第12話 消えた記憶 side:宮藤美涼
「本当にお世話になりました!何とお礼を言えば良いか……」
「…ありがとうございました」
「いえいえ本当にご無事でなによりです。…現在は問題無さそうですが、何か精神的に不安定な事があればお近くの精神科を受診して下さい」
そう言って私を助けてくれたイケメン警察官のお兄さんを背に、私たちは警察署を出た。
昨日の夜、私はどうやら三谷先輩に誘拐され…人気の無い廃ビルに連れて行かれて犯されそうになっていたところを間一髪で警察官の人達が私を保護してくれた。
警察の人の話では三谷先輩と後二人は叩けば叩くほど、あくどい証拠や被害女性の数が大量に出て来たらしく大学は退学になり、今後正式に逮捕されるそうだ。
日を跨いだ今日、私の事情聴取や精神的な鑑定を受けて今解放された。昨日は友達やお父さんにもお母さんにも心配と迷惑かけちゃったな……
「本当に無事で良かったわ……美涼………」
「ごめんね…お母さん……お父さん……」
「…お前は気にしなくて良い。寸前に警察の人に助けて貰えて良かったな」
「本当警察の人達は謙虚な人達だったわね…『自分たちは突入しただけで実際には何も起こっていませんでした』なんて……お母さん美涼の身に何かあったと思うと………」
「………」
「取り敢えず今日はゆっくり休みなさい?辛い事があったら何でも言ってね?」
そう言って私を乗せた家の車が走り出し、私は昨日の事を何度も思い出す。
(なんだろう…何か大切な……忘れちゃいけない事があった気がするのに…)
『…涼を……!お前………!』
誰かの声が頭に残っているのに、その声が誰の声なのかが思い出せない。…私にとってとても安心する声で…唯一無二の誰か……
その事を考えていると、いつの間にか車は家の近くまで帰って来ていた。
(ん……?あそこって確か……)
私はその道中、売りに出された更地の場所を見つける。…確かあそこは……?
「美涼?着いたわよ?」
「…え?あぁうん…ありがとうお母さん」
私はいつの間にかうちに着いていた車から降り、玄関に入ろうとした。
「あれ…?もしかして美涼ちゃん!?」
「え……もしかして薫お姉ちゃん!?」
「そうそう!薫お姉ちゃん!久しぶり〜!大っきくなったね〜!!」
そう言って私の頭を抱擁してくる薫お姉ちゃん。その騒ぎを聞き付けてお父さんとお母さんも「久しぶりじゃないー!元気してたー?」と盛り上がっている。
仁科 薫お姉ちゃん。今は名字が変わっているかもしれないけど、私の近所に住んでいた8個年上のお姉ちゃんで昔はよく一緒に遊んでいた。薫お姉ちゃんが地元の大学を卒業してから上京後は会っていなかったから、4年は会っていなかった事になるのかな。
「いつ帰って来てたのー薫ちゃん!」
「実は最近結婚しまして…それで地元に一旦帰って来たんですよ」
そう言う薫お姉ちゃんの左手の薬指には、綺麗に輝く指輪がはめられていた。
「あら〜おめでとう〜!折角だからお祝いも兼ねて今晩食べて行かない?……あぁでも美涼が…」
「うぅんいいよお母さん。私もそこまで悩んでないから」
「ん?何かあったんですか?お邪魔してもいいなら是非行かせてもらいますけど…?」
「うーんとね…詳しい事は中で話そうかな、薫ちゃんも今すぐじゃなくても大丈夫だけど?」
「いえいえ家族には連絡入れとくんで!おじゃましまーす!」
そのまま私と薫お姉ちゃんは家に入った。
◇
「えっ!?そ、そんな事があったんですか…最低ですね!美涼ちゃんを襲おうとするなんて!!!」
「そうなのよ…だから今日美涼にはゆっくり休んで貰おうと思っててね…でも美涼には薫ちゃんが話し相手でいてくれた方がいいのかしら」
正直自分でも分からないくらい落ち着いているから、お母さんもそこまで心配しなくてもいいんだけど…
逆の立場なら私でもそうするからお母さんの気持ちはよく分かるかな。
「うん、薫お姉ちゃんと晩御飯までちょっと話してるよ」
「そう?じゃあ薫ちゃんお願いしてもいいかしら?」
「任せてくださいッス!」
そう言ってお母さんは晩御飯の支度をする為にキッチンに入って行ったので、私と薫お姉ちゃんはリビングを出て私の部屋に行くことに。
「にしても美涼ちゃんが無事で良かった…本当に最低な奴らだね、そいつら!」
「……でも私も悪かったんです…盲目的に先輩に気持ちを寄せようとして…前々から危ない噂もあったのに真偽も確かめなくて…」
「…ちゃんと反省して自分の行動を改めようと思えてるだけ美涼ちゃんは立派だよ。これから気を付ければいいだけだからね。それに美涼ちゃんは可愛いんだから!もっと良い男がいるわよ!私の旦那みたいなね!……………良い男といえば…昔から一緒にいた彼とは今も仲良いの?」
