第31話 束の間の静寂、それは嵐の前の静けさ

 今日はちょっと長めです。すみません💦

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 俺と棗さんの関係がバレてから数日が経った。当然その間に大学内で噂が噂を呼び『 【聖央の秋姫】に彼氏が出来た!』と大騒ぎだったそうだ。


 そのせいで最近は棗さんと一緒に居ると、ジロジロと値踏みをする様な視線と共にフッと鼻で笑われる事も増えた。

 そしてそんな俺を見て『あんな奴で付き合えるなら俺でもイケるんじゃね?』と思った一部の勘違い野郎が、俺がでいない隙を狙って棗さんに言い寄ったそうだが………まぁ結果は聞くまでも無いだろう。


 この前バイトに行った時は瀧川がいなかったが…アイツといい三枝といい…近々説明しないとうるさい奴が多いな。少し考えれば俺なんかが一条先輩と付き合えない事くらいわかるだろうに。


(…わかっていた事だけどジロジロと視線が鬱陶しいな)


 そんな事があったからこそ、この数日俺は人目にさらされる事が多い。そんな居心地の悪い大学内を昼飯を食べた後に歩いて行きつつ、人が少ない講義室の前の自販機に行くと、美涼がチャラそうな男に声をかけられていた。


「なぁイイじゃん?そんな顔してるって事は彼氏にフラれたりしたんっしょ?俺が慰めてやっからよ〜?連絡先交換しようぜ?」


「い、いえ…その…困ります……」


 これまた典型的な絡み方だなぁ…ったく…。


「お待たせ美涼、そちらさんは…?」


「…えっ?しゅ、秀人…!」


「…チッ……んだよ男いんのかよ…」


 俺の方を見たチャラ男は面倒ごとにはしたくなかったのか、俺の方をみると面倒そうな顔をして去って行った。


「行ったか…んで?どうしたんだ?そんな悲しそうな雰囲気で。いつも一緒の友達もいないみたいだけど?」


「あ、ありがと秀人…えっと…今は一人で居たくて……それで」


 そう美涼は小さく言うと、俺からススッと離れる。


「ん?どうしたんだ?美涼」


「う、ううん…近づき過ぎると悪いかなって思って…(今の私にも辛いし……)」


「悪いって…もしかして一条先輩の事言ってるのか?」


「うん…ほら一条先輩と秀人って、お付き合い…してるじゃない?それで一条先輩に悪いかなって…」


 なるほど…どうやら美涼も完全に信じきってる奴だなコレ。昔っから嘘を疑わない様な奴だったからなぁ…。

 それに美涼も一条先輩に憧れみたいなのを持ってるっぽかったし、付き合ってる云々の事で一条先輩に遠慮してるんだろうな。


「えっとな…美涼、よく聞いてくれ。実は俺と一条先輩は付き合ってないんだよ」


「うん…その事はもうみんな知って……………えっ!?!?」


 俺がそう言うとさっきまでの沈んだ表情ではなく、ギョッとした表情で俺の方をみる美涼。…こんな間抜けな顔をして居てもブサイクに見えない顔はずるいと思うんだよなぁ…いっつも。


「ど、どういう事!?だってこの前一条先輩が大講義室で秀人と付き合ってるって…!」


「そうだけど…まぁ一から説明するから、そこに座って話そうぜ?」


 そう美涼をベンチに促し、俺は棗さんとの関係について話し始めた。



「―――って感じで、俺と一条先輩は付き合ってる偽装をしてるって訳だ。冷静に考えればわかるだろ?」


 俺が一通り先輩と付き合うと言った流れになるまでの説明を美涼にして、美涼は俺の横でウンウンと話を聞いて居た。


「な、なんだ…そういう事だったのね。はぁ〜…よかった……せっかく決心したのに手遅れになったのかと…」


「決心?手遅れ?なんの事だ?」


「う、ううん!気にしないで!!こっちの話だから!」


 俺が聞き返すと、何故か顔を赤くした美涼がアワアワとしながら、今日着ている半袖の白いブラウスの前で掌をブンブンと振っている。


「で、でもなんで引き受けたの?その役目…。確かに一条先輩が頼めそうな人…というか、私でも彼氏役を頼むとしたら秀人しかいないけど…も、もしかして一条先輩の事が好きだから…とか?」


 …俺ってそんなに無害そうに見えるのか?まぁ何もする気は無いけどさ?


