第19話 絶望の中の光 side:瀧川奈緒
センパイと話した次の日…遂にこの日が来てしまった……
一千万円を用意出来なかった私の家族は、今日でバラバラになってしまうだろう。そして私はもう二度と明るく振る舞えないような…そんな未来が待っているような気がする。
結局夜逃げは出来ず、今私たちはリビングで机を挟んでニヤニヤとした5人ほどのおじさんたちと対面している。
私は昔から明るさやポジティブなところが目立っていた。それは中高校生になってから拍車がかかり、ギャルの友達とも毎日楽しい学生生活を送れていたと思う。
今通っている大学やバイト先でも、その持ち前の明るさでみんなを励ましたり、元気付けたり楽しませたりする事が私の役割だ。
当然私のその明るい性格は生まれ持ったものだけど…昔一度だけ私が暗い面をクラスメイトや友達に見せた時があった。
小学生の時に飼っていたハムスターが死んでしまった日だったけど…その日は心配されると共に、明るく無い私が変だとみんなが口々に言っていた。
それ以来私は他人に暗い面を見せないようにして、落ち込む事や悲しい事があっても誰にも暗い面を見せないように……いつしか明るい感情を暗い面にも塗りつけて過ごすようになってしまった。
でも私だって人間だ。今の私の心のように悲しい事や辛い事があれば、気分が落ち込んでポジティブではいられなくなってしまう。
それでも今日の今日まで明るい仮面を被り、みんなが求める理想の明るい瀧川奈緒を演じていた。
『こんな夕方の繁華街に一人…それにさっきのおっさんが言っていたお金の話…本当に散歩か?………人には言えないような何かがあるんじゃ無いのか?』
しかしそんな私の塗り固めた感情を見透かすように声をかけてきた大学とバイト先の先輩――永井センパイには何故か見破られてしまった。
そこで私の中にあった不安や悲しみ、恐怖などの何処にも出せなかった感情がぐちゃぐちゃに混ざり合い、遂に抑えられなかった感情をセンパイに話してしまった。
私の話を聞きながら見てくるセンパイの目は、今まで見てきた同年代の男の人には無い純粋な心配で満ちていた。初めて見るセンパイの優しい表情に、この人はこんな顔で人のことを心配出来る優しい人なんだと初めてセンパイを意識した。
今考えると何故センパイは私の嘘を見抜けたのか、何故私はセンパイに話をしたのか……――いやセンパイに話したのは、センパイが頼りになる人だからだ。
もしかしたらセンパイならバイト先のトラブルを解決する様に、スムーズに私のこの問題を解決してくれるんじゃ無いかって……ありえない希望をセンパイに向けていたからかな…。
「じゃあ早速借金の話しましょかぁ?瀧川さん。一千万、用意出来ましたかぁ?」
私がそう昨日のことを振り返って現実逃避していると、リーダー格の強面のおじさんが話を始める。
「……出来て…いません。しかしもう少し!もう少しで一千万円集まるんです!どうか…もう少しだけ待って頂けないでしょうか!」
「それは出来へん相談ですなぁ…瀧川さん。ワシらも事情が変わりましてなぁ…今日中に全額、もしくは母娘を回収しろって上から言われてますんやわ」
「…で、では自己破産を――「して貰ってもええですけど…この辺最近物騒ですからなぁ…可愛い娘さんや奥さんに何も無いとええですなぁ?」
そう被せるように言って脅しをかけてくるおじさん。…この人たちが違法な手口で私たちからお金を回収しようとしていることはわかってる。でも精神的にも物理的にも追い詰められている私たちには、今更どうすることもできない…。
「くっ……」
「話戻しましょか。金が用意出来てなかったら代わりにそちらの奥さんと娘さんに働いて返して貰う話でしたなぁ?…じゃあ予定通りお二人を回収させてもらいましょか。おいお前ら」
「ま、待ってくれ!金は必ず払う!悪いのは俺で、妻と娘は何も悪く無いんだ!」
「うるせえな!!!」
「ぐはっ……!」
「貴方!」「パパ!」
私たちにいやらしい目で近寄ってくるおじさんに対して立ち上がり、道を阻んだパパは殴り飛ばされてしまった。
「い、いや!放して!!」
「そんな事言うなよぉ〜奈緒ちゃん♡ 俺は今日をめちゃくちゃ楽しみにしてたんだぜぇ?」
パパを殴り飛ばした後、私の腕をこの前来ていたおじさんに掴まれてしまった。私は必死にもがくが、私の力では男の大人の腕を振り払う事は出来ずに羽交い締めにされてしまう。
「へへっ…やっとだ、やっとこのいやらしい身体を好きに出来るんだなぁ…じゃあ向こうについたら研修を始めようかぁ?奈緒ちゃん♡」
私を拘束した後、後ろから私の髪や身体を嗅ぎながら胸を揉んでくるおじさん…。
私の目の前では他の人に拘束されているママと、泣きながら「やめろ!やめてくれ!」と叫びながらも抑え付けられているパパがいる………
(嫌だ…助けて………助けてっ!永井センパイっ…!こんな所で私……っ!!)
今の無力な私が涙を流しながらそう強く願うと…ドアを開ける音と共に私が助けを願った人物が、大きなケースのようなものを持って家に入って来た。
「お邪魔します。今のこの状況の…借金の返済について俺から話があります」
そう言って私たちの前に突然――私が助けを願った永井センパイが現れた。
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