジャックポットユズ四番手で、前四騎がやや固まってきました」


 まだだ。手綱越しに彼へ思いを伝える。ジャックポットユズは我慢強く、聞き分けもいい。


「あと五、六番手には、ヌトグーズベリーとハニエルキャンサー、それからマミーオブコニカ、そのあとにモリンジュリオ。チリカロベリアはちょっとおっつけていますが、まだ最後方で600を切っています。第4コーナー、カーブ。キャプテンケプリ先頭、二番手タブリバス」


 残り四百メートル手前で、ハルカは彼にようやくGOサインを出した。



 



「おおっと! ジャックポットユズ三番手に上がって、外からグーンと前に接近。残り400を切りました。直線に向きます。ヒコヤモリスが四番手……ここで、ジャックポットユズが一気に先頭か!?」


 ジャックポットユズは、前の三騎を一気にトップスピードで抜き去る。


「ジャックポットユズ先頭! あとの二番手は、タブリバスとキャプテンケプリの争いに。外からはヌトグーズベリーあるいはヒコヤモリス二番手に迫ってきますが」


 それでいい。誰もお前の横に並ばせるな!


「先頭は抜けたジャックポットユズ、二番手はもう一度キャプテンケプリが伸びて、三番手にタブリバスです」


 ゴールラインを超える。ハルカは相棒が安全に止まれるようになるまで、そのままコースを走り続ける。


「先頭ジャックポットユズ、ゴールイン! 後続に、三竜身ドラしん差をつけての快勝です! 最高の形でデビュー戦を飾りました!」


 ようやく彼が止まると、彼女はガッツポーズできない彼の代わりに、高く拳を天に突き上げた。



◆◆◆



 ジャックポットユズは、この後「怪物」と呼ばれる活躍を見せ、数多の額の賞金を稼ぐことになるが、本当の意味でその名の通り、柚子に大当たりジャックポットをもたらし続けるのは、もっと後の話である。


 そう。種付け料一発、四千万円の超モテモテ種牡竜しゅぼりゅうとして。



(第三レース・終)

******

 本作は、ここで一旦完結とさせていただきます。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました! もし、少しでも本作お気に召しましたら、ぜひぜひ星★評価をお願いします!

 星とか作品フォローがたくさんついたら、私のやる気がうなぎ登りです。へへっ。


 なお、誤字脱字等につきましては、対象各話の応援コメント欄にて教えていただけますと幸いです。

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ドラゴンズ・ダービー 笹 慎 @sasa_makoto_2022

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