「無い無い!そもそも俺なんかが一条先輩と並んで歩けるなんて思ってないし、ましてや好き嫌いの話じゃねーよ。まぁ日頃からお世話になってるしな、恩返しの意味もかねてというか…そんな感じだ。それに困ってる人が居るなら見過ごせないだろ?…あとこの事は誰にも言うなよ?美涼だから話したんだし」


 俺がそういうと「…そんな事無いと思うけどなぁ?魅力的にも釣り合ってるし…」と精一杯のフォローを俺に入れてくれた美涼は「私だから…そっかそっか…」と何かを噛みしめる様な顔をしながら納得している。


「わかってるよ、誰にも言わない。…それにしても昔から困ってる人はほっとけないんだね?秀人は。私の時もそうだったし…そういう良いところも変わらないね?」


「そ、そんなんじゃねーよ…ただ目の前で困りっぱなしの人がいると俺も困るからってだけだ!」


「はいはい、ふふっ…そういう所のことだよ?」


「う、うっせぇ!それよりほ、ほら!落とし物!返す暇が無くて俺が持ってたんだ。返すよ」


 そう俺が照れ隠しをする様にカバンから取り出したのは、あの事件の時に拾った少し燻んだ色になっている美涼の桜の髪飾りだった。


「あっ…!コレ…秀人が持ってくれてたんだ…ありがとう!」


「ちゃんと返したからな?次は落とすなよ?―――ってもうこんな時間か!悪りぃ美涼!俺もう行くわ!」


「え!?ちょっと!秀人!?」


 俺は腕時計を見て立ち上がり、早足で外に向かう。その時に後ろから美涼の声が聞こえてくる。


「秀人っ!人を助けるのは良いけど!危ない事はしちゃダメだからねーっ!あと、これ拾ってくれてありがとー!」


「………お〜!じゃあな!」


 後ろから聞こえてくる美涼の言葉に、俺は即答する事が出来なかった。



 美涼と別れてからすぐに俺はで、三回生の教室の周辺の柱に身を隠して様子を伺っている。別に不審者になりたくてこんなことをしている訳では無い。

 時刻は昼の講義が始まる時間帯、そろそろが大学にくる時間だ。


 因みに今日一条先輩は、授業がなくて休みだと連絡が入っている。


(…来た。毒島だ…)


 俺の近くを通りかかったのは…監視対象にしている毒島だ。当の本人はブツブツブツブツとうわごとの様に何かを唱えながら、狂気に染まった目とゾンビの様な雰囲気で指を噛みながら歩いている。


 実はここ最近毒島の動向を監視しているのだ。

 というのも俺が見たは間違いなくやってくる。その未来を変えるならば、俺が毒島を見張って何かアクションを起こす必要がある。


(あの感じだと…そろそろだろう)


 毒島の様子を見た俺は、静かにカバンの中からジップロックに入った一枚の写真を袋ごと取り出す。その写真には、隠し撮りであろう一条先輩の顔が写っている。


 勘違いしないで欲しいが、これは決して俺の私物では無い。これは俺が【時間停止】を使って毒島から盗んだものだ。


(盗んだ事は悪いと思ってるが…これも先輩を守るためだ)


 そう心の中で言いつつ、俺は袋を開けて写真に触れようとする。これも最近になってわかった事なのだが、俺が意識的に注視している人間にも未来視は発動するらしい。

 それに加え俺が直接触れないとそれも発動しないらしい。なので袋越しに写真に触れても何も見えないという事だ。


 そんな実験をした俺は、毒島から情報を引き出すために意を決して写真に触れる。


「(うがっ…!?こ、これは…!?!?)」


 その瞬間、俺の頭に強烈な痛みと共に映像が鮮明に映る。この痛さは…もうその時は近いんだな…。

 俺はその猛烈な頭痛に耐え、荒くなった息を整えながら小さくなって行く毒島の背中を見送る。


(…毒島、お前の好きには…させねぇからな…!)


 俺はそう毒島を柱の陰から睨みつけながら、午後の講義に出るために講義室へと戻る。


 決戦は俺の予想通り、次の日に起こる事になる。

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