第52話 波乱?の前日①

「店長お疲れ様でーす」


「おぉ!永井君!もう怪我は大丈夫なのかい!?」


「はい、今日からもう復帰出来ます。ご心配をおかけしました」


「そうかそうか…それは良かった。永井君が事件に巻き込まれて病院に運ばれたって聞いてね…心配してたんだよ」


「いやー…僕もまさかああなるとは…」


 夕方のバイト先の居酒屋、俺は久しぶりにバイト先に顔を出していた。棗さんの一件から俺は店長の計らいでバイトを休んでいたからだ。

 俺が倒れていた間は瀧川が俺の代わりにバイトに入ってくれていたりと、俺のせいで迷惑をかけてしまったからな。頑張ってまた働かないと…。


「にしてもこの店が永井君と瀧川さんにどれだけ支えられていたか、永井君が休んで身に染みたよ…。永井君が休んでいる間は、瀧川さんと新しいバイトの子と…本部から社員さんの佐藤さんに応援に来て貰っていたから何とかなったけどね…。いやはや瀧川さんの家庭事情が解決してからはちゃんと無理のない範囲での出勤になったけど、更にお客さんが増えて大変だったけどね…………」


「…? でも佐藤先輩が来てらっしゃったんですか。それなら安心でしたね」


「あぁ、今日までいてくれるそうだから後でお話ししてみるといいよ。後は新しいバイトの子と、瀧川さんも出勤してる筈だからね。そっちにも挨拶しておいで」


「うす。じゃあ着替えに行って来ますね」


「うん、今日も宜しくね。体調が悪くなったらすぐに言うんだよ?」


 俺は裏口近くでタバコ休憩をしていた店長に挨拶を済ませると、裏口のドアを開いて中へと進んでいく。

 すると直接聞くのは少し懐かしい声と知らない声が扉越しに聞こえてくる。


『なぁ瀧川さん、今度から教育係から外れるって本当なのかよ?まだ俺わかんねーことばっかりなんだけど…?』


『分かってるよ、だから今度から別の人が教育係になるって言ったの。大丈夫!その人は奈緒より仕事が早いし、教え方も上手いから!奈緒もその人から教えて貰ったからね』


 どうやらバックヤードに瀧川と例の新人君がいるらしい。このまま盗み聞きするのは良くないと思った俺は扉を開けて中に入る。


「お疲れ様でーす」


「あっ!!噂をすれば…セ〜ンパ〜イ!!!待ってましたよ〜?ずっと!」


 スタッフルームに入った俺と目が合うと、瀧川は嬉しそうな表情で座っていた椅子から立ち上がり、椅子一つ分あけて座っていた男の子の横を素通りして俺の目の前までやって来た。


 久しぶりに見る瀧川は前に大学で会った時よりも血色が良くなっており、うっすらあった顔のクマややつれが綺麗になくなった事で、可愛さもさらに上がっていた。


 店長が言っていたのはこの事か…確かに血色のよくなかった頃と比べると、ますます可愛さのグレードが上がった瀧川は客寄せパンダとしてのランクが上がったと言う事か。


「おう瀧川、すまんなバイト代わりに入ってもらってて。体に負担無いか?」


「はいっ!この通り元気いっぱい!センパイだけの可愛い可愛い後輩の奈緒ちゃんは無理のない範囲で働いていたので大丈夫です!

 そ・れ・に…?センパイにはあのパフェ奢って貰いますしぃ〜?それでチャラにしてあげても良いですよ〜?」


 そう元気ハツラツな雰囲気と笑顔のまま両手で拳を握り、瀧川の胸の横あたりに腕を持って来てグッとしている。

 …後ろに括っているポニーテールが跳ねるのはいいとして、程よい大きさの胸もポヨンと揺れるからあまりしない方がいいぞ、それ…。


 そしてそのまま俺を煽るような表情をして、俺に二千円のパフェをたかろうとしてくる瀧川。


「あぁその件な。いいぞ?今週末で良いなら奢ってやるよ」


「まぁそうですよね〜冗談です。センパイには返しても返しきれない恩があるので、私のことを名前で呼ぶくらいで―――えっ!?い、いいんですか!?私とセンパイが喫茶店に出かけてくれるんですか!?」


 自分から言い出したくせに、俺が了承すると驚いたように目を見開いて更に詰め寄ってくる瀧川。近い…俺の顔と瀧川の顔との距離は俺の拳二つ分くらいしか無いぞ…?


「お、おう…今週の土曜な?瀧川への礼だから、都合が悪いなら別の日でも―――「行きます!絶対に行きます!!私の予定は空いてます!!!」そ、そうか…じゃあ時間とかはまた送るから」


 食い気味で反応した瀧川は、満面の笑顔でとても嬉しそうにはしゃいでいる。

 家のことで借金だらけだったからな。美味いもんは食わせてやりたいと思う俺のこれは親心に似た何かなのだろうか。


「ちょ、ちょっと待ってくれ瀧川さん!それなら俺が奢るぜ?俺なら何回でも連れていくよ!!」


 そんな俺たちの会話に続くように立ち上がったのは…見た事のない男の子だった。

 年齢は瀧川と同じか下か…?今時の若者!といった雰囲気の黒髪マッシュで、耳にピアスをちょっと身につけているオシャレで色白のイケメン君がそこにはいた。


「ん〜流石に何回もは申し訳ないし、お気持ちだけ受け取っとくよ白石くん。(それにこれはセンパイだから意味があるんだよねぇ…)」


「お、俺の名前白井なんだけど…瀧川さん……んん、な…なら一回でいいから俺が奢るよ。俺としてもバイト先の先輩とは良い関係を築きたいし、最悪三人ででも…」


「ほんと大丈夫だから!センパイも私も、白身くんに奢ってもらう理由が無いから〜」


「白井だよ瀧川さん!?なんか卵みたいな名前に変わっちゃってるからね!?」


 …コントか?これ

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