第14話 働く理由
「お疲れ様でーす永井センパイ!今日はシフト通りの出勤ですねっ!」
「あぁお疲れ、瀧川…お前今日も出勤してたんだな。昨日休めって言ったろ?」
「あはは…明日!明日は休みますから!そんな顔しないでくださいよ〜」
未来視をしてしまった次の日の昼。俺がシフト通りにバイト先に出勤すると、当然のように出勤していた瀧川に微妙な顔をして話しかける。
昨日瀧川を観察しながらバイトをしていたが、昨日瀧川は問題無いように働いていた。
しかし未来視が発動した以上、瀧川が近い未来にこの店で倒れることは決まっているようなものなので、俺は警戒を解かずに今日も瀧川を観察するつもりだ。
「…明日は俺が店長に掛け合って休みにするからな。他のバイトもしてるならそっちも休めよ?」
「わ、分かりましたよぅ…まぁ一日くらいなら……」
そう言って肩を落としながらバックヤードから店に出ようとする瀧川の後を俺もついていく。
「っ!?おい瀧川!大丈夫か?」
「…っとっと…やだなぁ永井センパイ、そんなに大声出さなくても少し足をたまたま踏み外しただけですよ〜」
「やーだなぁセンパイったら過保護〜」とからかうように笑いながら言って、先を歩いていく瀧川。俺たちが通路のちょっとした段差を通過するときに足を踏み外し、瀧川がバランスを崩してよろけていた。
…本人は隠しているように言っていたが、あれは疲労から来る足の崩れ方だろう。
「なぁ瀧川、お前やっぱり休んで……」
「いらっしゃいませー♪何名様ですかー?」
俺が瀧川を下がらせようとすると、既に瀧川はお客さんの対応をしていて俺の声が届くことはなかった。
(………まぁ気にしてやって助けてやれば良いか…店長にも言っておこう)
俺はそのままバックヤードに戻り、奥にいた店長の元へ歩いて行く。
「お疲れ様です店長。ちょっと今いいですか?」
「お、お疲れ様〜永井くん。昨日はありがとうね、それで?何か僕に用かな?」
「はい、瀧川の事なんですが…アイツめちゃくちゃ疲れてるみたいで…暫く休ませてやってくれませんか?代わりに俺が入るんで」
「やっぱりそうだよねぇ…僕も瀧川さんには「これ以上出勤できないよ!」って言ってたんだけど…どうしてもって言われてね…。ここ数日は休憩の時間も頻度も増やしていたんだけど、やっぱり休ませてあげないとね……瀧川さんは暫くお休みにするよ」
「ありがとうございます店長。それと今日アイツが疲れにくいように俺に仕事多めに振って貰っていいですか?」
「…分かった。その代わり僕も一緒に瀧川さんの分の仕事を、永井くんや他のバイトの子と一緒に消化しよう。永井くんにも瀧川さんにも今までたくさん働いて貰ってるからね」
「!…ありがとうございます」
「いいんだよ、それにしても永井くんは相変わらず優しいんだねぇ…この前も他のバイトの子のミスをカバーしてたし、昨日も突然だったのに来てくれたしね」
「…優しいとかそんなんじゃないっすよ」
「ハハハハハ!永井くんは不器用だねぇ。さてとっ!おじさんも頑張ろうかな!」
俺にそう言って店長は椅子から立ち上がり、店の方へと歩いて行った。…おじさんって言ってもまだアンタぎり20代だろ…
それになんだかんだ店長も良い人だ。瀧川の連勤も店長の本意じゃ無かったんだろう。
「俺も頑張るか」
俺も更衣室で着替えてから仕事に取り掛かることにした。
◇
あの後俺は馬車馬のように働いた。しかし週末という事もあり、夕方になるほど客足は増えて行く。
昨日よりマシとは言え、酔っ払いに絡まれると体力が削られる…
「永井くん!今のうちに休憩入っちゃって!」
「了解です!休憩入りまーす!」
俺が店の奥に引っ込み、バックヤードにある休憩室に入ろうとすると中から声が聞こえる。
「どうしよう…今月も足りない……掛け持ちしてるところからも休めって言われてシフト入れないし…でも流石にこれ以上バイト増やせないし……どうしよう…」
俺がそっとドアの窓から中を覗くと、中には瀧川が1人で頭を抱えながら悩んでいた。いつもの明るい太陽の様な笑顔とは違い、切羽の詰まったその表情は悩み事の重大さを物語っている。
「それに頭もぼーっとするし…身体も重いし…もっと働かないといけないのに…」
瀧川が何かに悩んで独り言を言い終えたタイミングで俺は休憩室に入る。
「……あっ…お、お疲れ様です永井センパイ♪センパイも休憩ですか?」
俺が休憩室に入ると、瀧川が取り繕うようにいつもの笑顔で俺に声をかけてくる。
…空元気が見え見えじゃないか。
「なぁ瀧川…何かあるのか?お金が必要な理由が」
「……なんのことですか?」
「扉の前から聞こえてたんだよ。掛け持ちしてるバイト先からも休めって言われるくらい働いてるって……」
「…大した事ないですよ〜!それに昨日も言ったじゃないですか!女の子は出費が嵩みますし、それに加えて今月遊びにめちゃくちゃお金使っちゃいまして…そのせいで今月ピンチってだけですから、気にしないでください!…あっ!そろそろ休憩終わりなので失礼します!」
そう言うと瀧川は俺とすれ違うように店の方へと歩いて行った。
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