「彼…?」
「ほら!昔から美涼ちゃんがベッタリだった秀君!彼も良い男だったわよね…もう美涼ちゃん以上に何年も会ってないけど…昔から優しくてね…秀君が同い年だったらお姉ちゃんも好きになってたかもね〜」
「秀人……………」
薫お姉ちゃんの言葉で、私の頭の中に何かが湧き上がるような物を感じた。
「あれ?覚えてない?昔良く3人で遊んでたじゃないの〜昔美涼ちゃんにいじわるしてた男の子5人に対して『美涼をいじめるなー!』って喧嘩して…顔に青痣が出来ても泣きもせずに5人とも追い払ってね…あの時の秀君はカッコ良かったわね〜懐かしいわぁ」
薫お姉ちゃんが懐かしむように昔話をしている中、私はそれどころではなく必死に何かを思い出そうとする事でいっぱいいっぱいだった。
「それにほら!昔美涼ちゃんがつけてた桜の髪飾り!あれも私が小学生の時に幼稚園児の秀君にあげたんだけど、それを美涼ちゃんにあげててね…今考えたら男の子にあげる物じゃなかったよね〜アハハッ」
「桜…髪飾り……秀人………」
『あの先輩に関わるのはやめておけ』
『あの先輩は優しいフリをした悪人で美涼の身が危ない』
私の頭の中で秀人に言われた言葉が巡る。…なんで秀人はあんな事を言ってたんだろう……いつも噂だけじゃそんな事言わないのに…?
「昔は薫姉薫姉って可愛くてね〜…って美涼ちゃん?大丈夫?」
「……えっ?ど、どうかした?薫お姉ちゃん」
「うん…何だか必死に何かを考えてるみたいだったから…お姉ちゃん戻った方がいい?」
「ううん、ちょっと秀人の事考えてただけだから…」
「…そっかそっか、美涼ちゃん昔から変わらず秀君の事が好きなんだねぇ…」
「ふぇっ!?な、なんで!?」
「だーってバレバレだよ〜?中学の頃からはあんまり見なかったけど、小学生の頃なんて秀君にベタベタでいっつも一緒にいたじゃない♪あれで分からない人はいないわよ〜」
…そんなに私って分かりやすかったんだ……あれでも必死に抑えてたんだけどな…。
「それにあんなに行動がカッコいい男の子が近くにいたら、誰でも惚れちゃうよね〜昔から美涼ちゃんが危なくなったら絶対に助けに行ってたし…ヒーローだよね!秀君は!」
「…うん、昔から秀人は私が困ってたら助けに…来て……くれて………?」
◇
『おい大丈夫か美涼……ってうわ!?』
『……なんで助けに来てくれたの?私あんなに秀人に酷い事言って頬っぺたまで叩いたのに………そんな最低で秀人が嫌いな女の事をなんで助けに来てくれたの…?』
『なんでって…大層な理由なんて無いけど……強いて言うと、大切な幼馴染が危ない目に遭いそうになってたら誰でも助けるだろ。昼の件はいきなりの事で俺の説明不足が悪かったし…それに俺が美涼の事が嫌いって…誰から聞いたんだよ』
『…ここまでだな。ありがとう美涼、久しぶりに話せて良かった。』
◇
「思い…出した……あの時私…秀人に助けて貰って………何で私あんなに大切な事を忘れて……そうだった…昨日も私のことを助けてくれてたんだよね…秀人……」
ギュッと胸の前で私は手を握り、秀人の事だけを考える。
私は普段ぶっきらぼうで、決して人に優しそうには見えないのに…本当に困っている時には絶対に助けの手を出してくれる幼馴染の顔が頭に浮かぶ。
そのことを思い出した瞬間に心の奥から暖かいものが込み上げてきて、笑顔になると共に…気がつくと私の目からは柔らかく暖かい涙が一粒二粒と零れ落ちていた。
「えっ!?えっ!?大丈夫!?美涼ちゃん!?辛い事でも思い出しちゃった!?」
それを見た薫お姉ちゃんが大慌てで私のそばに寄ってきてくれる。
「…大丈夫だよ薫お姉ちゃん。私今まで昨日あった大切な事を何か忘れてて…もう大丈夫。私は引かないって決めたから」
「そ、そう?どういう事かお姉ちゃんにはわかんないけど…でも確かに美涼ちゃん…さっきよりいい顔になったね…グッと可愛くなったよ?」
「…好きな人の事を思い出して考えてたから…かな?」
「っ!?…それってもしかして…!?」
キャーキャーとはしゃいでいる薫お姉ちゃんを前に、私はここにいない幼馴染に思いを馳せる。
(…まずは秀人にもう一回お礼を言わないとね…それから…まずは昔の関係性まで徐々に戻していこう…それから先に進んでもまだ遅くないよね?…やっぱり昔からのこの気持ちは忘れられない…大好きだよ
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