第48話 打ち明ける気持ち、芽生える感情 side:沢城麗華
「ごめんなさい麗華……貴女のことを考えずにこんな事に巻き込んでしまって…」
「ううん、いいの…お母様。私も自分の意見を言えなかったのが悪いから…」
「いいえ、そんな貴女の気持ちを汲み取ってあげるのが親の一番の仕事なのに…あの時からずっと貴女のお父さんの事で一杯一杯で、貴女の事を榊原に任せっきりで仕事やあの時の事件の調査ばかり…。麗華には色々と我慢をさせてばかりだったわね…ごめんなさい…。人に言われて初めて自分の子どもの都合を思い出すなんて…母親失格ね」
そう言って私の部屋の上で隣り合って座っているお母様は、辛そうな表情を浮かべる。
そんなお母様を見ていると、今までに言えなかった事がポロポロと漏れていく。
「…そんな事ないよ、お母様…いえお母さん。確かにお父さんがいなくなったあの時から、笑顔の絶えない家族にはなれていなかったかもしれない…。あの時からずっとお母さんに甘えたい時もあったし、この歳になっても思ってる。でもだからと言ってお母さんが育児放棄をしてたわけじゃない事は私が一番分かってるよ」
私がそう言うと、お母さんは驚いたような顔をして私の方を見る。
「誕生日の時、受験に受かった時、年末年始に…お父さんの命日の日…。お母さんは一度だって仕事を理由に帰ってこない日は無かったよ?
仕事を一旦止めてまで絶対に帰ってきてくれてた。…だから決まっていた婚約破棄なんていうワガママを言わないようにしないとって思い込んじゃった所もあったけど………それでも私は家族で一緒に居られる時間があっただけで嬉しかったの…」
「麗…華……ごめんなさい…これからはもっと一緒に居ましょうね…」
「……うん」
私たちはそう言うと、目に涙を少し浮かべて抱きしめあっていた。その抱擁は長年私が抱え込んでいたものを溶かしてくれるような…温かいものだった。
「…そう言えば麗華?あの子は貴女のお友達かしら?」
「…?あの子?棗の事?」
しばらくして私たちが落ち着いた頃、そうお母さんが私に聞いてくる。
「ほら…今日来ていたあの男の子…確か……永井秀人くんだったかしら」
「っ!そ、そう言えば何故永井秀人がここにいたのですか?」
「やっぱり麗華は知らなかったのね。お母さんが麗華とあのクズ共との婚約破棄をお祖母様と決定したのは五日前だけど…キッカケはあの男の子だったのよ?」
私が驚きながら固まっていると、更に知らなかった事をお母さんの口から告げられる。
「あの子ね…お母さん達が久しぶりに日本に帰って来て本社に戻ったとき、あの子に話しかけられたの。勿論警備員に取り押さえられていたけどね。
『麗華さんの件で大事な話があるんです!!お時間を頂けませんか!?』ってね…。私は彼の目を見て話す事を決めて、警備員に解放させたら…あの子のポケットからあのメダルが出て来たんですもの。私も驚いたわ?」
「…それは私が彼に渡した……」
「そうね、調べて見たら貴女の命の恩人で…貴女がそのお礼に渡した本物だって分かってから警備員さん達は顔面蒼白だったわよ?なにせ何日も来ていた彼に対して邪険にして追い払っていたそうだから。
そんな事もあって応接室に案内して部屋に入るなり、土下座をして麗華の婚約を考え直して欲しいって紙袋を渡されて頼まれたわ…。中身は…あのクズどもが零司さんの殺害の真犯人の証拠だったの、他にも貴女を事故に合わせようとしていた資料も入っていたわ」
私はそれを聞いてギョッとする。彼が私の…私たち家族の為にそんな事を………?
「詳細を聞くと、棗ちゃんの協力で集めた証拠だそうだけど……お母さんはそこだけは嘘だと思ってるわ」
「…嘘?」
「確かに棗ちゃんに聞いたらそうだと言っていたけど、叶さんにもそれとなく確認したら知らないって…おかしいわよね?
それにあんな物、内部の内部に隠していたでしょうから…ちょっとやそっとの潜入工作で手に入れられるものじゃない。ましてや一般人なら尚の事。どうやってそんなものを手に入れたのか…時間でも止めたのかしら?なんてね」
「……」
「でも彼に目には説得力があった、だから信じて入念に調べて見たわ。それで真実が分かったから麗華の婚約は正式になくす事にしたの。麗華の気持ちを蔑ろにしていた事も彼から説得されたしね」
私はその話を聞いて、何故か胸がドキドキとし始める。頭の中には私を初めて助けてこれた時の彼から、今日私の心も緋扇から守ってくれた彼の事を考えると胸の動悸が止まらない。
本当なら父を殺したあの男どもに恨みしか抱かないはずなのに、私の心はそれだけに支配されていない。
辛い事は今日たくさん知った。でも不思議とそれらを乗り越えられている自分がいる。
なんなのだろう…この胸の動悸は……?
「それにあの子、零司さんにどこか似ていたもの。顔とかじゃなくって雰囲気というか…いい人なのが分かるというか」
「…私もお父さんのような温かさを彼から感じてたの。最初は警戒していたけど…他の男と違って彼は不思議というか…彼と一緒に過ごして見たいと思ったり、彼の事を考えると不思議と動悸がしたり…」
「あら…?麗華もしかしてそれって…………!?」
「?」
「……いいえ?何でもないわ?貴女がこれからしっかりと考えて見なさい。その気持ちはどちらであれ今の貴女にとって支えになるし、大切なものだからね」
そう言ってお母さんはベッドから立ち上がり、部屋を出る前に振り返って私のこういう。
「今日は色々あったからね…ゆっくり休みなさい。あのクズどものことは心配いらないから、貴女は今芽生えているものだけに集中なさいな。お母さんの勘だと、一筋縄では行かなさそうな子よ?
…もしそうなったらお母さんはあの子なら構わないからね♡じゃあおやすみ、麗華」
「…?うん、おやすみお母さん」
パタリと閉じられた扉を見た後に私はベッドに倒れ込み、仰向けで天井を見上げる。
「永井秀人………貴方には返しきれない程の恩がありますからね…。貴方のことをもっと知りたい…。この胸の温かさと幸福感が何なのか…貴方といれば分かる気がします」
私はそのまま照明を消し、ベッドに入って眠りにつく。
これから自覚する感情と
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