第62話 迷子…?

「いやぁ…スカッとしたぜ!やっぱこう…カキーンってバットにボールが当たった時が一番気持ちいいもんだよな!」


 あれから数時間後、俺たちはバッティングセンターで思う存分体を動かしてから外に出る。

 始めたのは午前中とはいえ、今の季節は夏。俺たちはほどほどの良い汗を拭つつ、自販機で買ったジュースを日陰のベンチに座って飲んでいた。


「とか言いながら、ホームラン打てたの一回しかなかったろお前」


「うっせぇ!一回でも打てたらいいだろうがよ!んで?そろそろ昼だけどどっかで食うか?」


「そうだな…モールのフードコートで食うか、どうせゲーセン行くだろ?」


「それもそうだな……ってスマン!電話だ。…もしもし?なんだ母ちゃんかよ…何か用?…え?勉強…?そ、それはその……ほら息抜きってヤツで…ちょっ!?わかったって!今から帰るから!俺のお宝コレクションの子達は無事でいさせてくれ!!ってかなんで母ちゃんが隠し場所知ってんだよ!?」


 そんな声が横からしたかと思えば、三枝がどんよりとした顔で電話を切った。


「悪い永井…今すぐ帰って勉強しねぇといけなくなっちまった…」


「ああ聞こえてたよ、俺のことは気にすんなって!また遊びに行けば良い話だしな。ほら早く帰らないと、お前のお宝コレクションとやらが危ねーんじゃねぇか?」


「そ、そうだ…母ちゃんのことだし、すぐに帰んねぇとぜってぇ捨てられる…。スマン永井!また今度な!!」


「おう、じゃあな。気をつけて帰れよ」


 そのままバタバタと走り去って行く三枝を見送った俺は、少し休んだ後に昼飯を食べる為にモールへと歩き出した。



 数分歩いた俺は無事にモールへと辿り着き、モールの入り口の自動ドアが俺が近くに立った事によって静かに開く。それによって外の暑さとは比べ物にならないくらい過ごしやすい冷気が俺の体を包んで行く。


 そして俺はそのままエスカレーターに乗り、フードコートにたどり着くまで何を食べるかを考えていた。


(たこ焼き…ラーメン…いやオムライスか?)


 フードコートにたどり着いた俺は結局ポムゥの木のオムライスを注文し、商品を受け取ってまだ少し空いているテーブル席に座って食べ始めようとした。


「いただきま…………ん?」


「(ジィーーーーーッ)」


 俺はそのまま昼飯を食べようとすると、俺の席の横にどこからやって来たのか艶のある長い黒髪の年長さんくらいの可愛らしい女の子が立っていて、俺の昼飯を凝視している。…よだれが垂れそうな顔をしてものすごく見ている。


 ぐうぅぅぅぅ〜………


 俺がその子を見ていると、その子の方からお腹が鳴る音が聞こえて来た。


「…えっと……お腹減ってるの?」


「うんっ!!」


「お母さんとお父さんはどうしたの?」


「きょーはいないよ!おねえちゃんといっしょにきたから!」


「…おねえちゃんはどこにいるのかな?」


「わかんない!こはるからおねえちゃんがはなれちゃって、まいごになっちゃったみたいなの!でもこはるおなかすいちゃって、ここまでひとりできたの!」


 ニパッと可愛らしい笑顔でそう答える小春…ちゃん?の話を整理すると、姉と二人でここに来たけどお腹が空いてフラフラしていたらお姉ちゃんと逸れてしまった…と。


(…間違いなく迷子じゃねぇか!)


 この俺の目の前にいる女の子が迷子である事は間違いないので、迷子センターに連れて行くのが良いのだろうが…


「…これちょっと食べる?」


「え!?いいの!!?ありがとうおにいちゃん!!いただきますっ!」


 流石にお腹をすかせた子を放っておけなかった俺は、小春ちゃんに自分の昼飯を分けてあげる事にした。それを終わらせてからでも迷子センターに連れて行くのは遅くないだろう。

 …そのお姉さんとやらと出会ってしまって誘拐犯扱いされないかが心配だが、すぐ近くにさっきのお店の店員さんがこっちを見ているから大丈夫…だよな。


 俺は向かい側の席に座った女の子に、その店員さんに訳を話して貰ったお子様用の食器と小皿に自分のオムライスを小さく分けて渡す。そこまでサイズは大きくないので、半分くらいはこれくらいの年齢の子でも食べられるだろう。


「(それにしてもこの子…誰かに似ているような…?)」


 俺は目の前でお子様用のスプーンを器用に使ってオムライスを美味しそうな顔をして頬張っている女の子を見る。


 将来絶対に美人になるであろう可愛らしく整った顔に、綺麗に手入れされたその子の腰あたりまでまっすぐ伸びた黒髪。そしてまだ少し口周りにソースなどが着いてはいるものの育ちの良さを感じる雰囲気…


 俺も考え事をしながら俺も残ったオムライスをササッと食べ終わり、小春ちゃんが食べ終わるのを待つ。


「ごちそうさまでした!ありがとうおにいちゃん!」


「どういたしまして、お腹いっぱいになった?」


「うん!」


 数分後、半分もあったオムライスを綺麗に完食した小春ちゃんは満足そうな顔をして手を合わせている。


「それは良かった、折角だからデザートにアイスでも食べるか?」


「いいの!?」


 そうして俺たちは食後のデザートにアイスを一緒に買い、さっきのテーブルで一緒にアイスを食べている。


「そういえば小春…ちゃんでいいのかな?お姉ちゃんとはどこで逸れちゃったの?」


「うーんと……ごほんがいっぱいうってるとこ!おねえちゃんがずっとおみせのなかのごほんをみてて、こはるまってられなくなっちゃったの」


 …なるほど、本屋さんではぐれてしまったってことか。…ん?本に夢中になる黒髪の女の人って…もしかして………?


「あっ!おねえちゃんだ!!」


「小春!どこいってたの!?お姉ちゃん心配したんだから……って…しゅ、秀君!?」


 俺の背後からやってきたのは俺の予想通り、俺がよく知っている棗先輩だった。

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