第57話 秀人くんは鈍感な様です
「それじゃあ…はいっセンパイ!あ〜ん…」
「…はい?」
「『…はい?』じゃなくて…ほら!もう少しこっちに寄ってくれないと、せっかくのパフェが落ちちゃうじゃないですか〜」
そうかそうか
俺もとうとう
「な、何してるの瀧川さん!?ダメに決まってるじゃない!そ、そんなあーんなんて…!」
「私は永井センパイに聞いてるんですぅ〜。宮藤センパイには聞いてません〜」
「そ、それでもよ!私でもした事ないのに!」
「へぇ…♪それはいい事聞いちゃいましたねぇ〜」
美涼の注意を聞いて何故かニヤリと悪そうな笑みを浮かべる瀧川。
「そうだぞ瀧川?いくら俺とお前でも、こういうのはカップルとか好きな人に―――「うるさいですセンパイ、えいっ♪」もがっ!?」
「あぁ〜!!!」
俺が美涼の援護に回ろうとすると、無理やり俺の口の中に瀧川がパフェを突っ込んできやがった。
それを見て何故か美涼は悔しそうな顔を…なんで?食べたかったの?
「どうですかセンパイ♪可愛い後輩ちゃんからのあーんは美味しいですか?」
そんな風に少し顔を赤らめながらも聞いてくる瀧川。
「もぐもぐ……うん、お前から貰ったのは関係無いと思うが…う、美味いぞ?」
「…もうっ!ちょっとは照れてくれたっていいじゃ無いですか!!」
…正直味はわからん。俺だって恥ずかしいけど、それを顔に出さないようにするのに神経を集中させてるんだよ!!
…コイツは本当に……距離感を考えさせてやらないと危ないんじゃなかろうか?
もしかしてコイツ俺のことが…?いや無い無い。普段の事を振り返っても俺に惚れる要素が全く無いしな。
顔も成績も普通。俺は一人暮らしで裕福でも無いし、特別何かの才能があるわけでも無い。特殊能力は…シロネさんたちから貰ったコレがあるけどよ…?でもあの事はこの二人は覚えてねーだろうからな。
覚えてたとしても恩人くらいにしか思わんだろ?当たり前のことしかしてねぇんだからな。
「「ジーッ………」」
「な、なんだよ?」
「「…なんだか秀人(センパイ)が馬鹿なことを考えてるんだろうなって」」
…コイツら二人とも失礼すぎないか?二人揃ってジト目で見てきやがって…
「そ、それよりも秀人!私のチーズケーキも美味しいよ?ほら!あ…あーん……」
横から声がした方をみると、さっきのジト目は何処へやら。こっちも顔を赤らめてフォークに刺したチーズケーキを俺に差し出してくる美涼。お前もどうしたんだよ!?さっきまで否定派だったじゃん!?
「なぁ!?セ、センパイ?こっちの方が美味しいと思うので、こっちを食べてください!そっちは食べちゃダメですからね!はい!あーん…」
「いやちょっとま「そ、それはズルいじゃない!秀人?食べてくれるよね??」い、いやだからな?そういうのは良くな「ズルくないです!これくらいしないとそっちの方がズルいじゃないですか!!!」
俺の話聞いてくれよ……。それにズルいって何だよ…
ヒソヒソ…ヒソヒソ……
「「秀人(センパイ)!!」」
…もう周囲からの視線と胃が痛いので許してください。
◇
「ふぅ……落ち着く」
俺は今トイレの個室に座っている。何でかって?そりゃ胃とメンタルを整える為だ。
あの後半ば無理やりチーズケーキとパフェを交互に食べさせられた所為で、俺の口の中が甘々だ…。あとでブラックでコーヒーを頼もう。
さっき店員さんが俺にぶつかって、ぶつかった拍子に運んでいた水で俺の服がすこし濡れてしまったのでそれを絞る為という目的もあるが、そんなことはどうでもいいんだ。
さっき入って来た店の雰囲気と合わない、あのうるさい客が悪いんだから。
それにどうせこの後服を買いに行くんだからそこで着替えればいいしな。
「それにしてもアイツら…今日の服装も気合い入りすぎじゃないか?それになんかお互いにライバル視?してるみたいだし……もしかしなくてもまだブッキングの事怒ってんのかなぁ…?それにしては奉仕的と言うか……ん〜…?」
普通男にあーんなんてしないはずだ。しかもし慣れてる様には見えなかったし…単に食べて欲しくて〜とかか?確かにテーブルには予備のフォークとかなかったしなぁ。
「…そろそろコーヒー飲みたいから席に戻るか」
俺はトイレから出て、ハンカチで手を拭きながら席の方を見ると…さっきのうるさい若い男客二人が美涼と瀧川に声をかけていた。
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