第18話 事情
「…何って散歩ですよセンパイ〜!奈緒だって一日中家にいるわけじゃ無いんですよ〜?」
俺が向き直った瀧川に問いかけると、俺がいつも見ている瀧川とはズレのある空元気な笑顔を貼り付けて誤魔化そうとする。
「こんな夕方の繁華街に一人…それにさっきのおっさんが言っていたお金の話…本当に散歩か?………人には言えないような何かがあるんじゃ無いのか?」
「――っ!?」
俺が核心を突き瀧川の目を射抜くように見ながら問うと、みるみるうちに瀧川の顔が暗く曇った表情になっていく。
「本当は…違い……ます………センパイ………私…もうどうしたら………このままじゃ私の…家族が………」
俺に核心を突かれた事でギリギリの淵にあった瀧川の心が決壊したのか、自分の上着の下の部分をギュッと握りながら俺の前でポロポロと涙を流し始めた。
「お、おい!?どうしたんだよ!?」
突然涙を流し始めた瀧川を連れて、俺は取り敢えず繁華街から抜けようとしたその時…瀧川の服に触れると、俺の頭の中に強烈な痛みと共にアレが流れ始める。
「(………そういう事かよ…クソッ……なんだってこんな事になる未来が見えるんだよ…!)」
その一瞬で頭の中に入って来た最悪な未来の映像を見て俺は事情を認識はしたが、詳しいことを聞くために俺は痛む頭を抱えながら瀧川を近くの公園へと連れて行った。
◇
「ほら、コレやるよ瀧川」
「センパイ…ありがとうございます…後急に泣き出してしまってすみません…」
「気にしなくていいさ…それで?一体何があったんだ?急に泣き出して…」
瀧川の家の近くにある小さな公園に俺たち二人は並んでベンチに座る。なんとか落ち着きを取り戻し、暗い顔をした瀧川に何も知らない
あのポジティブの塊のような瀧川がこんな顔をするなんて…
先ほど瀧川の身に何が起こるのかの最悪の未来が見えてしまったが、それまでの経緯を知らなければ俺が見てしまった未来を変えることはできないし、【時間停止】や【記憶操作】も使うタイミングが事後の対応になってしまう。
それは俺としても気分が良く無いし、美涼の前例がある以上記憶の操作も完璧とは言えないだろう。
瀧川は俺が買って渡したお茶を遠慮がちに一口飲んだ後、事の経緯を徐々に話し始めた。
「…センパイはいつから奈緒の様子がおかしいと思ってたんですか?」
「確信したのはつい数日前だ、お前が過労で倒れるちょっと前だな。でもその前から違和感はあったぞ」
「そう…ですか……困ったなぁ…センパイには奈緒の空元気がバレてたんですね…」
あははと力無さげに弱く笑う瀧川。いつも弱さを見せないようなコイツがこんな顔をするまで追い詰められている事は一体……
「…明後日、私の家に借金取りが来るんです。その借金はお父さんの昔の友人…の人が残した借金なんですけど…お父さんが連帯保証人にサインしていたんです…そしてその人が数ヶ月前に消息を絶ったから私達の家族に…取り立てが来るんです…」
そうポツリポツリと小さく話し始める瀧川。
「本当なら期限がまだ先の筈だったんですけど…今日の昼、急に取り立て期限を明後日にするって……でもまだまだ金額が足りてなくって…このままだとパパもママも私も……」
そういって悲しげな表情でまた俯いてしまう瀧川……なるほどな、そういうことだったのか。
それなら数ヶ月前から忙しなく瀧川が働き始めていた謎が解けるというものだ。
…それにしても明後日がタイムリミットとは…思っていたよりも状況が芳しく無いようだ。先ほど俺が見た未来はおぞましく、瀧川家の全員の破滅の未来しか待っていなかった。
「…それで?今いくら手持ちにあって、目標の金額はいくらなんだ?」
「…今の手持ちはパパやママがかき集めて七百万円くらいで……必要な金額は一千万円です」
一千万……途方も無い金額だな…とても一般家庭がポンと払える金額では無い。
俺が話を聞いてとある事について考えていると、瀧川が立ち上がりまた貼り付けたような笑顔で俺を見つめる。
「…センパイ、今までお世話になりました。センパイだけじゃ無いですね…店長や同僚の人達も…でしたね。…大学も退学します。そうしないといけないので…」
「お、おい急に何を――」
「もう無理なんです。とてもあと三百万円なんて…明後日までに用意できませんし…大人しく借金返済の為に風俗で働く覚悟を決めます。こんな形で初めてを迎えるなんて…覚悟を決めたとは言え、慣れるまでは引き摺ってしまいそうですけどね…ではセンパイ、今までありがとうございました。さようなら…」
「おい!瀧川!」
俺にそう言い残すと、瀧川は走って家に帰って行ってしまった。
取り残された俺は頭を抱えながら、瀧川の問題を解決する方法を考える。
「くそ……いやまだ時間はある。それにあれを使えば…瀧川を助けられる」
俺は先ほど見た未来の映像を迎えさせない為にも必死に助ける手段を引っ張り出す。あんな未来を何も悪く無い瀧川家が被るなんて…俺が許せない。
瀧川を助けることを決意した俺は、昔のとある人物が言っていた言葉を思い出す。
『いいか?秀坊…コレはお前が本当に必要な時に使え。お前にならコレを渡せる。しっかり持っておけよ』
そう言って押し付けられたもの…ここで使えそうだよ爺ちゃん…。
「(それに瀧川にいなくなられると色々困るんだよ!…待ってろ瀧川…なんとかしてやるからな)」
俺は瀧川が走り去った方向を一瞥した後、自宅に保管しているものを取り出す為に帰宅の足を早めた。
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