第46話 緋扇の闇、制裁

「ど、どういう事だよそれっ!!!!!」


 そう壇上で喚いている緋扇の…なんて言ったっけ…まぁいいか。デブの息子の方がそう喚き始めた。それはアイツだけではなく、急な真耶さんの発言に会場はザワザワとし始めている。


 アイツが喚いているのを見ながら、俺こと使用人として潜入しているは会場の出入り口でその時を待っていた。


「どういう事も何も…これは正式に決定した事です。貴方と麗華の婚約は白紙にさせて頂きます。思い当たる節があるのでは?」


「な、何の事だか…「そんなことが許されるわけないだろう!!何を言い始めるのだ!?」」


 突然大声を出しながら壇上に上がって来たのは…知らないデブのおっさんだが、さっき真耶さんに挨拶をしに来ていたのを見ていたので、この人がアイツの父親なのは分かる。まぁ親子揃ってのクズ顔に、肥満体型なところを見ればそっくりだからわかるか。


 俺はそれを見てから静かに出入り口を塞ぐ。


「婚約の件はもう話がついていた筈だっ!何を今更…!」


「あなた方のした事を考えれば当然の事なのではないでしょうか?緋扇家の当主?」


「な、何の話―――『グハハハハッ!それにしてもこんなにうまく事が進むとはなぁ!?息子よ!!』」


 ざわついていた会場に一際大きな音声が鳴り響いたと思えば、その声を聞いて会場は一斉に静寂に包まれる。


『そうですねぇ!父上!これで正式に麗華が僕の物に…ぐふふふ』


『儂は確定ではないが…その内あの美玲を儂の妻にしてやろう!昔あの女を一目見た頃からモノにしたかったのだ。あの時ほどお前の母を邪魔だと思った事はなかった!


 まぁ元々体が良くなかったアイツの病を看病をするフリをして、悪化させてやったら翌年にはすぐに逝きおったから良かったものの……まさかの予定外の事でこうも時間が取られるとは…!』


『全くもって父上の言う通り!昔からあのババアは口煩かったのですよ!「誰にでも優しくしなさい〜」なーんて…何の特にもならないような事をペラペラと…あの女が死んだ時には笑いを抑えるのが大変でしたよ!』


『ふっ…さすがは我が息子、まぁあの女の事はどうでもいい。問題は美玲が儂の知らぬ間に何処の馬の骨とも知れない男と結婚して、あまつさえ子供まで産んでおったことじゃ。儂が先にアプローチしておったというのに!!!あの女め!』


『落ち着いてください父上、結果的には計画がうまく行ったのですから!これから父上が手篭めにすれば良いのですよ…!その為にあのプライドの高かった半端者の下民社長を使って、沢城零司れいじを殺させることに成功したのですから…!

 

 あの男も幼かったこの僕様が麗華を嫁に貰ってやると言ってやったというのに「お前のような奴に娘を嫁に出すわけがないだろう!」だなんて…あの時首を縦に振っていれば殺すまではしませんでしたのにねぇ?父上』


『そうだな、態度次第では無理矢理にでも美玲と離婚させ、儂らの奴隷として働かせるくらいで許してやっても良かったというのに…本当に馬鹿な男だったよ!あの平民上がりの糞虫は!!グハハハハ!!!』


『本当ですねぇ!いい気味ですよ!それにこの事実を沢城家の馬鹿どもは気が付いていないんですから、滑稽ですね!!何時もはあんなに勘がいいというのに!』


『そうじゃなぁ!始めは万が一に備えて美玲の娘を事故に合わせ、意識不明にして事を進めようかと計画していたが…気が付きすらしておらぬとは…グハハハハ!!

 あの一族も大馬鹿だったという事じゃな!まぁ儂らがそのうち乗っ取ってやれば良い…。美玲の身体もすぐに儂のものにしてやる…。


 さて息子よ、明日に沢城家を食い物にして、儂らの夢が叶う事を祝って乾杯といこうではないか』


『ええ父上!我らの成功を祝って…乾杯!ぐふふふふ!』


 そんな音声が会場内に鳴り響いたかと思うと、顔を真っ赤にした緋扇家の二人は先ほどよりも大きな声で叫び始めた。


「で、デタラメだ!!!こんな物!!!!!なんなのだこれは!!!」


「そ、そうだ!僕はこんな事を言った記憶は無い!!!」


 そう口々に弁明を始めるが、会場の人達の目は既に緋扇家を信じていない目つきに変わっている。当然だ、今までの言動や噂を考えればそんな事をしそうな一族だからだ。


「これは信頼できる筋からの提供ですし、それに…こう言ったものもありますが?」


「そ、それはっ!?な、何故それがこんなところにあるんだ!?!?それは確かに破棄したはず…っ!?」


 真耶さんが懐から取り出したのは、沢城さんを事故に合わせるための計画書だった。…あれを俺が探し出せたのは偶々だったが、あの沢城さんと初めて出会った時に感じた違和感はこれだったんだと納得がいったけどな。


「中身は…孫娘を交通事故に見せかけて大怪我を負わせると…。それに零司さんの事件の時…積極的に事件の処理をしていたのは緋扇家でしたね?あの時からあなた方の事は探っていたのですよ。当時の襲撃犯も我々が秘密裏に収監し、その男からの証言も取れていますので…もうこれで言い逃れは出来ませんね?まだまだ聞きたい事がありますので、しかるべき場所でお聞きしましょうか」


 証拠を突きつけられた緋扇家の立っている壇上は、まるで裁判が行われている様な異様な雰囲気に包まれている。

 そんな雰囲気の中、親父の方は項垂れているが…馬鹿息子の方は狂った様に笑い始め、横で棒立ちになっていた沢城さんに向かって口撃を始めた。


「ふふっ…グヒヒヒヒッ!!そこまで行ってしまっているなら仕方ない!!!そうさ!!麗華!あの日お前の親父を殺したのは僕たちの一族だ!!可哀想になぁ!幼い麗華を残して逝ってしまうなんて、とんだ最低のクズ親父で!!」


「…っ!」


「あの下民は何時も家族の為娘の為と言っていたが、本当に家族のことを想っているなら、あの時僕たちとの婚約を認めておくべきだった!沢城家に取り入って婿入りした程度で、この生まれながらにしてのエリートの僕に反抗した結果 自分は殺され、結果家族を置いて自分だけこの世から離れ、それからの家族を守れてすらいねぇ!!とんだマヌケ野郎だ!!!」


 そんな発言をしている間に奴らはガードマンに拘束されていくが、それでも口を閉じない。


「でもなぁ!根本的にはお前のせいだ!麗華!!お前が幼い頃、俺を拒絶した時からこの因縁は始まっていたんだよぉ!!あの下民も、お前が嫌がっているから僕からの求婚を断ったと言っていたんだ!!お前が悪いんだ!!!お前のせいだ!!!!!」


「そ、そんな………私のせいでお父様が…?」


「そうだ!お前のせいだ!お前が僕からの求婚を断っていなければこんなことになっていなかったんだ!…そうだ!父上から聞いたお前の親父の遺言を聞かせてやろうか!?『お前のせいで…お前なんかを生んだから俺が死ぬことになったんだ!お前なんか作らなければ良かった』って――――――グホァアアアアッ!?」


 次の瞬間には俺の体が勝手に動きだし、壇上で好き勝手言っているクズの顔面に思いっきりパンチをめり込ませて、殴り飛ばした。

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