第83話 クロ
「…なんだ?なんか声が聞こえたような…」
何かの呼ばれた感覚が身体をめぐり、ゆっくりと目を開く。目を開くとそこは俺の部屋ではなく、真っ暗な闇の世界に俺は佇んでいた。
しかしよく目を凝らすと暗闇の奥に廃墟のような建造物が広がっており、俺の周囲は酷く荒廃したストーンヘンジのような大きい石柱に囲まれていた。
足元を見ればひび割れた大理石のような石畳の上に立っており、よく見えないが一部には模様が書かれているようにも見える。
「ここは…夢の中なのか?それとも寝ぼけてるだけなのか?にしてもなんだここ…まるで戦争のあった街みたいな…縁起でもないな。北枕を避けて南に枕を置いて寝てるってのに…」
今の時代そんなことを気にしている人はごく少数だとは思うが、俺は以外とそういうことを気にするタイプだ。まぁ半分は爺ちゃんの教育方針というか、縁起をよく気にする人だったからってのもあるかな。
それはそうといくら俺の部屋が綺麗でないとはいえ、ここまで酷い散らかった汚さではない。そもそも俺はベッドで眠っていたはずなのに、今こうして立っているというのもおかしな話だ。
どこなのかを探るために歩こうとしたが、何故か身体が動かない。
『おいあるじ、きいているのか?こっちをみろ!』
動かない身体に困惑していると、俺の背後からさっき聞こえた声が聞こえた。俺がびっくりして後ろを振り返ろうとすると、先程とは違って身体がとても軽かった。
「なっ…誰だ?」
『おお♪やっとあえたな、わがあるじよ!あえてうれしいぞ』
振り返ったすぐ先には荒廃した遺跡の祭壇のような場所があり、その祭壇部分が崩れたのか瓦礫が積み上がっていた。
その上の部分だけ赤い光が空から照らされており、まるでスポットライトのように光の当たっている瓦礫の上に寝そべりながら、前足をペロペロと舐めて毛繕いをしていた黒い猫が俺に話しかけていた。
「あ、あるじ?俺は黒猫なんて飼ったことないけど…誰なんだ?君は…?」
『おやおや…これはしつれい、わたしのなまえは―――いや、せっかくだからあるじにつけてもらおうかな。さぁあるじよ!わたしになまえをつけてくれ。わたしがなにものかはそのあとにおしえよう』
「名前か……」
この目の前の黒猫には聞きたいことが山のようにあるが、名前をつけないと話が進まないみたいだな。
「じゃあ…安直だけど『ノワール』でどう?本当にそのまんまだけど…」
『ノワール…たしかニンゲンのとあるげんごでクロをいみすることばだったか…?すばらしいなまえだ、かんしゃするよ』
ノワールと名付けた黒猫は気に入ったように目を細め、シュタッと瓦礫の頂上から軽やかに飛んで俺の足元に着地した。
『ではケイヤクどおり、わたしのしょうたいをおしえよう!わたしはあるじがつかっているノウリョクそのもの…つまり『時間停止』『記憶操作』そのものさ!つまりはあるじのあいぼうといってもかごんではないぞ?』
ふふんと俺の足元でドヤッているノワールの発言に俺は驚く。
「えっ!?」
『しんじられないか?ならば『チカラ』をつかってみるといい。はつどうしないからな』
「じゃあ…『
そう言われて俺は目の前のノワールに向けて『時間停止』を使おうとする。しかしチカラは発動せず、それどころか俺の足元にいたノワールの姿がパッと消える。
「あれ…?ノワールがいなくなった?」
キョロキョロと辺りを見渡すが、俺の目に映るのは真っ暗な闇と大きな石柱と瓦礫だけでノワールの姿はなかった。
『どこをみておる?あるじよ、わたしはここだぞ?』
すぐ近くから声が聞こえたかと思えば、俺の顔の横からヌッとノワールの顔が現れる。
「どわっ!?な、なんで俺の肩に乗ってるんだ??いつの間に―――いや、そういうことか…納得したよ……」
『さっしがよくてたすかるよ、これでわたしがあるじのつかう『チカラ』のけしんであることがわかってくれたかな?』
俺の肩から軽やかに飛び降りたノワールは俺にそういうと、さっきと同じ位置に座って俺を見上げてきた。
「…時間を止めて俺の肩に乗ったのか。まさか使われる側になるとは思わなかったよ…。こんな感じなんだな、止められた側は…ノワールの言い分を信じるしかなさそうだな」
『そのとおりぃ〜!さいていげんのコミュニケーションがとれて、わたしもあんしんしたよ。それすらできないニンゲンもたくさんみてきたからねぇ…』
「ノワールが俺の使うチカラの化身なのはわかったんだが、ここはどこなんだ?俺は自分の部屋で寝てたはずだし、そもそも何の用で話しかけてきたんだ?他にも能力の事で聞きたいことが沢山あるんだよ!」
『まぁまぁおちつけあるじよ、こんかいやっとあるじとの『
「時間がないって…俺だって聞きたいことがめちゃくちゃあって―――いっ!!?」
キラリと鈍く光る真紅の瞳を向けながら、尻尾を左右にフリフリと振っているノワールはそういうと、突然俺の頭にさっきまでは無かった痛みが徐々に広がっていく。
『なんだあるじよ、あたまがいたむのか?』
「あ、あぁ…どうやら夏バテみたいでな…体調が悪いんだよ最近」
『そうかそうか、ではわたしがなおしてやろう』
ピトッといつの間にか伸びてきていたノワールの尻尾が俺の額に触れると、さっきまでの頭痛が嘘のように消えていく。
『どうだ?なおったか?』
「あ、あぁ…嘘みたいだ、すごく楽になったよ!ありがとなノワール!」
『みずくさいことをいうなあるじよ、われわれはパートナーなのだからな』
俺がニコニコしているノワールに感謝してからすぐ後に地面がゴゴゴゴゴ…と音を立てて揺れ始める。
「な、なんだ!?地震!?」
『どうやらじかんぎれらしい、あるじよまたこんどあおう』
ノワールのその言葉を聞いた後、すぐに俺の視界が真っ黒に染まる――――――
◇
チュンチュン……チュンチュン…
スズメの鳴き声を聞いて俺は自分の部屋のベッドで目を覚ます。窓を網戸を張ってはいるものの、エアコンを点けずに開けたまま寝ていることもあって外からはスズメの鳴き声と、何処かの家の朝ごはんの匂いが部屋に漂ってくる。
「ふあぁ…もう朝か……なんか食うもんあったかな…。今日は買い物と棗さんに返す本を準備しないとなぁ」
ベッドから立ち上がってカーテンを開け、窓からさす日光を浴びながらグッと身体を伸ばす。
「そういえば昨日なんか夢を見たような……なんだったかな―――ってあれ?頭痛がなくなってる?…まぁいいか!とりあえず着替えて飯食ってから買い物に出かけよ」
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