【冬姫】編
第36話 男嫌いのお嬢様
「分かってるって…悪かったよ、急にバイト入れなくなって…。今度お前と代わってやるからそう怒るなって」
『ち が い ま す!!!奈緒はそんなことで怒ってるんじゃないですよ!心配したんですからね!?急にセンパイが病院に運ばれたって聞いて、いても立ってもいられなかったんですから!』
「なんだ、お前にも純粋に先輩を心配する心があったのか…意外だ」
『センパイは奈緒の事どんな風に思ってるんですか!?…センパイが誰かの頼りになる事は良いことですけど!良いことなんですけど!!!奈緒がいうのもあれですけど、センパイは無茶しすぎです!(…それにそんな事してたら、奈緒の他にも先輩のことが好きな人が出て来ちゃうじゃないですか…)』
「ん?今なんか言ったか?電波悪いのか聞こえなかったんだが?」
『〜〜っ!も、もう良いです!今度駅前の【季節限定 フルーツとホイップメガ盛りDXパフェ】をセンパイの奢りで食べさせてもらいますからね!お大事に!!!』
「おい!あれ二千円くらいするやつだろ!?ちょっとま………切りやがった…自分からかけて来たくせに…なんだあいつ」
街中を歩いていた俺は騒がしかった瀧川との通話を終え、耳からスマホを離してポケットにスマホをしまう。
俺が入院を終えてから二日経った今日、俺はとある理由で街中を歩きながら瀧川に連絡を入れていた。
というのも今日の今日まで店長や三枝、美涼や瀧川や棗さんと言った人たちに心配の連絡や見舞いをしてもらっていた為、順番に怪我が治って退院した旨を伝えていた。…瀧川と三枝に説明するのは面倒だったけどな。本当に。
瀧川はあの借金地獄から解放されたおかげかスマホを手に入れたらしく、俺が意識を取り戻す前に机にチャットアプリのIDが置いてあったので、そこに連絡をさっき入れた。そうしたらあれだ…なんなんだホント。
「…まぁ迷惑かけたしな、奢ってやるか…。後は棗さんにも本を返さないといけないし…しばらくは財布と体に余裕を持たせとかねぇとな」
財布の中身を見ながら俺はそう呟き、手に財布を持ったまま道なりに沿って歩いていく。時間が止められたら楽なんだが、あの件から不発に終わってるからな…元々持っていなかった力なのに使えないとなると不便に感じるのだから、我ながら傲慢な生き物だと思う。
「それにしても…あっちいな…人混みだから尚更か…」
当然の事ながら俺が入院していた時にも季節は移り変わり、七月に入ったばかりだというのに気温は三十五℃に届きそうな勢いだ。
そんな街中を汗をかきながら歩いている理由は一つだけ…そう、俺の大好きな漫画達の最新刊が発売されるという事で、半袖を着ていても汗をかくクソ暑い中出歩いているのだ。
瀧川達に連絡をしていなければ今頃、もう少し早めに歩けてクーラーのかかった大型のショッピングモールのフードコートで読書中だ。
(今回の新刊の1つは初回特典版だしな…絶対に手に入れないと…!それに一人暮らしだと外にいる方が電気代が安上がりだしな、節約節約…っと)
流れ出る汗をハンカチで拭いながらも、目的地の本屋のある大型ショッピングモール 【WAON】を目指して歩き続ける。
「ん?なんだあの人だかり…」
俺がWAONを目指して歩いていると、大きな道路に人だかりができているのが見えた。ここは普通に通行用の道路だし、特にイベントなんかもやっていなかったはずだが…なんだ?
気にはなったが俺も先を急いでいる身、人混みをかき分けながらも確実に歩みを進める。すると以外にも人だかりは遠巻きにいるのか、あっさりと超えることができた。
そして人だかりを超えた先で俺が見たのは―――明らかに周囲の人達とは空気の違う女性だった。
そこに立っているだけで周囲の温度が下がったような気がするほどの白く涼しげな美しい容姿、雪のように透き通った長い銀色の髪の一部を側頭部で編み込んで、長く伸びた髪の上に後ろで纏めている。
大きな目の色も澄んだ水色をしており、棗さんと同じほどの豊かに実った大きな胸と細長く綺麗な脚が、白いドレス型のワンピースと大きめの帽子と調和しており…まるで雪の妖精のように美しく見える。
(ほぉ…?周りの人はこの人を見てるのか…まぁ綺麗な人だな。外国人とかか?)
普段美涼や瀧川、それに棗さんを見ていた俺だったが、彼女達とはまた違った美しさを持った不思議な人だった。でもどちらかというと棗さんに似てるな。
その女性はしきりに高価そうな腕時計を確認しながら、何かが入っている紙袋を大切そうに抱えて持っている。
(大方彼氏とのデートの待ち合わせってやつか?それにしては嬉しそうじゃないけど…やっぱあれだけの美人な彼女持ちとなると、色々面倒ごとに巻き込まれそうだけどなぁ…。少なくとも俺はもう二度とごめんだ…)
棗さんの件もあって周囲から向けられる多くの視線、あれは俺みたいなぼっちの人間に耐えられるようなものでは無かった。棗さんといる時にも胃薬が必須な程には。
するとどこから現れたのか、ナンパをしに二人組のチャラそうな男がその子に声をかけている。
ああいう輩が寄ってきて大変だなぁと思いながら見ていると、男がその女性に触れようとした瞬間…その女性は二人の男に冷たく鋭い視線を向けたまま容赦無く股間に蹴り直撃させ、軽やかに帽子を手で抑えながら回転したかと思えば鳩尾に中段蹴りをかましてナンパ男を撃退していた。
(…つよ)
その苛烈でありながら優雅な舞のような反撃に、ナンパ男たちは涙目になりながら退散していた。
「気持ち悪い…これだから男は……」
そう極寒のように冷たい目で、唾棄する様に男の背中を睨みながら吐き捨てている…。
(相当嫌だったんだろうなぁ…あの顔は)
その女性の顔から見て取れる冷たい目と不機嫌な顔からは、とても不愉快な気持ちがヒシヒシと伝わってくる。
ガシャーーーンッ!ブオオオオオオオン!!!
そんな女性を尻目に俺も歩き出そうとすると…その女性の後ろから大きな音が聞こえたかと思えば、近くで事故を起こしたであろう前方が大破した真っ黒の車が猛スピードでその女性に突っ込んでいく。
「えっ…!?」
(おいおいおいおい!?)
「……頼む!人の命がかかってるんだ!! 【
そうして俺が強く願って唱えた瞬間、俺の周りの世界が灰色に包まれた。
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