第55話 真夏の極寒会 開幕
ピロンッピロンッ
〈美涼:もうすぐつくよ〜〉
〈瀧川:センパイ!もう少ししたら駅前の公園に行きますね!〉
そんなメッセージが別々に届いたのは、美涼と約束をしていた土曜の昼。俺は最寄り駅にて美涼の到着を待っていた。
昨日のうちに美涼と瀧川には時間と行く場所の連絡をし、美涼には俺に勉強を教えてもらうために。瀧川には俺の代わりにバイトに入ってもらった礼に昼飯とパフェを奢ることになっている。
「金…大丈夫だよな?もう少し持って来た方が良かったか?」
財布の中を覗くと中には諭吉さんが三枚、英世さんが数枚ほど…。不測の事態や帰りに服と食料品を買って帰ろうかと思っていたので、少し多めに持って来たが…そんなに高くはつかないから大丈夫だろうと思い直す。
美涼と合流予定時間まであと十分ほど。俺は美涼の家を知っているので、勉強道具を俺が持つために迎えに行こうかと言ったが、準備に時間がかかるから大丈夫だと言われてしまった。
まぁ女性の準備に時間がかかるというのは昔に薫姉さんが言っていたのを思い出したので、俺は余計なことを何も言わずに待ち合わせ場所を駅前にした。
「あっ…美涼に瀧川がくるっていうの忘れてたな…」
二人の面識は…ちょっと前に大学であるか。…なんか怖かった記憶があるけど…まぁ大丈夫だろ!
「お…お待たせっ!秀人」
「おっ来たか美涼………」
声をかけられた方を見て俺は驚いた。俺の後ろからやって来た美涼のほうを振り返ると、そこにはいつもより気合いが入った雰囲気を纏った美涼が立っていた。
美涼の髪型はいつもと違い、涼しげなお団子ヘアーに纏めている。服装は夏の暑さを感じさせない様な白い半袖のシャツの上に薄いベージュのキャミワンピースを着ていて、勉強道具が入っているであろうラタンのおしゃれなバッグを持っていた。
全体的に緩やかな服装なのもあり、暑さを視覚的には感じないものの、決して小さくは無い胸の膨らみが女性らしさを強調している。
「ど、どう…?今日何着て行こうかずっと悩んでたから…おかしくないかな…?」
「お、おう…。に、似合ってる…ぞ?」
「ほんと…?良かったぁ…」
俺がそう口にすると、緊張が解けた様にフニャッとした笑顔を見せる美涼。
(な、なんだ…?いつもと雰囲気が違うせいか美涼を見るとなんか…)
俺は全くファッションには詳しくないが、いつもの美涼とは何か気合いの入り方が違う気がする。そんなことを俺が思うくらいには目に見えて美涼の綺麗さには磨きがかかっている。
その証拠に周囲の男性の視線は殆どが美涼に向けられている。いつも見慣れている俺が綺麗だと思うくらいだ、当然といえば当然か。
一方俺はといえば無地のTシャツにジーパン、黒いリュックサックと普通すぎるスタイルなんだが…?
「じ、じゃあ行くか…」
「うんっ!」
◇
そのまま俺たちは電車に揺られ、瀧川の待つ駅前の公園にたどり着いた。
「ごめん秀人…ちょっとお手洗いに行って来ても…いいかな?」
「あぁ大丈夫だぞ」
「ありがと、じゃあちょっと行ってくるね」
「おう、じゃあそこのベンチで待ってるな」
そうして俺は美涼が公園のお手洗いに入ったのを見届けた後、その近くのベンチに座ってスマホを見る。
俺の後ろの方が騒がしい気がするが…気にしている場合では無い。
〈永井:着いたぞ、今どの辺だ?〉
俺がそう送ると既読はつくものの返信が無い。周囲を見渡しても瀧川らしき人影はない。
俺が頭に?を浮かべていると…急に俺の視界が真っ暗になり、後頭部に二つの柔らかいものがフニョンと当たる。
「問題です、私は誰でしょう〜♪」
「…何やってんだ瀧川」
「ぶぶーっ!不正解です!!センパイ!もっとこうユーモアに溢れた回答をしてくださいよ〜」
そう言いながら俺の目から手を離し、俺の目の前にやってくる。
(…危なかった、理性を保っていなければ後輩の胸の感触に興奮しそうになっていたことを悟られそうだったぞ…。こいつは本当に距離感どうなってるんだ…俺じゃなかったら気があるなんて勘違いされるぞ…?)
ブンブンと頭を振り、瀧川への煩悩を振り払う。
本当ならなんとも思わないくらいになりたいものだが、あいにく二十年物の童貞には無理な話だ。邪な視線とかは漏らさない様にしないとな…瀧川だけじゃなく他の人にも。
「センパイ!何俯いてるんですか?奈緒のこと見てくださいよ〜!」
「わ、悪いな…おまた……せ…」
俺が顔を上げると、これまたいつもと違う雰囲気の瀧川が俺のことを見ていた。
いつもはポニーテール姿しか見ていなかったのもあるが、今日の瀧川は赤茶色の綺麗な色の髪をストレートに下ろして、イヤリングやサングラスを身につけている。
服装は夏にピッタリの白いノースリーブと、水色のショートパンツを履いている。
普段の瀧川とは印象が全く違う私服に見惚れていると、瀧川のスラッとした細い脚が俺の目の前で止まり、さっきまで動いていたので慣性によって美涼より大きな胸元がフルンと揺れる。
俺と目があうとかけているサングラスを下にずらし、サラッと流れる髪を手で押さえながら悪戯っぽく笑っている瀧川は普段とは全く違う大人の女性の魅力がある様に感じる。
…コイツ大人っぽくもなれるのかよ。
「あれあれぇ?どうしたんですかぁ?センパイ?奈緒のことジッと見て…も、もしかして…見惚れちゃいました?」
「…正直似合ってるとは思ったよ」
大人っぽさで言うと棗さんを見て慣れて居ると思っていたが…これがギャップってやつなのだろうか。
「そ、そうですか…」
俺がそう言うとさっきまでの威勢はどこにいったのか、モジモジとして照れている瀧川。
…やっぱコイツも可愛いんだよな、今更だけど何で俺はこんな二人の美人と一緒に居るんだ?
「じ、じゃあそろそろ行きましょっか!!」
「あぁ…そうだ瀧川、言い忘れてたんだが―――「お待たせ秀…人……?」
俺が美涼の事を伝えようとすると、ちょうどお手洗いから出て来た美涼と俺と瀧川の目がバチっと合ってしまった。
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