第33話 終わりと目覚め
「…うぐっ!?……ぐふっげほっ………」
「秀君っ!!?秀君っ!ねぇ!しっかりして!?」
『くそっ間に合わなかった…!今のうちに彼だけでも拘束します!』
『おい!刺されたぞ!?誰か救急車!!!』
「クソが!邪魔すんじゃねぇ!!!!!」
先輩を庇って間に飛び込んだ俺の左胸には、深々とナイフが突き刺さっている。
そんな俺を見て近くにいたスーツを着たハンサムな男性の声をはじめに、周囲の人たちが一斉に毒島を拘束しているみたいだ。
(クソ……いてぇ…痛すぎるだろ…それに…あんな自信満々だったのに刺されるなんてな…ダッセェな俺…)
俺はフラフラと刺された左胸を押さえながら力無く倒れこむ。その拍子にナイフは俺の体から抜け落ち、刺された傷口からはドクドクと体内から液体が滴り、意識も朦朧としている。
(…あぁこりゃダメかな……明らかに助かるような怪我じゃないな………)
ふと胸に当てていた手を見ると…冷たい…それになんだ?赤くない…?それどころか色が…無い?
「秀君!?ねぇ!しっかりしてよ!ねぇっ!!!ダメよ!死んじゃダメ!!!」
俺が朦朧とする意識の中で顔をあげると、そこには俺の傷口に自分のハンカチを当てて必死に止血をしながら泣いている棗さんが居た。
不思議なことに棗さんが持っているハンカチや手は真っ赤に染まっているように見える。
(……何だったんだ?アレは…ってそんな事考えてる場合じゃ無いな…)
「棗…さ……無事で…よかっ……た…です……ははっ…ミスっちゃい…ました…」
「私はなんとも無いから!もう喋らないで秀君!血が…血が止まらないのっ!」
俺が力無く笑いかけて棗さんに声をかけると、棗さんは泣きながら俺の顔を見つめてくる。
(あぁ…この人は泣いてても綺麗だな……ずるいや…。でもそうか…無事だったのか…)
俺の命1つなんかで棗さんの命が救えた。その事実に満足した俺が近くに落ちていた棗さんの本の隙間から栞に触れる。するともうそこからは何も感じなかった。
「よかった…もう変わって……る…。…でも…無駄…ですよ…俺は…助かりま…せん……だからハンカチ…離さ……ないと…汚れ………」
「ダメっ!絶対に助けるからっ!!私のせいで秀君が……まだ話したいことだっていっぱいあるの!秀君とはまだまだ一緒に居たいのっ!だから…諦めちゃダメ!!!」
ポロポロと涙を溢れさせ、優しく包み込む様に俺を抱きしめる棗さん。
「…ハハッ……こんな美人さんに…抱きしめ…られるなんて……幸せ…です……ね」
「こんなことで良いなら治ってからいくらでもするっ!秀君のこと抱きしめる!だから…しっかりして!!!」
俺の意識はどんどんと体内から流れ落ちる液体と共に薄れていき、段々と声すら出なくなって行く。
(その前に…これだけは…これをしないと棗さんが負目を感じてしまう…)
幸いな事に人は全員毒島の方を見ており、近くには誰もいない。
それを朦朧としながら確認した俺は、棗さんの前に血だらけの手をかざし、体から湧き上がる力の奔流をそのまま全力でぶつける。
それはまるで体がこう使うのだと俺に教えるように綺麗に【チカラ】が放出された。
(『
俺がスッと体から出た命令に従うように【チカラ】を使うと、自分でもわかるように今回の事件の記憶が棗さんから抜け落ちて、時間差で封印されていく様に書き換えていく。
(これで…良い……これで棗さんは傷つかなく………うっ…)
記憶改変の途中で俺が力尽き、バタリと腕を落とす。…もう……ダメだ………。目を開けるのも…辛い………。
「秀君!ねぇ秀君!!救急車が来たからねっ?だから…お願い…!」
そんな棗さんの縋る様な声と、遠くから聞こえるサイレンの音を聞きながら俺の意識は完全に闇に呑まれていった…。
◇
『…僧……小僧』
(なんだ…?声が聞こえて……誰の声だ…?)
あたり一面が闇の世界で、俺に対して語りかける声が聞こえる。この声…どこかで聞いた事がある様な…………わからない。
『小…、今……………な…ては……る。それ…まだ………………ねばならぬ………起きよ』
(もう死んだんだよ…俺は…)
『貴様…………ること……無い。ほ……早く……行…』
頭の中にノイズ混じりの低い声が響く。そんな事を言われてもと思っていると、突然世界が明るくなる。
◇
「っは!?…いっつ……ここは…?」
俺が目を覚ますと真っ白な知らない天井を見上げ、知らないベッドに横たわっていた。
「ここは…病院…?」
俺が頭をかかえていると、ガラガラっと扉が開く。
『っ!目を覚まされたんですね、今先生をお呼びしますので少々お待ちください』
そういって俺を見た看護婦さんは先生を呼びに歩いていく。
そしてこれは医師の先生から聞いた話だが、なんと俺が刺されてから三日も経っていたらしい。そしてあの事件は大きな騒ぎになり、毒島は現行犯逮捕で現在は警察署で取り調べが続いているそうだ。
因みに俺の怪我は奇跡的にナイフが心臓まで到達しておらず、重症ではあるものの一命を取り留めたとの事だった。しかし先生曰く死んでいても不思議ではなかったそうだ。
それからしばらくベッドで横になってジッとしていると、俺の病室の扉が勢いよく開き…扉の方に目を向けると、そこには息を切らせた棗さんが立っていた。
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