第59話 ノイズ side:瀧川奈緒

「おっ…スッゲェ美人じゃんお姉さん達!!!今暇なん?俺らと遊ばね?ってか今から行かね?」


 何かうるさいノイズが横から聞こえるけれど、私は今そんな事に構っていられないくらいに頭の中で考え事をしていた。


 少し前…それこそ私がセンパイに対しての気持ちを自覚した辺りから宮藤センパイの存在を知った。

 センパイの幼馴染で、昔からセンパイの事が好きだったと言う事をさっき宮藤センパイは明言していた。


 私はついさっきまでセンパイとの恋路のライバルとして、そしてセンパイに付き纏う厄介な幼馴染の先輩としか思っていなかったけど……宮藤センパイの口から語られた事を聞いて、少し印象が変わったのもあり、色々な情報を頭の中でまとめていた。


 今聞いた話が本当なのであれば、多分センパイと宮藤センパイはつい最近まで何か原因があって疎遠になっていたみたい。

 それはさっきの『中学生くらいから色々あって一緒にいなかった』と言う発言と、今までセンパイの口から幼馴染の存在を聞いた事がなかったことから、本当に中学生の時からつい最近まで交流がなかったんだと思う。


 でも本当に最近…それこそ私がセンパイに助けられた時と同じくらいに、宮藤センパイもセンパイに助けられたんだと私は予想している。

 そこから疎遠になっていたけど惚れ直した…?そんな感じかな…?と。


 ……センパイの事だし、私だけを助けてる訳ないもんね…困ってる人が居たら絶対になんとかしようとする人だし…はぁ…。


 そういうところがカッコいいし、好きになったところなんだけど……これじゃあ宮藤センパイと私以外に、センパイの事を好きになっちゃう人が出てきちゃうのも時間の問題かも…。そうなる前にあの朴念仁をなんとかしないと…


「なぁ聞いてる?ギャルのねーちゃん。そんな格好してるんだしよぉ?だいぶ遊んでるっしょ?俺らとも遊ぼーぜ」


 そういえばセンパイと三回生の先輩が付き合っているなんて噂も最近聞いたことはあるけど……センパイの反応を見る限りそんな事はないんだろうし…あのセンパイのことだから、何か事情があるのかもしれないし…。


「黙ってるって事はいいって事だよなぁ?じゃあ行こうぜ」


 私が考え事をしていると、スッと横から私の肩に触れようと手が伸びてきたので、私はその手を避けてやっと相手の方を見る。


「…なんですか?今考え事をしてるんです。どこかに行ってください」


 そう私たちをナンパしようとしているであろう男たちに向けて私は声を出す。すると自分でも驚く程に冷たく低い声が出た。


 普段はコミュ力があって明るい私だけど、こういう不快な連中には態度が冷たくなってしまうのだ。

 当然だ、私だって求めても居ない事をされそうになれば思うこともあるし、態度にだって出てしまう。


「そんなつれないこと言わずにさぁ?いいでしょ?こんなしょぼい店で女の子二人でなんて寂しいじゃん?ここにはただ涼みに来ただけだったんだけどさぁ?俺らも男二人で寂しかったワケよ〜こんなの運命っしょ?」


「そうそう運命運命!俺はそっちのお淑やかな子がタイプで、こいつは君みたいなヤリ○ンっぽいギャルが好きなワケよ〜」


 そんな風に随分と好き勝手言ってくれるチャラそうな二人組。

 店内はそんな迷惑客にどう対応しようかとアワアワしており、女性と気弱そうな男性スタッフしかいないせいか、店内はシーンと静まり返っている。


(ヤリ○ンって…最低。確かに私はギャルっぽい見た目のせいでそう思われがちだけど、今だに清らかな身体だし…そもそも好きになった男の人じゃないと、そういうことはしないって決めてるんだけど?…はぁ、やっぱりセンパイ以外の男は好きになれそうにないなぁ…)


 私がそういう事をする相手はセンパイしかありえない。そう心の中でチャラ男二人に毒づいてイライラしていると、今まで黙っていた宮藤センパイが声を出した。


「…瀧川さんがそんな子な訳ないでしょう?」


「いやいやいやいや!見た目でわかんじゃん。こんな露出の多い服着て男を誘ってるような女はビッチに決まってるっしょ!」


「そーそー、あれ?もしかして嫉妬してんの?大丈夫だって、俺は処女の方が好きだからさ♪」


「うわでた処女厨!まじキメ〜!ギャハハ!!」


「うっせぇ!中古コレクターよりマシだわ!ギャハハ」


 …本当に不愉快な気持ちになる。せっかく今日はセンパイとデート…と言えるかはわからないけど…楽しい日になる予定だったのに、センパイが席を外してる時にこんな奴らに絡まれるなんて…。


 私がそう落ち込んでいると、ダンっと机に両手を叩きつけて宮藤センパイが立ち上がって…怒ってる?表情をしていた。


「ふざけないでっ!外見だけ見て内面を何も知らないくせに好き勝手言って…!この子がどれだけ好きな人に、こんな綺麗なオシャレをするくらいに一途なのかも知らないで!

 私はね!あの時からそういう考え方を変えようって思ってるの!女の子がオシャレをする気持ちに……何より瀧川さんに謝りなさい!!」


「宮藤センパイ………」


「あ?んだお前…女だからって容赦して貰えると思うなよ?泣いても許してやんねーからな?とっととついて来いやオラ!!!」


 さっきまで笑っていた男のうちの一人がビュッと宮藤センパイの腕を掴もうと、男の色黒く太い腕を伸ばす。


「――っ!宮藤センパ…「何やってんだ?アンタら」


 宮藤センパイが男に乱暴されそうになった瞬間、横から伸びてきたセンパイの腕がガシッとチャラ男の腕を掴んでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る