第9話 捜索と突撃

 30分前…


「あれ?美涼がいねぇ…見失ったのか?…クソっ!ちょっと見てない間に!」


 あの事があった手前、美涼は俺のことを見る事もなく学部の講義が終わってしまった。俺は美涼が先ほどまでいたベンチの近くに来ていたが、そこには既に美涼の姿は無かった。


「どうする…あいつが行きそうなところなんて知らないし……ん…?コレって…」


 一人で美涼が行きそうな場所に思案を巡らせていると、ベンチの下に何かが落ちているのを見つけた。


「コレは美涼の鞄に入れた筈のアクセサリーか…ここに落ちてるって事はやっぱり…うぐ…うぁ………!」



『おんぎゃあ…おんぎゃあ……』


『………』


『み、美涼………?うぅ……何で…こんな事に……この子が一体何をしたの…?』


『お……母さん…』


『美涼!?言葉が…あなた!美涼が!』


『美涼!大丈夫か!?父さんと母さんはここにいるぞ!』


『ごめん……なさい………私が…悪かったの…』


『そんな事はない!お前は悪くない!悪いのはあのクソ野郎達だ!』


『あの時……秀人のことを信じていれば……うぅ……ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……っ!…うわぁぁあぁぁあぁ!!!』


 ガタガタガタガタッ!


『宮藤さん落ち着いてください!先生!』


『お父様お母様少しの間ご退出ください。至急薬の準備を!』



「……ぐぅ………はー…はー…い、今のは……?」


 俺の足元に落ちていたアクセサリーを拾い上げると、再び俺の頭に今朝よりも酷い頭痛と映像が鮮明に浮かび上がってきた。

 その映像は白い病室に病衣を纏って酷くやつれ、生気のなくなった顔をした美涼と、とても心配した様な顔をした美涼のご両親、看護婦さんと医者が一部屋に集まっていた。


 美涼は今と歳は変わっていない様だったが、美涼のお母さんの手には赤ん坊が抱かれていた。映像の中の美涼はその赤ん坊を見て激しく取り乱し、錯乱していた。


 …今朝の映像と今の映像を考えるにあの赤ん坊がどいつの手によって孕まされ、美涼自身が望まない出産をしたかなんて想像に難くない。


「…あの野郎……絶対に見つけ出してそんな事にはさせねぇ!!!」


 俺はそれを握りしめながら大学を飛び出し、人のいない道を当てもなく走り始めた。すると空から白い何かが俺と並走する様に飛び始めた。


『秀人殿!我だ、小さくなってはいるがシロネだ!』


「えっ?…シロネさんか。今俺は急いでいるんだ!何か用なら後にしてくれませんか?」


『心得ている、だからこそ我が来たのだ。詳しい事は後で話そう、貴殿には伝えられていない事も多い。とにかく貴殿が行きたいと願っている場所はここだ』


 走っている俺の頭にシロネさんが触れると、俺の頭の中にマップの様な場所が浮かび、少し離れた廃ビルの地点に赤いマークがついている。


「っ!?ここに行けばいいのか?」


『左様!ここに貴殿が探している宮藤とやらが監禁されている様だ。なので速攻で宮藤とやらを救い出し、再び合流しよう。ではまた』


 そういうとシロネさんは飛び立っていったので、俺は走りながら携帯を取り出し、思い当たる節を警察に通報した。


「間に合ってくれよ…美涼!」


 暫く全力で走り続けると目的の廃ビルが見えて来た。不思議な事に息切れこそあれど、自分の身体からスタミナ切れや身体の違和感などは無く最高速で目的地に辿り着く。


「何処だ?何処にいる?」


『いや…いやぁぁぁ!!!助けてっ!!!』


『三谷さんバカですねこいつ!せっかく騙されてるお前を助けようとしてくれてたのに、お前が拒絶して引っ叩いたらしいじゃねぇか。そんなクソ女を都合よくわざわざ助けに来てくれるやつなんていねーよ!ぎゃはははは!』


 俺がスピードを落とす事なく廃ビルに辿り着くと、一階の奥の方から美涼の悲鳴と奴らの下品で大きな声が聞こえてくる。


 …そんな都合のいいやつがここに居るんだよ!それに美涼がクソ女だと?アイツの気持ちは多少選択は間違えたかもしれないが、お前らの中では一番綺麗で輝いてるだろうが!


 俺はそのままスピードを落とさず、ひび割れそうになっていた大きな窓に突進して突入した。




 ガシャーーーン!!!




「美涼を離せ!お前ら!!!」


 中には下着姿で泣きながら拘束されている美涼の姿と、汚いゴミが三匹驚いた顔で見ていた。


「っ!?秀人!!!」


「テ、テメェ!何もん……」


「『時間停止ストップ』!!!」


 俺は飛びかかって来る奴らに有無を言わさず時間を止め、世界から色と音が瞬時に無くなる。


「はぁ…はぁ…間に合ったか……」


 息を整えながら周りを見ると、まだ襲われた形跡はなく…本当に寸前で止めることが出来たようだ。


「取り敢えずコイツらには痛い目を見せないとな…『記憶操作メモリー』!」


 俺は3人を並べてそれぞれの記憶を見ながら操作していく。


「…コイツらやりたい放題じゃねぇか…汚い記憶見せやがって…」


 3人ともの頭の中は口にするのも悍ましい行為が記録された、ヘドの出るものばかりだった。


「取り敢えずコイツら全員に女性に対してのトラウマを植え付けて…二度とこんなことが出来ないようにしておいてやるか。ついでに今までの女性たちにした行為を全て警察に証拠と共に提出する様にしとけばいいか…後は被害者たちと法からの裁きを受けて貰おう………それはそれとして…美涼に対してやろうとした事は事実だからな」


 俺は固く拳を握りしめ、時間停止解除と共に3人を殴り飛ばした。

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