第43話 確認、行動準備
「そろそろ着きますよ、永井様」
「わざわざ迎えに来て貰ってすみません…」
「いえ、こちら側の都合ですしお気になさらないで下さい。それにお嬢様も再びお会いして謝罪したいと仰っていたので」
三連休の最終日、俺は再び榊原さんに連れられて沢城さんのお屋敷に来ていた。
何故こうなっているかと言うと、昨日榊原さんに送って貰った後、俺が寝る準備をしているとスマホに榊原さんから連絡があったからだ。
…怖かったのでなんで番号を知っているのかは聞けなかったが、用件は 「お嬢様が今日のお礼と謝罪を改めてしたいので、都合のいい日にまた屋敷に来て欲しい」との事だった。
実際俺も沢城さんに確認したい事があったので、何も予定がなかった為二つ返事でOKして今に至るという訳だ。
「あの…こんな事を聞くのはどうかとは思うんですけど、榊原さんは緋扇家との婚約は良く思ってないんですよね?それとこの婚約って沢城さんのお母さんが主導しているんですか?」
「それはまた…答えにくいご質問ですね…」
俺のその質問に少し困った様な顔をした榊原さん。申し訳ないとは思うが、これは俺が動くにあたって知っておかないとダメな事なんだ。
「………これは私の独り言ですが、私個人としてはお嬢様の婚約は解消して、お嬢様がご自身の意思で選んだ殿方と結ばれて欲しいと思っています。
お嬢様はとある事件で信用できる男性を失い、それからあの美しい容姿もあって様々な男性の欲望の目に晒されてきました。ですので嫌いな殿方との政略結婚というのは…余りにも………。
…それと婚約の話ですが、どちらかと言うとお嬢様の祖母君……
そう遠くを見ながら俺の質問について答えてくれる榊原さん…。そうか、なら…
「…ありがとうございます。でも聞いたからと言っても、何で俺に教えてくれたんですか?」
「はて?何のことでしょう…。私は独り言を漏らしただけですよ?しかしそうですね…そんな独り言を永井様の前で言ったのは、貴方が信頼に値する方だと信じているからですかね。
しかしこの事は沢城家の関係者以外ですと、お嬢様の一番のご友人である一条様以外は知らない事になりますので…漏らさない様にお気を付け下さいね」
「そ、それはどうも………もしかして一条って…?」
「えぇ、永井様もよく知っていらっしゃいます一条棗様です。棗様はお嬢様と昔からのご友人で、緋扇家よりも交友の長い一条家のお嬢様ですよ。棗様が殿方であれば、お嬢様の婚約者は一条家から選ばれていた事でしょう」
まさかの関係を知った俺は驚きながらも車に揺られ、沢城さんの屋敷に着いた。
◇
「では永井様、こちらでお嬢様がお待ちなのでどうぞお入り下さい」
そう言って俺が案内されたのは昨日も来た応接室。そして俺はコンコンとノックをしてから扉を開ける。
「おや…来て頂けましたか永井秀人。どうぞお好きに座って下さいな」
「あ……ありがとう沢城さん」
俺が中に入ると、部屋の奥にある窓辺に立っていた沢城さんが振り返り、俺を迎えてくれる。
その際に窓から入って来た光が沢城さんの綺麗な銀髪に反射し、まるで後光が射した様なその光に神々しさすら覚えた。
そして俺が適当な位置に座ると、俺が入って来た扉から何人かのメイドさん達が何かの袋を机の上に置いて去って行った。
「先日は申し訳ありませんでした。あの様な事を急にしでかす男で、私も困っているのです……」
「いや気にしなくても良いよ。あれは沢城さんが悪いなんて、俺は思ってすらないから」
「…ありがとうございます、ですが粗相は粗相です。あの男が破壊してしまったキーホルダーの代わりとは言えませんが…こちらは我が沢城グループの系列店の菓子折りです。あまり高級な物は受け取って貰えないと思ったので、そこそこの物で選ばせて頂きましたのでどうぞお持ち帰り下さい」
