第10話 君が死んだ夢を観た、生きている君が死んだと告げてきた
君が死んだ夢を観た、生きている君が死んだと告げてきた とは母の本棚から見つけた二十年前に流行った詩集の一節だ。その詩はこう続く。君と抱き合って僕は謝った。君はまだ僕のように死んでいない。と。
牛小屋の中から次々に魔法船が兵士たちに引きずり出されてくるのを横目に、僕とバーンズは軍人から地図を見せられ
「ガキども、第四歩兵師団の陣地の支援に今から向かう。こっちは五十しか出せない。そっちの赤髪には剣を与える。お前は詩を読んどけって命令だ」
そして軍人はいきなりわざとらしく腹を押さえると
「いててっ……腹の古傷が化膿してるな。あーこれは軍法の緊急退避の項目に引っかかるなー。大老の客人に怪我はさせられん。おい!ベージュ!お守りいけるか?」
明らかに少年兵と思える小柄な坊主頭の兵士が駆けてきて
「イエッサー!」
と敬礼してきた。彼の制服には焦げた跡が所々ついている。男は顔をしかめると
「前に出るんじゃねえぞ。出たら懲罰房送りりだ」
少年兵は純朴な真顔で頷いた。
暮れていく夕陽の中、五十の魔法船は次々に浮上していく。それぞれの船に二人ずつ兵士たちは乗り込んでいて、僕達の船だけ僕たち二人と少年兵の三人だ。彼は後部に座って両目を閉じ、操船に集中している。僕らの魔法船は列の最後尾を軽快に飛び始めた。バーンズが僕の耳元で
「……あの隊長は、きっと死ぬつもりです」
そう囁いてきて驚いてその顔を見てしまう。
さらにバーンズは
「なのでミャドルさんが我々を同乗させようとしたのでしょう。そして彼は理由をつけて我らを遠ざけた」
「そんな……」
僕は辛くなってしまう。バーンズは僕の両肩を持つと
「坊ちゃまは、戦場にたどり着いたらカーミラさんの例の詩を読むことに集中してください。もしかしたら何か起こるかもしれません」
「……あの時みたいに?」
バーンズは黙って頷く。確かに僕を戦場に連れてきて詩を読ませるなんて、それしか理由は思いつかない。でも……僕は……男として甘いかもしれないけど僕のせいで、誰か傷つくのは嫌なんだ。ジェムルスが、同級生たちをあっさり倒したような、怖い魔法なんてもう使いたくない。僕は兄様達のように軍人ではなく、文学や文書を扱う仕事がしたい。だから……ああ、それは長男として我儘ですか?兄様たち……僕はどうしたら……。
悩んでいると、眼下の山林がすっかり暗くなり、遠くに花火のような閃光が何本も走っているのが見える。同時に前方から
「出力は落ちるが前方には魔法盾張れ!事前に募った八人は俺と南から回り込む!」
そう拡声された声が響くと、ほぼ全ての魔法船前方に緑に輝く大盾が出現した。だが僕らの魔法船には出ない。バーンズが耳元で
「漕手は操船で手一杯のようです」
と言いながら、剣を抜き、立ちあがった。そして周りに聞こえる大声で
「私はバーンズ!シーレム・ヴィコム様の壱の從者だ!この船の上半分は私が守る」
と言いながら、、渡された剣を抜き、刀身を緑に光らせて前方に構える。次の瞬間いきなり左横から
「魔法剣かい。悪くねえ。ただ戦場入ったら黙っとけよ。名乗りは馬鹿のすることだ」
というあの軍人の声が聞こえて、スーッっと複数の大きな気配が僕たちの船の下をすり抜けていった。
「バーンズ、いつの間にそんな技を……」
僕の言葉にバーンズは背中を向けたまま
「全ては、あの詩を聞いた日からです」
そう言った。
女になるはずだった僕は、みんなから愛される 弐屋 中二(にや ちゅうに @nyanchuu2000
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