第20話 切り替わる運命
「あぁ!?誰じゃいお前!」
俺が瀧川の家に入ると、ハゲの厳ついオッサンが睨みを効かせて俺の前に立ちはだかる。
俺はそのオッサン達を見た瞬間、感情が昂ぶりカバンを握り締める力が強くなったが、深呼吸をして気分を落ち着けてから冷静に話を始める。
「初めまして、俺は瀧川の大学とバイトの先輩の永井と言います。さっき言った様に瀧川の借金について俺から話があるので聞いていただけますか?」
「はんっ何を言い出すかと思えば…ガキが他所の借金の話に首突っ込んでくるんじゃねぇ!それに金額の事知ってんのかぁ!?ガキのお前が払える様な金額じゃ――――」
「一千万円ですよね?知ってますよ、俺は金額を知った上でここに来ているんですから。じゃあお邪魔させて貰いますね」
「なっ…!?お、おい!」
俺が鋭い目をそのオッサンに向けてから奥に見えているリビングに入り、一か八かの心境で目的の人物を探して歩いていく。
リビングに俺が入ると拘束されている瀧川とご両親、そして一人を除いて全員が驚いた顔をして俺を見ていた。
「セ、セン…パイ……?」
俺を見た瀧川がうわ言の様に俺を見て何かを言っていたが、ここでの事は後で瀧川の記憶からから消す予定だったので、聞こえないフリをしてから俺は目的の人物の前まで歩いて行く。今俺がやってる事って不法侵入だしな…
「なんやぁ?兄ちゃん。迷い無く俺の方に歩いて来て…それに手に持っとるもんも兄ちゃんにはアンバランスやのぉ…。まぁええわ……話は聞こえとったで。借金の話でなんかワシに言いたい事があるらしいなぁ?」
「はい。借金は一千万円で間違い無いんですよね?」
「せや。ワシらはそれを回収する為に今ここに来とるんや。…まぁ現物が回収できんかったから今からその二人を連れて行くとこやったんやが………それで?わざわざ先輩なだけの兄ちゃんは何しに来たんや?」
「…それじゃあこれでその借金はチャラに出来ますよね?」
俺はギリギリ間に合った事を安堵しつつ、リーダー格のオッサンの前に手に持っていたケースを開けて中を見せる。
俺が開けたケースの中には、びっしりと一万円札の束が詰められていた。
「…ほお?………おい、確認せぇ」
「へ、へい!兄貴!」
中身を見た兄貴分のオッサンは目の色を変えつつも、近くにいた他のオッサンに札束の確認をさせている。
そうして指示したオッサンは俺の方に向き直り、射抜く様な視線で質問を始めた。
「この金はなんで出して来たんや?お前は当事者やないやろ」
「そうですけど…単純に俺の自己満足です。瀧川に居なくなられると俺が困るので」
「ほぉ…?まぁええわ。そんで?なんで兄ちゃんみたいな若いもんがこないな纏まったもんを持っとるんや?」
「祖父の遺産ですよ。今の今まで使い道も、使う予定も無かったので」
俺は目の前にいる、白いスーツに身を包んだ明らかに他のオッサンと雰囲気が違う人からの質問に冷や汗をダラダラと垂らしながら答えて行く。
そうこうしていると俺が持って来た金がきっちり一千万である事と、全て本物の現金であることが分かったとさっきのオッサンが戻って来た。
すると目の前の白スーツのオッサンが再び口を開く。
「…最後にもっかい聞いとくで?この金をこんな風に使っていいんか?そんでなんで赤の他人の為に兄ちゃんが金出すねん」
「…後悔なんてありませんよ。寧ろこういう使い方がこのお金の正しい使い方だと思ってます。それにさっきも言いましたけど、単なる自己満足です。今ここで瀧川が俺の横からいなくなると俺が困りますし、これから何が起きるのかを知ってしまった以上、放っておくのも気分が良くないので」
俺が冷や汗をかきながらも目を逸らさずにしっかりと意見を伝える。
「……おいあれ持って来い。それとそいつら放してやれ」
「へ、へい…」
すると他の連中に指示を出し始め、瀧川一家が解放される。そしてリーダーのオッサンの元に数枚の書類が渡され、そのうちの一枚が俺の前に置かれる。
「お前さんの金でこの家の借金は返金してもらった。晴れて借金完済や、おめでとさん。ほな撤収するで〜」
そういうと、椅子から立ち上がり俺の持っていたカバンを持って出て行こうとする白スーツのオッサン。しかしさっき瀧川を拘束していたオッサンが異議を唱え始めた。
「ま、待ってくれよ兄貴!いいんですかい!?そんな信用できない様なガキの金を回収して!出所もわかったもんじゃないでしょう!ここはやはり予定通りこの二人を持ち帰って――――」
「……聞こえんかったんか?撤収や、さっさとせぇ。それに上からの指示はあくまで金の回収や。身柄の回収やない。お前の感情で物言うなアホが」
「っ!?…は、はい………(クソガキがっ…!)」
「……もうワシらはこの家にも兄ちゃんにも干渉せんから安心しな。ほなな」
そう言い残すとオッサン達は何事もなかったかの様に瀧川の家から姿を消し、リビングには俺と瀧川の家族が取り残された。
「(こ、怖かったぁぁぁぁ!!!何だよあの圧力!!!漏らすかと思ったわ!!!)」
緊張の糸がほどけた俺はフラフラとしながらもしっかり立ち、万が一に備えて構えていた力を抜く。
俺が見た映像の中に居た話の通じそうな人と話すという最大の賭けに勝った俺は、安堵の息を漏らしながら俺が見た未来の事を思い出す。
俺が見た映像は美涼の時と同じ様に悲惨なものだった。そこには救いも希望もなく、ただただ瀧川が不幸な目に遭っている事を他人が汚い欲望をぶつけ、悦んでいるというまさに地獄の様な映像だった。
俺が今ここで未来を変えなければ、瀧川はあの連中に連れて行かれて数年間水商売で強制労働させられることになっていた。
その未来は美涼の時の様なヘドが出る悍ましいもので、俺が見た最後の結末は身も心もボロボロになり明るさのカケラもなくしてしまい、何もかも最悪な方面に変わってしまった瀧川が数年後に一家心中を起こし、この世を去ってしまうという重過ぎるものだった。
流石に何かの冗談かと正確さを疑ったが、その映像を見た瞬間美涼の時の様に頭が割れる様な頭痛がそれが遠くない未来である事を証明していた。
「(取り敢えずこれで瀧川は助かったんだよな…?良かった…流石にあんなの見たら爺ちゃんの残してくれた遺産を使わざるをえなかったからな…俺のじいちゃんも『この金はお前の為じゃなく、大切なものに使え!』って遺言を残してたくらいだし、この使い方で間違ってないだろ…まぁ半分俺の為だけどさ…?)」
俺が一人で色々考えながら瀧川の方へと向き直ると、ドンっと俺の胸に何かが突っ込んで来た。
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