三章 動き始める物語

第74話 バイト先にて

 ぼ〜………


「センパイ?聞いてますか?」


 ぼ〜…………


「センパイ?おーい!」


 なんだ…?何か聞こえる気がするが………頭に入ってこない…。


「セ・ン・パ・イ!!!!!」


「うお!?!?な、なんだ…瀧川……」


 俺がバイト中にぼーっとしていると、俺の耳元で瀧川が大声を出して俺はハッと我に返った。

 ふと左横を見ると、綺麗な顔立ちをムスッとした表情をして俺を睨みながら、赤茶色のポニーテールを揺らしてバイトの制服を着た瀧川が横に立っていた。


 相変わらず距離感が近いというか…制服越しにも立派に主張されている胸部が俺の腕に当たりそうなくらいの距離に瀧川がいる。思うところはあるが…もう今更か。


「や〜っと帰ってきましたね?どうしたんですか?ぼーっとして。それに右の頬っぺた押さえてるみたいですし…何かあったんですか?仕事は上の空ながらもいつも通り完璧でしたし、今はお客さん少ないですから大丈夫ですけど…」


「い!?い…いや…?何も……ないぞ?」


「………ホントですか?」


「ホントホント…」


 いかんいかん…今はバイト中だ…。集中しないと…………



 ちゅっ


『か、海外ではこれは挨拶なので……―――き、気をつけてお帰りくださいね!』



 集中しようと思えば思うほど、先日の麗華からされたキスを鮮明に思い出してしまい、ボッと顔が熱くなる感覚がする。


 …おかしい、前まではこんな感覚にならなかったはずなのに…麗華のギャップを知っているからだろうか…。


「………キス…麗華……………」


 彼女が何故あんなことをしたのかはわからない。確かに海外では挨拶で頰にキスをするというのは聞いたことはあるが…でもあれって寸止めなんじゃなかったっけか…?


 ぼーっとした頭であの時のことを考えていたからだろうか、無意識のうちに声が出てしまっていたのかもしれない。

 そんな俺の発言を横に立っていた瀧川にはバッチリと聞こえていたようで…みるみるうちに般若のような…恐ろしい雰囲気を纏いながら、ハイライトの消えた目で俺に詰め寄ってくる。


「…センパイ、今なんて言いました?キス?れいか?ちょっと詳しく聞かせてもらっていいですか?いいですよね?キスってどういうことですか?れいかって誰ですか?ねぇセンパイ教えてくださいよ。可愛い可愛い後輩が知りたがっているんですから包み隠さず早く答えてください。それともあれですか?私に言えないようなやましい理由でもあるんですか?ねぇセンパイ?それに私のことは名前で読んでくれないのに他の女の子には下の名前で呼ぶんですか?どうなんですか?ねぇ?」


 俺が無意識のうちにボソッと呟いた言葉に何故か瀧川が過剰反応してしまい、グイッと俺の方にジト目の顔を近づけて捲し立ててくる。こ、こいつ…圧が凄いんだが…?


「お、落ち着け…?きょ、今日の晩飯のこと考えてたんだよ!かにしようかなって事で、聞き間違えだ」


 我ながら苦しい言い訳だとは思ったが、般若のような顔をした瀧川の圧に負けないよう冷静を装いそう返す。

 何で俺は言い訳してるんだと思わなくはなかったが、女の子にキスされたなんて言っても信じてもらえないだろ…。


「…………ふ〜ん…そうですか、ならいいんですけどね?(冷静に考えたら私と美涼センパイ以外にセンパイにキスをしそうな人の情報は無いし…聞き間違えなのかな…?)」


 俺の言い訳を取り敢えず信じたのか、ジト目ながらも離れていく瀧川。何か小声でボソボソと言っているが、また絡まれると厄介なのでそっとしておく。


「…いや良くないです!!なんで私のことは奈緒って呼んでくれないんですか!美涼センパイは下の名前なのに!」


 何かブツブツと俺の横で言い終わったかと思えば、今度は全く関係のないところから噛みついてくる瀧川。


「そりゃ…美涼は子どもの頃からの長い付き合いで幼馴染だからな…」


「じゃあ…私もそろそろ下の名前で読んでくれてもいいんじゃないですか?もう私たちも結構長い付き合いですし…いいですよね?」


「…まぁそうだな………」


 何故こんなに下の名前にこだわるのだろうかと俺は疑問に思っている。何故ならこの前「奈緒ちゃんって名前で呼んでもいい?」って年上だけど新人バイトの人に言われたら「ここでは私の方が先輩なのでやめて下さいね〜」みたいに笑顔であしらってたじゃねーか…。


 でも特に拒む理由も無いわな、美涼も棗さんも麗華も下の名前呼びだし今更か。


「じゃあほら!奈緒って呼んで下さいよ〜センパイ。それとも恥ずかしいんですk「…わかったよ」…ふぇっ?」


 俺がそう瀧川のことを名前で呼ぶと、ぽかーんとした顔になる瀧川。一度呼んでやれば満足するだろう。


「も、もう一度良いですか?」


「な…なんだよ…な、奈緒…?」


「――っ!?」


 …改めて言うとなんか恥ずかしいなコレ…。今まで瀧川呼びだったのもあって小っ恥ずかしい…。


『すみませ〜ん!注文いいですか?』


「はい〜!かしこまr「かしこまりました〜!お伺い致します♪」


『か、可愛い…………はっ!?…え、えーっと…じゃあ俺は―――』


 お客さんに呼ばれた俺が雑談をやめて呼ばれた方に行こうとすると、俺よりも早く横にいた奈緒が今までに見たことのないくらいの笑顔で向かって行った。

 その笑顔の可愛さはいつもの営業スマイルよりも可愛らしくなっているようで、同い年くらいの男性客が奈緒の笑顔を見て見惚れた後、顔を赤らめながら注文している。


「…ちっ」


「…?」


 するとどこからか舌打ちのようなものが聞こえたと思ったが、周りを見渡しても近くに誰もいない。気のせいか…。


______________________________________

 

 お久しぶりです、4年の3月から就活を始めて約4ヶ月くらい経ちました。取り敢えず内々定を5つほど取ることが出来ましたので、ひと段落つけようかなと思います(まだ完全な終活ではないですが…)


 とはいえ大学の卒業研究もありますので、高頻度ではないですがぼちぼち再開しようかなと思います。週一更新ができればいいなくらいで…。


 後章の部分が文字化けしていると思いますが、仕様なのでお使いの端末やパソコンは正常です笑

 文字化けを直すと答えは出ますが、展開が知りたくないよ!って方はそのまま放置していただいて…。


 これからも気楽に頑張ります〜。では

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