俺が中身を確認すると、中には俺は目にしたことが無い高価そうな菓子折りが入っている様に見えたが……気にしたら負けだな、うん。何も言わずにありがたく頂戴しておこう。
「あ、ありがとう沢城さん。帰ったら美味しく頂くよ…」
「はい。それとこれともう一つ…コレもお持ち帰り下さい」
沢城さんが俺に差し出して来たのは小さな頑丈そうな箱に入った…バッジ?メダル?の様な何かで、何かの紋章の様なものが刻まれている。
「えっと…コレは?」
「我が沢城グループの家紋が刻まれたメダルになります。それを見せれば沢城グループの系列店であれば最上級のサービスが受けられたり、沢城家の人間に認められたという身分証明にもなります。コレは上層部で数や誰に渡っているかが管理されているので、盗難にあったとしても盗んだ者にとってはただの金属片ですが」
…今とんでもない説明を受けた様な気がする。
「待って?流石にそんな凄いものは受け取れないって!?」
「ですが貴方には命を救ってもらった恩があります。自分でいうのもあれですが、私の命は次期沢城家の命運を握っている身…。少なく見積もっても貨幣にして数十億程の価値のある命だと思っていますので。
それにここにコレがあるという事は、もう申請が済んで貴方に登録されたものだと言う事です」
恐る恐る俺は素手で触らない様に箱を開け、ハンカチで摘んでメダルを裏返すと、そこには俺の名前が彫られていた。
「……………わかった。使うかどうかは別として…受け取ってはおくよ。それよりもこれ…大切なものなんじゃないの?」
俺は取り敢えずその箱を机の上におき、ポケットから昨日渡された沢城さんが持っていたキーホルダーを取り出して沢城さんに見せる。すると沢城さんは一瞬悲しそうな顔を見せたが、再び無表情に戻ってしまった。
「………良いのです、確かにそれは私にとって最も大切なもの…。ですが同時に呪物でもあるのです。いつまでも過去に縛られていては、これからの沢城家を一人で引っ張って行く事なんて出来ませんから…。父に似ている貴方に託したのです」
「一人でって…他の家族とか婚約者のアイツとかいるじゃないか…。一条先輩や榊原さん達だって……」
「それでも、それでもです…もう失いたくないのです………。それに緋扇家の…あんな男は頼れるところなんてありませんし、本当はあんな男と添い遂げるなんて考えたくもありません」
「なら―――「ですがそんなワガママを言える立場では無いので、私の気持ちは関係ありません。もっともこれは私が当主となるにあたって婚約するという式典の様なモノであって、相手が緋扇家でなければならない理由はありませんが」
どこか諦めた様な顔をしている沢城さんを見て、俺は決心した。
「…ならもし緋扇家に何かがあって婚約破棄って形になっても…沢城さんの家に影響は殆どないのか?」
「…?えぇ、もしそうなったとするとまた別の名家との縁談が入るだけですので」
「そうか…じゃあ俺からの頼みを聞いてくれないかな?沢城さん」
「はいなんでしょう?」
「もしそうなったらきちんと親御さんと話し合って、政略結婚なんて辞めにして欲しい。少なくとも沢城さんの代では。…ちゃんと自分のことを親御さん達に話して欲しいんだ」
俺がそんな頼みをすると思っていなかったのか、沢城さんは驚いた様な顔をしている。
「な、なぜそんなことを?」
「………それが出来る環境にいるならきちんと話し合うべきだよ。沢城さんならきっと間に合う。それが俺が助けた沢城さんへのワガママってことでさ、頼むよ」
俺はそう言うともらった物を持って入り口の扉を開く。
「じゃあ俺はこれで…。俺の頼み、しっかり聞いてくれよ?」
そう言って廊下に出た俺は、外に待機していてくれた榊原さんに家まで送って貰った後、とある人物に電話を掛ける。
「もしもし一条先輩ですか?ちょっとお願いしたい事がありまして―――」
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