第17話 変わりはじめる日常と目撃
瀧川を送り届けた週明けの次の日。俺はいつもの様に講義室で項垂れながら、三枝と共に朝の講義の開始を待っていた。
耳をすませてみると先日の事件で三谷先輩とその取り巻きがした悪事が大学でも広がり、聞こえてくる話題のほとんどがその話だった。
その事もあってか、今日は美涼より早く来ていた美涼の友人たちに朝一から謝罪を受けた。
俺としてはああなって当たり前のことをした自覚はあるので、謝罪は受け取りつつも早々にお引き取りしてもらったけど…
「おいおい今日も項垂れてんのかぁ永井!」
「朝からうるさいぞ三枝…寝かせろ」
「まあ聞けって!噂のあのニュース!いっつも来てた三谷の野郎!最低なクズだったらしいぜ。何人も女の子にヤベー事して暴力で黙らせてたらしいし…人は見かけによらずにこえーよな。そのせいで大学も退学になったらしいしな!ザマー見ろってんだ!」
その事なら俺が一番知ってるよ…警察に突き出したの俺だし、そうさせたのも俺だからな。
横で騒いでいる三枝を顔をあげて横目で見ていると、講義室の入り口の方が若干騒がしくなったので目線を向ける。するとそこにはいつもと変わらない……いやいつもよりちょっとオシャレ度が上がった美涼が講義室に入って来た。
いつもの様に多くの人に囲まれている様子の美涼。…結果的に助ける事は出来たものの、本当にギリギリの救出だった。
美涼とは助けた時に少し話した。しかし事件の事も…何より未然に事件の全てを防げなかった負い目もあり、今すぐ美涼に話しかける事は俺には難しかった。
美涼とは昔の様に仲良くはなりたい。しかし俺が今ここで当たり前の様にあの輪に入って行く方が不自然だし、何よりそんな勇気は無い。
(それに俺が変に突くと美涼の記憶が戻って嫌なことを思い出すだろうし…メンタルチェックも兼ねて暫くは遠くから様子を見て、話しかけるチャンスでも見計らうか…)
俺がまた机に突っ伏して目を閉じると、横で騒いでいた三枝がなぜか動揺しはじめる。
「やっぱ顔だけのイケメンはダメだって話だよなぁ!やっぱ俺みたいに中身もイケメンじゃない………とぉ!?…えっ!?えっ!?な、なんで!?」
俺の横で騒ぐ三枝に煩わしさを感じていると…俺の机の前に誰かが現れ、ふわっと俺の上に向いている耳元に近づき、声をかけてくる。
「おはよう秀人…ふふっ…朝が弱いのは昔から変わってないから今日も眠そうだね」
「…んえっ!?」
驚いた俺が顔を上げると、ニコニコと優しい笑顔をした美涼が立っていた。
…おかしい、今までであれば美涼が俺に対してアクションを起こす事は無かったはずだ。
現に俺に対しての美涼の行動で、教室中が驚いた顔をしながら俺たちを見ていた。
「な、なんで俺に挨拶なんか……」
「え?ダメだったかな………?」
「い、いやそういう訳じゃ………おはよう美涼」
「うん!おはよう秀人♪」
俺が驚きながら美涼の顔をみていると、どんどんと美涼の顔が悲しそうになっていったので、俺は慌てて挨拶を返す。
すると美涼の顔はパッ綺麗な花が咲いた様な笑顔に戻り、しかし次の瞬間には真剣な顔で俺に頭を下げてくる。
「改めてこの前はごめんなさい。そしてありがとう……秀人が助けてくれなかったら私…。と、とにかく今日はそれを言いに来たの。あとまた私と仲良くしてくれると嬉しいな…。じゃ、じゃあね秀人」
そう恥ずかしげに頬を赤らめて俺に言い残すと、美涼はいつものグループに戻っていった。
(おかしい…俺は確かに美涼の記憶を消したはず…それなのになんで…?)
俺が一人恥ずかしさやら記憶の変更が上手くいっていなかったことやらで混乱していると、横で固まっていた三枝が俺を掴み上げてくる。
「おい永井ぃ!!!お前宮藤さんとどういう関係なんだお前ぇ!!!」
「ちょ、待てって今それどころじゃ…」
「それどころだろうが!!!!!さぁ吐け!どういうことか説明しろお前ぇ!!!」
そんな三枝の叫びで教室中も時間が動き出したかの様に騒然とし始め、美涼の周りの人たちも美涼に対して興味津々に話を聞いている。
しかしそんな騒動を抑え込むかの様に教授が教室にやって来たため、俺はひとまず三枝から解放された。
◇
「じゃあ今日はお先に失礼します〜……」
「お疲れ様、永井くん!また頼むよ!」
あの後大学では一日中三枝や同じクラスの連中に追いかけ回され、なんとか逃げ切った。
その後俺は普段通りバイトを終わらせ、バイト先から自宅に帰宅しようとしていた。
…それはそうと時間停止をちょこちょこ混ぜなかったら捕まっていたと思うほどに、あいつらの執着は凄かった。トイレの個室の上から入って来られるとか怖いってマジ……どこのホラー映画のワンシーンだよ………。
「今日は流石に瀧川も休んでたな…にしてもなんで美涼の記憶が消えてなかったんだ……?夜にシロネさんにでも聞いてみるか…」
夕暮れに染まる街を俺は今日のことを振り返りながら歩く。そのまま駅に行き、電車に乗って帰ろうとすると…駅近くの繁華街の入り口で見知った顔を見つける。
「あれは…瀧川…?こんなとこで何してんだ?」
俺が近づくと私服に身を包んだ瀧川が、何やら小太りで中年のおっさんに声をかけられている様だ。
「い、いえでもやっぱり私……そういうことした事ないですし…」
「大丈夫大丈夫!君は可愛いからね…お金に困っているんだろう?おじさんがお金をいっぱい払ってでも、ちゃんと教えてあげるからさぁ…さっホテルに行こう?ぶひひ…」
「…っ!い、いや!やっぱり放してください!」
「お、おい!今更抵抗するな!!!さっさとこっちに来い!」
「い、嫌ぁ!!!」
知らないおじさんに瀧川は腕を掴まれていて、ホテル街に連れて行かれそうになっていた。
そんな瀧川とおっさんの間に俺はスッと入り、瀧川の腕を掴んでいたおっさんの腕を捻りあげる。
「いででででで!な、何をする!誰だお前は!!!」
「…えっ?セ、センパイ!?」
「俺が誰でもいいだろおっさん。人の後輩を無理やりホテル街に連れて行こうとしやがって…こいつはまだ未成年だぞ?今すぐ通報してやろうか?」
「ひっ!?そ、それは勘弁してくれ!」
おっさんは俺の言葉にビビったのか、腕を放すと一目散に何処かへと逃げていった。
「…んで?お前はこんなところで何してんだ?瀧川」
俺は後ろに立っていた瀧川に事情を聞くことにした。
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