第10話 助けた代償
「「「がはっ!!!」」」
俺が時間停止を解除したと共に3人のクズ共は、後方の壁へと勢いよく吹き飛んでいく。当然だ、俺が時間を止めている時に助走をつけて殴ったんだ。吹き飛ばない方がおかしい。
「おい、何遊んでんだ。さっさとお前らのする事の準備しろよ」
「あぁん!?なんだお前!俺達が誰かわかってんだろうなぁ!?お前は絶対殺して……………はい、分かりました…」
先ほど下品に喚いていた筋肉ダルマが、血を鼻と口から出しつつ俺に噛みつこうとして来た。しかし記憶操作の力を意識しながら睨むと、効果が生きてきたのか3人とも急に態度が変わり、それぞれが決められたロボットの様に動き出した。
「はぁ……さて美涼は…」
アイツらは勝手に動き出したが、逃げるそぶりは全くなく周囲のカメラ機材やノートPCを操作して何かをしているのを確認してから、俺は美涼の元へと向かう。
…下着姿の事を意識しない様に視線をずらしつつ拘束をガラス片で切り、顔をうつむかせて震えている美涼を解放して上着を掛けてやる。
「おい大丈夫か美涼……ってうわ!?」
「うえぇええん………怖かった…怖かったよ秀人……ごめんなさい…ごめんなさいぃ!!!」
「ちょっ!?分かったから!ふ、服着ろ先に!!」
美涼に近付くと先ほどまでの恐怖が襲って来たのか、俺の腹に抱きついて顔を押し付けながらわんわんと泣き出してしまった。…全くこういうところも昔と変わってねぇな。
「…落ち着いたか?」
「…うん」
数分後俺の腹で泣いていた美涼が泣き止み、互いにそのままの体勢で話し始める。何故か服は着てくれなかったが…
「……なんで?」
「?」
「……なんで助けに来てくれたの?私あんなに秀人に酷い事言って頬っぺたまで叩いたのに………そんな最低で秀人が嫌いな女の事をなんで助けに来てくれたの…?」
「なんでって…大層な理由なんて無いけど……強いて言うと、大切な幼馴染が危ない目に遭いそうになってたら誰でも助けるだろ。昼の件はいきなりの事で俺の説明不足が悪かったし…それに俺が美涼の事が嫌いって…誰から聞いたんだよ」
俺がそう言うと、ばっと美涼が驚いた顔で俺の事を見上げる。
「大切……?嫌いじゃ無い…?…嫌いじゃ無いなら何で中学生の頃からだんだん話してくれなくなったの…?」
「そ、それは……」
一瞬はぐらかそうかと思ったが、俺を見上げている美涼の目が真剣でとても嘘を着く気にはなれなかった。
なので俺は気恥ずかしいが、本当のことを言う事にした。
「………美涼が段々と綺麗になって可愛くなっていったからだよ…。俺は美涼みたいに容姿は良く無いし、隣にいると美涼に色々と迷惑が掛かるからな…だから距離を取ってたんだ」
「綺麗…可愛……っ!?」
そう、中学生くらいから美涼は桜の花が開花した様に目まぐるしく綺麗になった。それは長年一緒にいた俺でさえ見惚れてしまうような美しさだった。
俺でさえそうなってしまうのだから、美涼を初めてみる人達がどんな反応をするかなんて火を見るより明らかだ。
最初は俺も美涼と共にいる事に抵抗は全くなかった。俺と美涼がいつも一緒にいる事で多少、男子からの嫉妬やそれが元の嫌がらせなどもあったが、俺としては虫が目の前を飛んでいる程度にしか思っていなかった。
しかし中学生のある日、偶々耳にした陰口が原因だった。
『宮藤さんってさ〜いっつもあのパッとしない陰キャといるよね〜?』
『だよね〜もしかして付き合ってるとか?』
『え〜無い無い(笑)あんなのが彼氏なんて終わってるわ〜。宮藤さんにはもっとカッコイイ人が似合うって』
『だよね〜いっつも見てて宮藤さんの横にいる陰キャが邪魔だよね〜あんなのじゃ宮藤さんの評判まで落ちちゃうよ。せっかくいい人なのに、あんなの横に連れてたらもったいないよね』
『んね〜…もしかしてアイツに脅されてるとかじゃない?』
『…無いとは思うけど、そうじゃ無いとただの幼馴染だからってずっと一緒に居ないよね…?』
その時俺は初めて美涼の邪魔になってる事に気がついた。今まで俺がけなされることは多くあったし、事実なので気にしていなかったが…俺のせいで美涼に迷惑がかかってしまうならいっそ………そんな気持ちで俺は美涼の横から去ったんだ。
「……んんっ………なにそれ」
「え?」
「私に迷惑がかかるって何?私が一回でも秀人が横に居て迷惑なんて言った事ある?」
「い、いや…」
「だったら…何も言わずに私から離れて行かないでよ……私てっきり秀人に嫌われて…そのせいで秀人に避けられてるんだって思って泣いてたんだからね…?」
「……悪かった」
少し怒ったような口調で詰めて来たと思ったら、次の瞬間にはまた泣きそうな声に戻っていた。
「…俺たち良く無いすれ違い方してたんだな」
「…ホントだね。私ももっと早く秀人に理由を聞いておけばよかったね。それと…もう一度ごめんなさい。私も勝手に誤解して、秀人の事を信じずにこんな事になって……それでも助けてくれてありがとう秀人………やっぱり私は秀人の事………」
ファンファンファンファン
美涼が何かを言おうとした瞬間に、外からサイレンの音が近づいてくる。さっき通報したパトカーかな。
「…ここまでだな。ありがとう美涼、久しぶりに話せて良かった。【
「えっ…?秀人…?」
俺は恐怖が残っているのかカタカタと震えている美涼に服を着せてから触れ、時間が止まり虚ろな瞳になった美涼の記憶に干渉する。
「…お互いの事情は分かったけど、ここでの俺との記憶が残ってると色々矛盾してくるからな…ここで俺と話した事は綺麗さっぱり忘れて貰おう」
俺は美涼の直近の記憶を削除し、俺との会話をなかった事にしていく。事件のことも徐々に記憶が薄れていくようにしておくか…
「…もうお前らも女性に怯えて暮らすのは確定だし、精々法の裁きをきちんと受けるんだな」
俺は部屋の隅に証拠映像と思われるものを持って突っ立っているクズどもを確認した後に足同士を切ったロープで拘束し直してやり、俺が最初からその場にいなかった事にする為に来た道を戻った。
そして少し離れた物陰で時間を動かしはじめる。
『動くな!全員大人しくして……あれ?』
『大丈夫ですか!?お嬢さん!もう大丈夫ですからね?』
『…えっ?私一体……?』
『…はっ!?なんで警察が!?お前ら逃げるぞって…なんだこれ!?』
『これは…っ!貴様らだな!?おい!こいつらを拘束しろ!』
『はっ!』
『クソ!離せ!!!』
中では複数の警官の突撃によりプチ混乱が起きているようだが…あいつらがやろうとしていた事も、今までやっていた事も事実だしな。
証拠も出させたし無罪放免って事はないだろう。
「さて俺も帰………うぐっ…ごほっ…げほっ……げほっげほっ……」
俺が全ての能力を解除し、帰宅しようとすると激しい頭痛に加え咳が出て来て…鼻を触ると鼻血が出ていた。
「………すぐに痛みが…ごほっ……引かないな…帰って寝れば治るかな…」
フラフラとした足取りで俺は自分の家へと帰ることにした。
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