閑話:春夏たちの会話 side:瀧川奈緒
センパイは私たちにそう言い残すと、一人駅を後にしてどこかに行ってしまった。
そうなると私たちは駅に二人きり…。朝までの私ならセンパイが帰ってしまった時点で帰るつもりだったけど、今はそうもいかない。
色々と宮藤センパイと話したい事があるからね。
「あのっ!宮藤センパイ!この後お時間って…ありますか?」
私は横に立っていた宮藤センパイにそう声をかけた。すると宮藤センパイが「私も瀧川さんと少し話したかったの」と言ってくれたので、私たちは二人で今日初めて出会った公園を目指して歩き始める。
駅の外に出ると気温はまだまだ高く、空気も少しジメッとしている。もう数時間で夕日に変わりそうな太陽を避けるように、私たちは木陰のベンチに並んで座る。
「まだまだ暑いね、瀧川さん。瀧川さんは暑くない?大丈夫?」
「はい、大丈夫です!それと…さっきはありがとうございました、宮藤センパイ」
「…?何かあったかな?」
「さっきのナンパ男たちが、私のこと悪く言っていた時に庇ってくれたじゃないですか。あの時にお礼が言えなかったので…」
私がそう言うと、宮藤センパイは合点がいったのか納得したような顔をした……こう言うところは少し永井センパイに似ているような気がする。
「あの時ね、気にしなくていいよ。あんな事言われたら誰だってムカッと来ちゃうし…何よりあんな奴らに瀧川さんが馬鹿にされているのが耐えられなくって。だってそうじゃない?好きな人にために綺麗なオシャレして来たのに、それを踏みにじるような事言われたら…ね?」
そう言いながら宮藤センパイは、アハハとはにかむように笑っている。
「…変わってますね!宮藤センパイって」
「えぇ!?そ、そんな事ないと思うけどなぁ…?」
「いや変わってますよ!あのまま私を放っておけば、もしかしたら私が気分を悪くして帰っていたかもしれないですよ?まぁ?永井センパイを置いて帰るなんて勿体無い事はしませんけどね?」
「確かに…で、でもあの状況でそんな事しないよ!私だけじゃなくって、秀人があの場所にいてもあんな感じで怒ってたと思うよ?」
「そうですね!永井センパイがあの時も今もここにいたら、宮藤センパイと同じこと言いそうです」
現にあの後、帰って来たセンパイが颯爽と私たちを助けてくれましたからね!さすが私のセンパイです♪
センパイがアイツらに殴られた時は、ちょっとだけパニックになりかけたけど……。今思い出すと一発くらい殴ってやればよかったかな…?
「それに…瀧川さんの気持ちを聞いたら黙ってられなかったのもあるしね。いくらライバルでも…私が瀧川さんを蹴落として秀人の彼女になれたとして、胸は張れないと思ったの。そういうのは私には向いてない感じがするしね」
「…私もそう言うのは抵抗があります。とは言っても別にセンパイへの愛がその程度ってわけじゃなくて、やるなら正々堂々!正面からぶつかって勝負したいんです!多分宮藤センパイもそんな感じじゃないですか?」
「そうね、私もそのタイプかも。瀧川さんとはライバルとして、正面から秀人を巡って戦いたいわね…でもそれだと瀧川さんとはお友達にはなれないわね……そこだけは思う所があるかも」
宮藤センパイは少し思う所があるような表情をしながら、遠くで元気に走り回っている小学生くらいの五人の子達を見つめている。
「私ね?昔から人見知りで、小学生くらいまでは秀人としか遊ばないような引っ込み思案だったの。中学生あたりからはチラホラ友達ができて来てはいたんだけど…今も大学外で遊ぶような友達はいないから、今日最初の方は少しガッカリした部分もあったけど…瀧川さんと話してみて、お友達になりたいなぁって思ってたからさ。秀人の事を狙いあってるライバルな事を除けばね」
「じゃあなれるじゃないですか。私と友達に」
「え?」
私の発言に遠くを見ていた宮藤センパイがこちらを向き、驚いたような顔をしながら私の顔を見つめている。
「私も宮藤センパイとお友達になりたいですよ?センパイのことは置いておいて、私も今日宮藤センパイと話していて気が合いそうだなぁって思ってたので!」
「で、でも瀧川さんからしてみれば私は恋のライバルじゃない?そんな私と友達なんて…」
「それとこれとは話が別ってやつですよ!もちろんセンパイの彼女の座をかけた勝負に負ける気も手を抜く気もないですけど、友達くらいにはなってもいいと思いませんか?それに仲良くなれたら、どっちがセンパイの彼女になれたとしても友人として祝福も出来るでしょうし…正々堂々な勝負も出来ると思いますよ♪」
「そっか…そうだよね!じゃあこれからは恋のライバル兼友達としてよろしくね!奈緒ちゃん!」
「ハイ!これからよろしくお願いしますね、美涼センパイ♪じゃあメッセージアプリの連絡先も交換しましょうよ!」
「勿論!」
私たちはそこで連絡先を交換して、永井センパイの事や大学の事とかの事を話して過ごした。
◇
「あっ…もうこんな時間かぁ…」
美涼センパイのその言葉に反応して公園にある時計を確認すると、時刻はもうそろそろ17時になりそうなくらいになっていた。
「そろそろ帰ろっか?奈緒ちゃんの家は?この近くなの?」
「ハイ!10分も歩けば着く距離です!」
「そっか、じゃあ今日は帰るね?また今度服買いに出かけようね!」
「了解です♪駅まで送りましょうか?」
「うぅん大丈夫!すぐそこだしね。じゃあまたね奈緒ちゃん!」
美涼センパイはベンチから立ち上がると、「またね」と手を振ってから駅の方へと歩いて行った。
私は美涼センパイが歩いて行ったのを見送ったあと、公園を出て自宅まで歩いて帰る。
帰り道にすれ違う男の人からの視線を気にしないようにしながら歩いていると、ふと何かを美涼センパイと話したかった事があったような事を思い出す。
(そういえば…何か永井センパイの事で美涼センパイに聞いて見たかった事があったような………ま、いっか!思い出したらで。それにしても今日の永井センパイ…カッコよかったなぁ…♡今度は二人っきりで出かける事にもなったし!楽しみだなぁ♪)
私は美涼センパイに連絡をしようとスマホを取り出したけど、そのままポケットにスマホをしまってから、永井センパイのことを考えながら夕日の沈む街の中を歩いて帰った。
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