第27話 不思議な人 side:一条棗

 私の名前は一条棗、聖央大学の3回生をしている。


 そんな私には今気になっているというか…気にかけている男の子がいる。と言っても別に恋愛的に好きなわけではないけれど、弟に対しての家族愛というか…親愛というか…とにかく好意的な事に違いは無いかなぁ。


 自慢では無いけれど、私は昔から普通の人よりも容姿が美しく、全体的なスペックが高い自覚はある。

 だからこそ昔から良くも悪くも人に囲まれた生きて来た、それは21になった今でもそうだけどね。


 さっきも言った通り…私は人に囲まれて生きて来たからこそ、いろんなタイプの人を見て来た。純粋に私と仲良くしてくれる子…打算的に仲良くしにくる子…下心が丸見えで近寄ってくる人に、私の能力だけしか見ていない人…悪意や憎悪を持って近寄ってくる人もいたかな…。「彼氏があんたの事が好きになったからフラれた!」なんて…私に言われても、私は何もしてないのにね。


 そういう事もあって、私が年齢を重ねる毎に後者の人が増えて行った。

 …今では純粋に私と仲良くしてくれる子なんて数えるくらいしか居ない。それも全部昔から仲のいい女の子だけ………だった。

 男性は私の容姿や身体、能力にしか興味が無いのが透けて見えるようになってしまったのは、高校生になってすぐの事だった。


 そんな事だから高校生になってからは男の子に対して恋愛感情はおろか…親しい感情なんて湧いた事がなかった。勿論私にも昔は気になる男子がいたり、男の子の友達もいたことはある。だけどそういう人達は年齢を重ねる毎に変わってしまい、いなくなって行ってしまった。

 でも人なんてそんなものだと思い、そういう人でも邪険にする訳にもいかないから、私は当たり障りのない返事をしながら今の大学でも生活している。


『一条さんってどういう本読むの?実は俺も本に興味あってさ…オススメの本を何冊か教えてよ。…だからさ?このあと二人でどっか行って話さない?』


『一条さーんお願い!今度の合コン私と一緒に参加してくれない?…え?どうしてって………そ、そりゃあ〜私が一条さんと仲良くしたいからだよー!』


『流石は一条君!我がゼミの歴代生徒の中でもぶっちぎりの優秀さだ!これからも今以上のことを期待しているよ!ハッハッハ!』


 そんな人達に振り回されて付きまとわれて…だんだんと疲れていた2回生の夏頃の時に私が珍しく一人で大学内を歩いていて見つけたのは、少し古びた図書館だった。

 私がいつも行っている中央棟の図書館は人が多く、私が本を読んでいるだけで多くの視線や、色んな人に声をかけられたりして一人で趣味の読書に没頭する事ができないでいた。


 そんな時に見つけた人気の無い図書館…私は運命だと思った。

 最初は開いているのか分からなかったけれど、中に入ると優しそうな司書のお婆さんが私を歓迎してくれた。


『おやおや…こんな所に生徒さんが来るなんて…最近はあの子以外だと初めてだねぇ…ん?ご迷惑でしたかって…とんでもないさね!歓迎するよ?』


 そう言われた私が中に入ると、中には様々な本が本棚いっぱいに詰まっており、二階の読書スペースには人一人いない空間が目に入って来た。

 その空間にテンションが上がった私はその辺りから本を数冊取り出し、吹き抜けになっている二階の窓の近くで読もうとすると…その近くのテーブル席に一人の男子がいる事に気がついた。


 その子は黙々と本を読んでいて、近くに来た私に気がつく様子がない。…見た事がない子だから1回生の子かな?

 そんな様子を見て私は、その生徒に気づかれないようにそっと椅子に座ろうとしたけれど、ギシギシっと古くなっていた椅子が音を立ててしまった。


 私はそっと男子生徒の方を見るが、その男子は私を少し驚いた顔をして一瞥した後、すぐに本を読む事に戻ってしまった。…そんな事もあって後輩君の第一印象は『不思議な人だな』と思ったな。


 私は話しかけられたりするのかな…とそれからしばらく通ううちに警戒していたが、その男の子からは全く何も無かった。…それはそれで思うところがあった私は、その不思議な男子生徒が読んでいる本を何度か観察していた。

 するとその男の子は、小説やSFなどの物語や大学の授業に関係する文献、料理の専門書なんかの様々なジャンルの本を読んでいた。


 特に私は小説が好きで、数ヶ月ほどたった頃に彼が芥川龍之介の『羅生門』を読んでいる時についつい私から話しかけてしまった。


 最初こそお互いぎこちなく、恐る恐るといった感じだったけど…しばらくする頃にはすっかり私も後輩君もいい意味で対等に話せる関係性になっていった。

 その過程で後輩君の事をからかって遊ぶようになったけれど…これが私の素の部分なんだって初めて気が付いた。


 そしてそんな素の私と対等な目線で本の事を語り合ったりする時間が増える度に、彼は外にいる他の男子と違って、素の私の事を受け入れてくれつつ、口先だけじゃなくて本当に本が好きな事も彼のことを知る度に良く伝わって来るようになった。


 それに私に対して過剰な干渉をして来ないところも私にとっては居心地が良い理由でもあった。

 『俺が他の男から一条さんを守るよ』なんて口先だけの事を言って下心で近寄って来ない彼…後輩君との距離感が私はとても楽しいし、好きだ。


 そんな彼と仲良くなってから初めて迎えた秋頃の私の誕生日、他の人たちからは高価な装飾品や化粧品、花束やブランド物の服とかバッグに…凄いものだと大きな宝石なんかもあったなぁ…流石に受け取らなかったけどね、受け取った後が怖かったから…。


 そんな中で一際輝いて記憶に残っているのが、後輩君のくれた私の髪色にそっくりな色をした綺麗な本の栞だった。

 もちろん後輩君がくれたこの栞は、私が今までもらった物の中では決して高価なものではないけれど…今までの人と違って私の性格や趣味なんかの中身を知っていて、その上で私が本を読む事が何よりも大好きなことを知っていなければこんなプレゼントを選べないからね。


『日頃一条先輩にはお世話になってるんで…こんな安物しか渡せないっすけど、よかったら使ってください。あぁいらないなら捨ててもらって良いんで!』


 そう言って渡してくれた後輩君を見て、久しぶりにプレゼントを貰って心から嬉しいと思った瞬間だったな。


 そうして私の中での親愛度がグングン上がっている秀君に、私の最近の悩みを解決して貰うために彼氏役を引き受けて貰ったけど…ちょっと申し訳なかったかな。

 それでも私がこんな事を頼めるのは秀君しかいなかったし、何かこう…秀君以外の人に頼みたくなかったっていうのもあったなぁ…何でだろう?


 それにちょっと申し訳なさの中には秀君をからかって反応を見たかったのもあったけど…ね?

 …でもなんだか今日帰る時の秀君の急に変わった顔つきを見て、不意にドキッとしてしまったけど……ダメダメ、私がドキッとさせられてどうするの!


 それにしてもこれからどうしようかな…その辺りは秀君と一緒に相談していかないとね。

 これから迷惑をかけるかもしれないけど…よろしくね?秀君♪

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