二章 変わりゆく日常とヒロイン達
第49話 ヒーローは日常に戻る
『あの大手企業、緋扇グループの経営の闇が元従業員たちに暴露され、SNS上でも大きな話題となっています。また緋扇グループの社長であった緋扇仁一社長一家の行方は未だつかめておらず、警察は国外逃亡の可能性も視野に入れ、捜査を続けています。
続いて先日、物議を醸していた新たな法案が前向きに検討され―――』
ピッと自分の部屋に置いてある小さなテレビの電源を消し、大学へと行く準備を終え家を出る。
まだ朝だというのにアパートの部屋を出た瞬間、茹だる様な暑さに包まれた。
俺の住むアパートの近くにある山や林からは絶え間無く蝉の鳴き声がこだまし、雲ひとつない快晴の炎天下の中俺は駅へと歩く。
しかし不思議なことに夏は本格的になって来ているにも関わらず、俺の体感はあまり暑さを感じない。昔から暑さや寒さには鈍感なところがあったからな…。それの延長線だろうか?
でも去年の夏はクソ暑かった記憶があるんだけどなぁ?
「にしても緋扇の会社丸ごと沢城グループに吸収ね…まぁ当然ちゃ当然か」
駅までの道中に俺はさっきやっていたニュースを思い出す。俺が沢城家の人たちに協力して緋扇を潰した三日後の今日、ニュースでは大々的に緋扇家の話題が騒がれていて、あのグループの上層部は軒並み逮捕。本人たちは行方不明となっている。
まぁ十中八九あの人たちに捕まってるんだろうけど…。
「今この時点で潰せたのは沢城さんにとって良いことだよな。随分無理をしたけど、また未来を変えられたなら気分は良いもんだな」
俺は小さく独り言をこぼした後、改札に入り電車を待つ。
俺が見た未来では、沢城家の信用を何年もかけて得た緋扇家は沢城グループを徐々に乗っ取り、労働環境最悪のブラック企業を生み続けていた。
それによって沢城さんのお母さんは過労死、榊原さんは子どもを授かった翌日に突然行方不明になってしまう。…あのデブが手をかけたんだろうと思う。
当の沢城さんはそんな事もあって完全に笑顔や感情が消え、死んだ様な表情であのデブの妻として全ての雑務を押し付けられていた。
お父さんや榊原さんの仇を討つどころか犯人すら分からず、自分の意思を出したくても出せないし出せる相手が居ないという抜け殻の様な人生が待っていた。
そんな地獄の人生を回避させてあげられたのなら、今も暫く続いている頭痛も我慢できるというものだ。
「秀人!もう体調は大丈夫なの!?」
「ん…?おはよう美涼、心配すんなって!もう大丈夫だから。連絡入れてたろ?」
「そ、そうだけど…ずっと心配だったんだから…」
「すまんすまん…俺は大丈夫だからさ」
そんなしおらしい顔をしている美涼と俺はホームで久しぶりに顔を合わせ、そのまま一緒に電車に乗って話を続ける。美涼が今も身につけている俺が返したアクセサリーは、俺が見ない間に少し綺麗になっているみたいだ。
「なんか久しぶりだな、美涼とこうやって顔を合わせるなんてさ」
「それは秀人が無茶なことするからでしょ!もうっ…一条先輩を助けたのは聞いたし、本来なら褒められるべきなんだろうけど…それで秀人が怪我してたら元も子もないんだからね?」
「ハイ…スミマセン」
「もうあんな無茶なことはしない事!良い?前にも似た様なこと言ったんだから、しっかり守ってよ?」
「わ、分かってるよ…」
言えねぇ…バレたらワンチャン殺されてたかもしれない潜入調査をしてたなんて…。まぁアレは言われる前だったしノーカンかな…?
「それで?秀人、期末テストが迫って来てるけど大丈夫なの?」
「ゔっ……ま、まぁ…赤点を取らない程度なら…行けるかなと…」
正直ノープランだったし、期末のことは頭から抜けていた。ヤバい…。
「な、ならさ…?私が教えてあげようか?秀人の取ってる授業のノートは私が秀人の分書いてるし、全部は無理かもだけど…手伝いくらいなら出来るよ?」
「ホントか!?助かる!ありがとな美涼!!」
「へっ!?あ……う、うん………お、幼馴染だから…当然だし………」
その言葉を聞いて俺は美涼の手を取り、ブンブンと揺らす。やはり持つべきものは真面目な幼馴染か友人だな!三枝は絶対赤点コースだしな。
俺に手を握られている美涼は何故か顔を赤らめているが…暑いのかね?
そうこうしている内に大学最寄りの駅に着き、俺たちは一緒にホームへと出る。
「じゃあ勉強会だな、週末くらいで大丈夫か?」
「う、うん…私はいつでも大丈夫………」
「ホントありがとな!じゃあ週末頼む!」
(よし!これで俺の赤点も回避出来ると思うと気分が良くなって来たな…。そうだ美涼にもパフェ奢ってやろうかな…?
そんなことを楽観的に考えていた俺が馬鹿だと思うのは、もう少し先になるのだった………。
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