第58話 女性陣の会話 side:宮藤美涼

『お、俺ちょっとお手洗い行って来るから!』


 そう言ってさっき秀人はお手洗いに行ってしまった。そうなるとテーブルには私と、何故かとても秀人に懐いている私の対角線上の席に座っている後輩の瀧川さんの二人きり…。

 普通なら友達の友達に近い関係性の人と二人きり、というこの状況はとても気まずいんだけど…私たちにはそうも言っていられない理由があるからね…。


 明らかに瀧川さんの行動は、秀人に対してを持っているのは間違いないよね…。じゃなかったらあんなに気合いの入ったオシャレはしないはずだし…秀人はなーんにも気付いてないみたいだったけど、それはそれで秀人をはたきたくなるね。なんなんだろうこの気持ち…。


 それに秀人に対してのあの態度というか……あれで好きじゃ無いなら無いでおかしいし、秀人が危ない後輩に狙われてるなら私が守らないと……。


「……宮藤センパイって、永井センパイの幼馴染なんですよね?」


「えっ?あ、うん…そうよ?秀人とは幼稚園の頃から一緒にいたの」


 いきなり瀧川さんから話しかけられてしまって驚いた私は、少しどもってしまったけど何とか立て直して返事をする。


「なら参考程度に聞きたいんですけど…永井センパイって、昔からあんなに鈍感だったんですか?…結構頑張ってオシャレとかしてアピールしたつもりなんですけど……」


 瀧川さんはクルクルと指で自分の綺麗な赤茶色のロングヘアーを弄りながら、少し拗ねた様な表情をしている瀧川さん………か、可愛い…何この子…はっ!ダメダメ!


「ど、どうだろ…中学生くらいから実は色々あってね?秀人と一緒にいたわけじゃ無いんだ。だから鈍感なのは元からだったのかどうかは分からないけど……」


「そうですか…。でも反応を見る限り、私が女として見られていないわけじゃ無いのは分かったので、それさえ分かれば大丈夫ですね♪これからもっと攻めれば…」


 ニコニコとしながらパフェを食べている瀧川さんを見て、私は確信した。この子は異性として秀人のことが好きなんだって…。


「ね、ねぇ瀧川さん。瀧川さんって…秀人のこと……どう思ってるの?」


「好きですよ、もちろん異性の男性として…。センパイは私の初恋なんです。ある事がきっかけで、強く意識する事になりまして…」


 そう照れながら秀人の事を話す瀧川さんは、私から見ても完全に恋する乙女だった。


「…良かった」


「…え?」


 私が微笑むと、何故か驚いた顔をしている瀧川さんがこっちを見ている。


「なんで良かったって思うんですか?宮藤センパイも永井センパイのこと好きなんですよね?」


「うん、私も秀人のこと好きよ?だから別に瀧川さんの恋を応援したり、秀人の彼女の枠を渡そうなんて微塵も思ってない…けど!私はね?…とある事があって秀人に対してまだ少し負目を感じてるの…。

 それでもやっぱり私は、秀人が小さい時からずっと好き。だからこそ瀧川さんが遊びで秀人にまとわりついてるわけじゃ無くって、本気で好きな事がわかったから嬉しいの」


「…簡単に蹴落とせそうにないライバルで安心した様な…悩みのタネが増えた様な微妙な感情に支配されてますけど、気持ちはわからなくも無いですね…。実は私もセンパイに対して負目と言いますか…私の一生をセンパイに捧げても構わないくらいの大恩が、永井センパイにはあるんですよ」


「そっか、瀧川さんもそのレベルの出来事が秀人との間にあったんだね…」


「…『瀧川さんも』って事は…宮藤センパイもあったんですか?」


「まぁ…私がバカな事しでかしちゃってね…。その時に秀人に助けて貰って……って感じかな。私が秀人の事を好きになってたのは幼稚園の頃からだったけど、その事件がきっかけで、私は本当にこの人秀人の事しか好きじゃ無いんだなって思ったの」


「…私も似たようなもんです。私つい最近まで理由があって過労気味でして、バイト先で倒れちゃったんですよ。その時にセンパイがその理由を根本から解決してくれたお陰で、今の私がここにいるんです。

 あんな事を下心も無く、ただのバイト先の後輩にポンと出来るなんて…この人は優し過ぎるんじゃ無いか?って…今では思いますけど…あの事がある前からも、なんだかんだ頼り甲斐のある優しいセンパイだったので、好きになるのは時間の問題だったかもしれないですね♪」


「やっぱり誰にでも優しいのは変わってないんだなぁ…そこが秀人のいい所ではあるんだけど!」


「そうですよ!センパイは誰にでも優しくし過ぎて鈍感なんですよ!天然タラシですよ!!そのせいでこんな美人な先輩で且つ幼馴染なんていう強力なライバルが生まれてるんですから!!!

 こうなったら意地でもセンパイの彼女には私がなりますからね♪幼馴染さんには若い私にセンパイを譲って貰って……」


「ちょっ!?そ、それとこれとは話が別だから!!恋のライバルとしては認めるけど、私が秀人の彼女になるんだから!!それを言うならぽっと出の後輩ちゃんは、秀人以外のイケメンな人を探したらいいんじゃ無いかなぁ?」


「そんな人いるわけ無いじゃないですか!センパイが一番カッコいいんですから!見た目なんて関係ないです!」


 ふふんと胸を張る瀧川さんに私はそう張り合う。

 不思議な気持ち…私にとってこの子はライバルなのに、憎んだり嫌ったりできそうに無いなぁ…。妹みたい…というか、お互いに気持ちがすごく分かるからかな…?


「おっ…スッゲェ美人じゃんお姉さん達!!!今暇なん?俺らと遊ばね?ってか今から行かね?」


 そんな空気をぶち壊すかのようにだれかに声をかけられる。そっちを見るとチャラそうな二人組が私たちの側に来て話しかけられていた。


 

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