第64話 何の事?
「しゅーにぃ!つぎはあっちのげーむしよ!!はやくはやく!」
「分かったよ小春ちゃん!そんなに急がなくても、いっぱいゲームは出来るよ」
そう俺の腕をとって歩いている小春ちゃんはクイクイと俺の腕を引き、ゲームセンターに辿り着いてからずっとキラキラと目を輝かせながらはしゃいでいる。
しかし流石棗さんの妹さんというか、はしゃいではいるものの周囲に迷惑にならないくらいの声量だ。
それにしても姉である棗さんではなく俺の腕を掴んでルンルンと歩いている小春ちゃんを見ると、この短時間で随分と懐かれてしまったようだ。
懐かれた事自体はいい事なんだが…確かにこれは誘拐されてしまわないか少し不安になるな。
「そうよ小春?今日はお姉ちゃんの家にお泊まりだから、長く遊べるのよ?」
「ほんと!?じゃあこはるあれもやりたーい!!」
そう小春ちゃんを挟んで俺の反対側を歩いていた棗さんの言葉を聞くと、小春ちゃんは更に嬉しそうな表情をしてキャッキャと俺と棗さんの腕を引いて、ゲームセンターの入り口付近にある休憩所の前を通ってゲーム機に向かっていく。
その時ゲームセンターの入り口付近にあるベンチに座っていた老夫婦がニコニコと俺たち方を見ていたので、軽く会釈をしてから小春ちゃんについて行った。
◇
あれから数時間後…さっきの休憩スペースにはゲームで取った景品の袋を近くに置いてベンチでヘトヘトになっている俺と、俺の横の席にはまだまだ元気いっぱいの小春ちゃん、静かに俺たちを見守っていてくれた棗さんがいた。
「お疲れ様…秀君、大変だったでしょう?小春の面倒を見るのは…。ハイ、これでも飲んで?」
棗さんは小春ちゃんを見て少し困ったような表情をすると、ヘトヘトになっている俺に自販機で買ったお茶を差し出してくれる。
「ありがとうございます…(ゴク…ゴク……)っぷはぁ…生き返ったぁ」
俺は差し出されたペットボトルの蓋を開け、ゴクゴクと喉を鳴らしながらお茶を飲む。
室内はもちろん冷房が効いているが、ゲームで白熱して火照った体には冷たいお茶がより美味しく感じた。
「それにしても…随分取ってくれたよね…ごめんね?後でお金は返すから…」
「いやそれはいいですよ、俺も随分楽しみましたし…クレーンゲーム以外のは棗さんが出してくれたじゃないですか」
俺達(主に小春ちゃんと付き添いの俺)はいろんなゲームをした。シューティングゲームにクレーンゲーム、メダルゲームに音ゲーム等…小春ちゃんがやりたいゲームを片っ端から連れ回されたが、それら全て俺は楽しんでいた。
まぁ中には魔法少女のカードゲームなんかも一緒にやらされたりもしたので恥ずかしい場面もあった。近くにいる小さい女の子の親御さん達からは「大変そうね」とでも言いたげな顔で見られたが…まぁ総合的には楽しかった。
レースゲームは小春ちゃんがまだ幼いから出来なかったのが悔しかったのか、一時はむくれていた小春ちゃんだったが…今は俺の横である物を抱きしめて随分とご機嫌だ。
「でも…小春が抱きしめてるアレ……随分とお金かかったでしょ?」
「それは…まぁ……あはは…」
確かに数千円はかかったが…こういう時のためにクレーンゲームも練習しておかないとかな。
「秀君に取ってもらったあのぬいぐるみ…すごく気にいったみたいで、私にも渡してくれなかったの…うふふ、困ったわね」
「ねこちゃんとわんちゃん!きょーからこはるといっしょ!ずっといっしょにねようね!!」
棗さんは「困ったわね」と言いながらも微笑ましく小春ちゃんを見ており、小春ちゃんはギュッと白猫とパグのぬいぐるみを二匹とも抱きしめ続けている。
「おやおや…さっきの……」
「あっ…どうも…」
俺たちが休憩所で一休みしていると、先ほどベンチに座って俺たちの方を見ていた白髪で優しそうな老夫婦のお婆さんの方が俺たちに声をかけてきた。
「すまないねぇ…急に声なんかかけちゃって。貴方達を見ていると、遠くに住んでいる息子夫婦や孫達を思い出しちゃってねぇ…後、私たちも昔はこんな風でしたよねぇ?お爺さん?」
「そうじゃなぁ…。こんな小さな可愛らしい子は10年以上前に見たくらいかのぉ…フォッフォッフォ。孫達も大きくなりおったからの…」
「そうなんですね、お孫さんはお幾つなんですか?」
「そうさな…お嬢さんと同じか…少し上くらいじゃな。…おっとすまんすまん、女性に年齢の話は少し配慮が足りんかったかの、婆さんに若い頃はよく怒られたものじゃ。フォッフォッフォ」
そんなにお年寄りには見えないが、俺たちと同じくらいの孫がいるという老夫婦ともう少し話す事になり、俺たちは近くのテーブル席に移動する事になった。
「それにしても随分と可愛らしい子ねぇ?お嬢ちゃん、今お幾つなの?」
「こはるはね〜!5さいだよ!おばあちゃん!」
そう小春ちゃんはぬいぐるみを抱きしめながら、ニコニコとお婆さんの質問に答えている。
「あら〜そうなの〜!いいもの持ってるね〜?…可愛い子ねぇ?お上品なお嬢さんに似て別嬪さんになりそうねぇ?」
「うふふ…ありがとうございますお婆様」
お婆さんの言葉に対して上品な振る舞いで返事をしている棗さん。確かに小春ちゃんは棗さんに似た超美人になるのは確実だろうな。
「でも優しそうな所はお父さん譲りかしらねぇ?可愛くていい子に育ちそうね?良いご家族だわ」
…ん?
「えっと…何の事ですか?お父さん?良いご家族?」
「…?そのままの意味よ?貴方とそこのお嬢さんの娘さんでしょう?幸せそうで良いご家族だと思うわよぉ?まるで昔の私たちを見てるみたいで…」
……………えっ?
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改めまして新年あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします
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