第26話 ニセモノの関係
「…はい?え?」
俺は突然先輩の口から出た言葉に驚きを隠せなかった。そりゃそうだ、目の前の先輩の表情は真剣そのものでとても冗談を言っている様には見えないからだ。
「うふふっごめんなさい、言葉足らずだったね。お姉さんがお願いしたかったのは、後輩君に私の彼氏役になって欲しいって言うことなの」
「……あーはいはい…わ、わかってましたよ?勿論…」
嘘だ。正直先輩に告白をされたのかと心臓がバクバクだった。体は熱く…なってないな。あれ?
まぁそんなことはいいとして、内心喜びがあったのは内緒にしないと…先輩が言いたいことを理解してちょっとガッカリしたなんて言えないよなぁ。勿論そんな下心で先輩といる訳じゃないけどさ。
「あらぁ…?もしかして後輩く〜ん…お姉さんに本当に告白されたと思ったのかしら〜?ウブで可愛いところもあるのね〜?」
「う、うるさいっす!俺みたいなフツメンの非モテ男子が、先輩みたいな超美人に告白されるなんて思ってないっすよ!」
「そんなことないと思うけどなぁ?その人自身を好きになれば、見た目なんて些細なことよ?」
そう俺をからかう様にニヤニヤとしながら、机の上に置いた白魚の様な両方の腕の指を絡ませ、その上に顎を乗せて笑っている一条先輩。
それに加えてあざとくこてんと首を傾げ、その下には可愛いさではない女性らしさの塊の大きな胸が机に乗っており、恥ずかしさも含めたいろんな意味で直視できなかった。
「そ、それで?なんでそんな事を俺に?何か理由があるんですか?」
俺がそう一条先輩に聞くと、先輩は少し真剣な顔つきになって説明してくれる。
「…うん。ほら今日後輩君が助けてくれた時に居た、大柄で小太りの人がいたでしょう?…その人に最近しつこく何十回も交際を申し込まれていてね…?何回もお断りしてはいるんだけど、引き下がってくれなくって……他の人だったら多くても五回くらいで引き下がってくれるんだけど…ね?」
五回でも凄まじい執念だな…俺だったら一回振られただけでメンタルが崩壊する自信がある。
それにしてもやはり先輩はモテモテの様だ。まぁそりゃあこんなモデルやアイドルや、女優顔負けの超美人で且つスタイル抜群な人が近くにいるのなら当然なのだろう。
「なるほど…つまり毒島さん…でしたっけ?彼からの交際の申し込みを断る為に俺に協力して欲しい…と?」
「そうなの…だから後輩君がお姉さんの彼氏役になって欲しいなって思ってるんだけど…駄目……かな?勿論身勝手なお願いなのはわかってるんだけど…最近執着が激しくなったって言うか…さっきも一人でいる時に視線を感じたりして怖くて……」
そう先輩は少し怖がっている様な顔をして、俺の方を見てくる。
…先輩から聞いた話で話の流れは大体掴めたし、いつもお世話になっているから協力することに力を惜しむつもりはないが…それでも解せないところがある。
「…わかりました。先輩にはいつもお世話になっているので俺でいいなら協力します…が、なんで俺なんですか?先輩の彼氏候補ならもっとイケメンとか、いい人が沢山いると思うんですが…?」
「それは…先ず私が信用できる人じゃないと頼めないからなのと、私の彼氏のふりをしてくれると言うことは、必然的に私と一緒に過ごすことが増えるって事だから…一緒にいて楽しくないと駄目でしょう?」
「そ、そうですね?」
「それにその過程で、頼んだ人が私の事を好きになられると困るから…半端な男性には頼めないのよ。その点、後輩君からは他の男性と違って、私と話している時に下心を感じないから大丈夫かなって思ってね。…後は迷惑をかけても問題なさそうだし、うふふっ」
「最後の一言は余計っすよ!」
一条先輩は俺に対して説明を終えると、最後はいつもの様に俺をからかって笑いながら理由を説明してくれる。
何か小っ恥ずかしい事を言われた様な気がしたが、とりあえずスルーしておこう。
「理由も分かりました。なので正式にその話をお受けさせていただきますよ、一条先輩」
「う、嬉しい…!ありがとう………秀君♪」
「しゅ、秀君!?」
急な下の名前呼びに俺が驚くと、先輩が妖艶な小悪魔の様な笑顔でからかってくる。
「そうよ?今から私たちは仮とは言えカップルになるんだから、下の名前で呼ぶくらいはしてくれないと…ねっ♪ ほら、秀君もお姉さんを「棗」って呼んでみて?なっちゃんとかでも良いわよ?」
「そ、それは…」
「ほーら、はーやーくー♪」
「うぐっ……な、棗…さん…」
「はい日和った〜うふふっ、まぁ今はそれでも良いわ?おいおい、ねっ?」
俺が全力で照れているのに、一条先輩はいつもの様に余裕そうな笑みを浮かべている。…なんか悔しいな。慣れてるからってのもあるんだろうけどさ?
気がつくともう図書館が閉館する時間になっており、俺たちも帰る準備を始める。
「じゃあ帰ろっか?秀君、あっ連絡先も交換しとこっか?何があるかわからないしね」
「は、はい棗さん…あっ、忘れてますよこれ…――――――うぐっ!?」
俺が先輩にあげた栞を先輩に渡そうと栞に触れると、またあの頭痛が襲って来た。
「あっゴメンね?せっかく貰ったのに…ありがとう♪………秀君?どうかしたの?」
「………いえ、何も無いですよ。そうだ棗さん、帰り棗さんの最寄りまで送っていきましょうか?」
「えっ?い、良いの?」
「ええ、勿論です。今後も何かあったら言ってくださいね?」
「う、うん…ありがとう…秀君………」
そんな会話を棗さんとした後、俺は棗さんに栞を渡してから棗さんの最寄駅まで送り届けた。
俺が見たあんな未来には絶対にさせないと誓うと共に、俺も恥ずかしがることをやめた。
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